表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

4:起動

一真はバックカメラから見える【甲士】の放った銃弾を回避するため、必死でハンドルを切り続ける。向こうもセンサーとメインカメラを破損しているので狙いは正確ではない。だが、その分予想もつけ辛い。

「ええ、今も追われてます。一応センサー類を破損させているので時間は稼げると思いますので、例の座標まで撤退します…分かりました。出来る限り時間を稼ぎます」

「志和さんはなんて?」

「援軍を送るから例の座標で時間を稼げ、だ」

後ろで佑奈が通信を切り、後部座席に取り付けられていた機械を操作し始める。一真の位置からは何をしているのか見えないが、運転席のパネルには上部自動銃座が起動したとの案内が流れる。

「揺れるぞ!」

佑奈の叫びと同時に激しい振動が断続的に装甲車に走り始める。上部自動銃座が追ってくる【甲士】に火を噴き始めていた。イカレ女が手元の機械で狙いを付けているのだろうが、この程度の火力では撃破は出来ない。だが、バックカメラに映る映像には、【甲士】の足元や建物の外壁を中心に着弾していた。それらが【甲士】の足場に障害物を次々と作り出しており、結果的には着実に距離を稼いでいた。

「これくらいならいいな。佑奈、ちょっと銃座止めてくれ」

斉人がそれだけ言って非常用の上部ハッチを開き、バズーカを構える。どうやらこのまま狙い撃つつもりらしい。俺はせめて少しでも狙いやすいよう装甲車を安定させる。そして【甲士】が足元の障害物を蹴り飛ばして一歩前に踏み出した瞬間、斉人のバズーカが火を噴いた。ワンテンポ遅れて【甲士】の特徴的な編み笠が爆炎に包まれた。

「やりぃ!」

斉人がガッツポーズを決め、元居た後部座席に戻ってくる。だが、いやな予感がする。どう考えても今のは何かしらのフラグにしか思えない。

「死亡フラグだけは嫌だぜ…」

「ん?何か言ったか?」

俺の独り言に斉人が首をかしげる。しかし、そんなことに気を配っていられる余裕はどうやらないらしい。装甲車のパネルに表示されたアラート。イカレ女が後ろを見ながら息をのむ音。気づいていないのは斉人だけだった。

俺が思わず緊急脱出装置を起動させるのと、【甲士】のライフルが火を噴くのはほぼ同時だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



とっさにバックパックを引っ掴むと同時にシートに仕込まれていたスプリングが膨れ上がり、私達は装甲車の外へと投げ出される。斉人が訳の分からない顔で宙に浮かぶ中、あの男はすでに何とか必死に地面に着地していたところだった。私と斉人が地面に着地すると同時に、ついさっきまで乗っていた装甲車が冗談みたいに巨大な銃弾を撃ち込まれて粉砕される。一瞬遅れて爆発が起き、私達は熱風に煽られて地面を転がっていく。

「いてて…おい、全員無事か?」

「私は…」

隣で着地に失敗して顔から落ちた斉人が動かなくなるが、首筋に手を当てれば普通に脈はある。まあ無事だ。アイツが服についた土を払いながら立ち上がる。

「これで俺らが死んだと思ってもらえたか?」

内心同じことを思ったが、そううまく事が運ぶとも思えない。【甲士】は再びライフルをこっちに向ける。どうやら正確な場所は分かっていなさそうだが、大体の場所は把握されているだろう。アイツがまだ気絶している斉人の肩を担いで瓦礫を避けながら歩き出す。私もハンドガンを構えつつアイツについていく。なんだか不愉快だが、それ以外に道は無い。

「どうするつもりだ?このままじゃ…」

「一応、指定座標はすぐそこだ。そこまでいけば…」

またすぐ後ろで爆発が起こる。【甲士】がこちらを探してライフルを撃ったのだろう。大方犬か何かを私達と誤認したのだろうが、あまりにも心臓に悪い。明らかなにアイツも顔を青ざめている。軟弱男め。

ハンドガンを背後に構えつつ、斉人を抱えて歩き辛そうな軟弱男の後を追う。

「あれか?」

軟弱男が立ち止まってひときわ大きい建物を見つめる。確かに、座標の地点はそこだった。だが、その場所は―――――――

「軍需工場だな。あの規模なら、軍用二脚の製造も出来ていそうだ」

「何だってそんなとこに…」

「お前が知らないなら私が知ってるわけないだろ。取りあえず、中には居れれば籠城くらい――――」

ふと視線を上げれば、上空を飛ぶ偵察機。背後で【甲士】が明確に狙いを定めつつあるだろう。

「走れ!軟弱男!!」

「は?いきなり何言ってんだこのイカレ女!誰が軟弱男だって―――――」

事態が分かっていないのか、軟弱男が私に突っかかって来る。だが、そんなことにいちいち反応する暇すらない。軟弱なだけじゃなく、危機感も無いのか。

苛立ちが一気に湧きあがり、私は取りあえず軟弱男の首根っこを掴んで引っ張る。男二人分の体重で全然進めない。だが、どうやらようやく事態に気づいたみたいだ。軟弱男も斉人を抱えたまま出来る限りの速さで走り始める。若干狙いがそれた【甲士】のライフル弾がすぐ横に着弾し、派手な衝撃と土煙が私達に襲い掛かってくる。それでも私たちは足を止めず走り続ける。やがて、目指していた軍需工場の扉の前にたどり着いた。息を切らし、思わず壁に手を付く私。どうせアイツも同じだろうと思って顔を上げる。

だが、アイツは息を切らしながらも懐のポケットから何かを取り出し、扉に半ば叩き付けるように押し付ける。

扉が開き、斉人を投げ入れるとすぐさまアイツは私の腕を掴んで扉の中に飛び込む。「きゃあっ」と情けない声を上げて床に倒れ込んだ私の足元で自動扉が閉まり、一拍遅れて激しい振動で建物が揺れる。【甲士】がここを銃撃しているのかもしれない。間一髪だった。

「はあっ…はあっ…ったく、どっちが軟弱なんだっつーの…」

思わず顔が赤くなったのが自分でも分かった。そして、それがものすごく腹が立った。絶対にこいつには軟弱なんて言われたくない。軟弱はお前だ。

「うるさい…で、ここに何があるの?」

少し早口で言い放った口調は、半ば封印していた女口調だった。思わず出てきた女口調により赤面する。

だが、アイツはそれに対して何か言ってくることは無かった。

「う………」

「お、気が付いたか」

「俺は…一体…」

頭を振りながらふらふらと斉人が立ち上がる。どうもこいつはいつも今更感に溢れ切っている。

一応状況を説明している軟弱男を放置し、私は周囲を探り始める。しかし、すぐにまた激しい振動で床にへたり込んでしまう。思わず「ひゃあっ!?」とまた出た女口調。斉人がどこから聞こえたか周囲を見渡し始めるも、すぐにまた激しい振動で中断する。

「ここごとぶっ壊す気かよ…!?」

「敵に遠慮など存在する訳がないだろう!奥に行くぞ!」

今度は意識をして元の口調に戻す。異論が出なくて少し安心した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



また激しい振動で全員床に転がる。思わず舌打ちした俺は掴まれるものを探して周囲を見渡す。今度はやけに厳重な扉があった。このカードキーで開くんだろうか。

「あれなんだ?あれが目標ってことか?」

思わず独り言を言いながらカードキーを扉につける。すると、またしてもあっさりと開いた。どうやらこのカードキーはこの施設全体のキーになっているらしい。

厳重な扉がやたらと時間をかけて開いていく。斉人とあのイカレ女が気づいたらしく俺の後ろに追いかけてくる。そう言えば、さっきから時折可愛らしい悲鳴が聞こえていたが、やはりあのイカレ女なんだろうか。でも、そんな可愛いキャラだったらあんなにも定期的に射殺しようと殺気ぶつけてくるもんなんだろうか。謎だ。

そんなこと考えながらも一真たちは扉が開き切るのを待つ。そして、完全に扉が開いた時、一真たちは息をのんだ。

「こいつは…!」

佑奈が銃を構え、斉人が若干ビビりながら近づく。一真も内心いつ動き出すかビビりまくっていたが、それでも全く動かない【それ】に向かって歩きだした。

全長三十メートル以上ある、鎧をモチーフにした真っ黒な純日本産戦闘用重量二脚。しかし、よく見れば【それ】はまだ起動していなかった。整備用にあちこち固定され、精密機器の詰まった頭部は兜の下に怒った人の顔のようなデザインが施されていた。メインカメラに当たる両目は光を灯しておらず、武装もすべて外してある。全身にチューブがつけっぱなしになっているところからすれば、起動する前にここの職員が避難してしまったのだろう。

「一体なぜここに戦闘用重量二脚がある!?早く破壊しなければ…!」

佑奈が殺気むき出しで【それ】にハンドガンを向けるが、斉人はそれを震える手で止める。

「いや、こいつはまだ起動してない。と言うか、ロールアウト前に捨てられたんだろ」

「だったら…」

俺は作業用のリフトを起動させて【それ】のコックピットのある首元につながる足場まで上がっていく。斉人とイカレ女もついて来るが、まだイカレ女はハンドガンを下ろそうとしなかった。やはり、この女はいかれてるとしか思えない。斉人の説明を聞いてなかったんだろうか。絶対に銃を持たせちゃダメな人種だろ、こいつ。

「どうするつもりだ。まさか、こいつに乗り込むつもりじゃないだろうな」

「乗り込みはするさ。コックピットに通信機能くらいはあるだろ」

俺は手短に説明すると【それ】の兜と鎧の境目にある、人体で言うところの首の後ろにある開きっぱなしのコックピットハッチを潜り抜け、コックピットの操縦席に座る。斉人とイカレ女が足場で不安そうに見つめているのだろうが、まあ心配は無いはずだ。むしろ、心配なのは外だろう。

そんなことを考えつつも俺はようやく無線機を見つけて記憶の中にある課長の無線機を呼び出す。リストフォンの中のメモを見れば一瞬で終わる。

「聞こえるか?オッサン」

≪ん………日狩君かい?良かった、生きてたみたいだねぇ≫

「何度か死にかけたよ…で、アンタに指定された場所にあったこの重量二脚は何なんだ?」

≪ああ、【黒刃金】(くろはがね)のことだね?もう分かってると思うけど、そこは新型の開発をしてた工場だったんだけど、ようやく【黒刃金】が完成して、あとは【URANOS】に繋げるだけの段階であの事件が起きてね。【黒刃金】は起動目前で放置されてしまったと言う訳さ≫

課長の言う【黒刃金】。どうやらずいぶんと不幸な展開に襲われてしまったようだ。まあ、俺にはまだ関係がない話のようだが、どうも嫌な予感がする。

「で、なんで俺をここに?」

≪決まってるだろう?地上は危ないからね。難民救助のために、君にその【黒刃金】を動かしてほしい。…なんだかヒーローみたいでカッコいいだろう?≫

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ