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3:初陣

「君、一真だっけ?運転出来るんだな」

「まあな。何せ大型特殊二脚免許持ってるからさ」

「マジ!?あの持ってるだけであらゆる乗り物操縦できる万能免許を!?」

「ああ…最も、そのせいであのオッサンに騙されてここに居るんだけどな」

ゴーストタウンと化した街を一真は装甲車を運転しつつ助手席に座る斉人の明るい声に少し気分を良くしながら会話を続けていた。

一瞬ハンドルから手を放し、リストバンド型の万能端末、通称リストフォンを起動する。今の世の中で持たない者は無い、通信から支払いまでなんでもできる優れものだ。せめてこいつで課長と連絡を取れればいいが、機密保護だのなんだのが理由で市販の端末は使えないと無線を渡されたのがずいぶん昔のことのように思えた。わずかに感慨深く思えたが、すぐに腹立たしい思いが浮かんでくるので止めてリストフォンから映し出される空間ディスプレイを操作し、大型特殊二脚免許を表示して見せる。

「すっげ…確かに免許の年齢制限無いけど、君高校生くらいだろ?その年で持ってるの君くらいじゃないか?」

斉人の言う通り、かつては免許取得には年齢制限がかかっていたらしい。小型から大型になっていくにつれて厳しく指定されていたらしが、技術の進歩で五十年くらい前には小学生でも車を安全に運転できるようになり、次第に免許取得の年齢制限も無くなっていったらしい。まあ、確かにそれでも斉人の言う通りあらゆる免許の中でも特に取得が難しい大型特殊二脚免許を持つ高校生など一真くらいだろうが。

「お喋りしている余裕があるのか?もうすぐ右だ」

「…へいへい…」

すぐ後ろから佑奈の苛立った声が聞こえてきた。斉人が苦笑いを浮かべる。一真は思わずため息を付きながらハンドルを操作した。

俺の乗っていた中型二脚の場所を正確に案内するために、俺にバズーカをぶっぱなした場所を知る奴に案内させてもらう。そこまではいい。だが、なぜあのイカレ女までついて来るのか。聞くところによると、隣の斉人が引っ張って来たらしい。斉人は結構いい奴だとは思うが、どうも配慮が足りないようだ。

まあ、そんなこと思っていては失礼だ。折角こんないい奴と知り合えたんだから、イカレ女のことなど気にしないことにしよう。

「悪いな。アイツ、滅茶苦茶気難しいんだ」

斉人が小声で耳打ちしてくる。そんなことしてもこんな狭い車内じゃ意味ないと思うが、まあ気分の問題だろう。

「まさか初対面で拳銃突きつけられるとは思わなかったな。誰に対してもあんな感じなのか?」

「いやぁ…流石に拳銃突きつけられはしなかったな。よほど嫌われたらしいな、一真」

後ろからやたらと機嫌の悪そうなため息が聞こえてきた。やっぱり聞こえてたらしい。しょうがないか。

そしてその後は後ろからの殺意のオーラに照らされて終始無言。本当にあのイカレ女を連れてきたのは間違いだろう。斉人も引きつった苦笑いを浮かべるしかなかったらしく、車内の雰囲気が変わることは無かった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あの男が半身をボロボロの中型二脚のコックピットにつっこみ、何かを必死に探し始める。恐らく話にあった地上探索許可状とカードキーを探しているのだろうが、そんなことくらい一人でできないのだろうか。道案内だけなら斉人一人で十分だろうに。

「見つかった?」

「ああ…これがあれば何とかなるんだろ?あとは指定された座標に行くだけだな」

「へえ、どこに行けばいいんだ?」

斉人が明るい声であの男に擦り寄っていく。馬鹿、ソイツに長々と時間を取られる必要なんかないだろうに。

しかし斉人はひとしきり唸った後、私のところまで歩いて来る。その顔が最初にこの不愉快なドライブに誘ってきた時と同じ顔で、嫌な予感を覚えた。

「一真の言う座標が結構ここから近いんだ。行くだけ行ってみようぜ」

「なんでそんなことまでしなくちゃいけない。アイツ一人に行かせればいいだろ」

「そんなこと言うなよ、志和さんだって出来る限り一真の手伝いしろって言ってたじゃん」

「私はそんな指令は受けてない。お前が無理やり引っ張って来ただけだ」

佑奈は自分でもどんどん苛立ちが募っていくのが分かった。

「そもそもアイツが本当に味方なのかも怪しい。地下への避難を助けるなんて言ってるが、それならなんでわざわざこんな面倒なことをやらせるんだ?どう考えても私達を危険地帯におびき寄せようとしているとしか思えない」

「お前…被害妄想強すぎだぞ。どいつもこいつもみんな敵って顔しやがってさぁ」

「お前こそ危機感が足りなさすぎる!死んでからでは遅いんだぞ!」

思わず私は斉人の胸倉を掴んで締め上げる。こいつの能天気さにはいつも呆れていたが、今回ばかりは我慢ならない。ここは戦場だと言うのに、まるでゲームでもしているかのような気軽さ。そんな適当な奴と一緒に戦わなければならないと言うだけで寒気がしてしまう。

「無駄死になんか御免だ。さっさと拠点に戻って今後の対応を―――――」

「二人とも伏せろ!」

突如、一真の切羽詰った声が聞こえてきた。ずいぶんと切羽詰った声音に私と斉人が振り返ると、ぶっ壊したはずの中型二脚が全身にスパークを走らせながら再起動しようとしていた。そればかりか、持っていた対大型用マシンガンの銃口をこちらに向け始めている。

「何のつもりだ!やはりお前は―――――」

バズーカを構え直し、一真の乗る中型二脚に銃口を向けようとして斉人に無理やり地面に押し付けられる。いきなりすぎて抵抗できず、起き上がろうともがく佑奈の視界に、ようやくその姿が見えた。

日本製大型軍用二脚ロボット【甲士】。日本製人型ロボットを作るにあたり、スポーツとしてのロボットバトルを彩る観賞に耐えうる外観が求められ、日本のロボットは全てがかつて日本に存在した武士の甲冑をモデルにしている。そしてその中でも、先兵部隊として最も多く生産され、戦地投入された【甲子】は足軽がモチーフだったが、世界標準でかなりの重装甲のアンバランスな形がどこか違和感がある機体だ。即ち、私たちは敵に見つかり襲撃を受けている。

事態を理解し、何とかバズーカを【甲士】に向けなおそうとする私。しかし、それよりも先にあの男の操縦するスクラップ寸前の中型二脚の対大型マシンガンが火を噴き、【甲士】の編み笠型の頭部に何発か直撃する。しかし、数発で中型二脚のマシンガンを持つマニピュレータが限界を迎え、反動を抑えきれずにマシンガンごと背後に吹き飛ぶ。

【甲士】はあまりダメージを見せず、片方のマニピュレータに持ったライフルをこちらに向けてきた。

「くそっ!だからこんなことするんじゃなかったんだ!」

私は思わず叫びながらバズーカを【甲士】に向けなおす。しかし、このバズーカでは完全に破壊しきることは不可能だった。加えて弾は手持ちに三発しかない。装甲車にはあと何発か残弾があるが、それを取りに行ける余裕はない。隣の斉人がグレネードキャノンを構えて【甲士】の足元に移動を始める。近づかないと当たらない以上、ここは斉人が送って来たサインの通り、援護してやるしかない。しかし、当たったところで撃破できるかどうか。

思わず佑奈が歯噛みした時、一真の声が聞こえた。

「おいイカレ女!その位置からならあれの頭部狙えるだろ!」

一瞬何を言われたのか分からなかった。しかし、この場に居る女は私だけ。思わず頭に血が上る。

「誰がイカレ女だ!それに素人が勝手なことばかり言うな!」

「佑奈の言う通りだぜ一真!お前は素人なんだから下手に首を突っ込まなくていい!俺たちに任せろ!」

「戦闘は素人でも、大型二脚の知識ならある!そこのイカレ女の位置からなら頭部のセンサー機器を狙える!それならある程度あれを足止めできるはずだ!」

あの男が中型二脚のコックピットから這い出ながらあらん限りの声を上げる。確かに、それなら【甲士】を止められる可能性がある。一瞬考えて合理性を理解した私は内心面白くない気分を抱えつつも改めてバズーカの照準を【甲士】の頭部に向ける。

「斉人!取りあえず出来る限り高いとこ爆破させてくれ!爆発くらいの衝撃なら確認するようプログラムされてるはずだ!」

「わ、分かった!」

斉人が一真の指示で足を止め、すぐ近くの廃ビルの屋上目がけてグレネードを放つ。そして起きた爆発に【甲士】が反応し、ビルの屋上にメインカメラを向ける。

指示されるまでもない。今がその時だった。

佑奈はバズーカの引き金を引き、一瞬遅れて【甲士】の編み笠の内側が激しく爆発する。衝撃とセンサーの障害で【甲士】がわずかに後ずさる。

斉人が駆け足で私の元に戻り、油断なく武器を構えなおす。この程度で倒しきれる相手ではない。案の定【甲士】は爆炎を物ともせず、しかしわずかによろめきながら再びライフルの銃口を向ける。もう一発打ち込もうとバズーカを構えるも、装甲車がいきなり佑奈たちの目の前に躍り出てきた。

「乗れ!このまま逃げるぞ!」

「ああ!急いでくれよ一真!」

斉人が装甲車のドアを開け、佑奈達は急いで装甲車に乗り込む。ドアが完全に閉まるのを待たずに一真はアクセルを踏み、【甲士】に背を向けて走り始めた。

「どうする!?追ってくるぞ!」

斉人が後ろを振り返りつつ叫ぶ。佑奈も後部窓を覗き、【甲士】がゆっくりと追いかけ始めているのを確認した。

「このまま拠点に戻るのはまずい…何とかして撒くか撃退するしかない」

「だよなぁ…じゃ、あそこ行くしかないか…!」

一真はハンドルを切り、拠点から正反対の方向へ装甲車を走らせる。

目的地は、一真が言っていた座標。そこに何があるかは分からないが、今はもうそれ以外頼れるものは無かった。

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