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20:真実

こちらにレールガンを向けなおすよりも先に【黒刃金】がシールドガンを連射しながら突撃して行く。でたらめな照準で連射された銃弾が何発か青い機体の装甲に当たって軽い金属音が微かに聞こえた気がした。しかしそれでもあの青い機体がレールガンの照準を合わせるのを妨害できたのか敵機の動きが止まる。その隙に【黒刃金】が私達も吹き飛ばしかねない勢いでブースターを吹かして突撃して行った。それ程の距離でもないため一瞬で距離を詰め、シールドガンで敵機を押しのけて工場から離れていく。すぐに組み解かれて距離を取られ、改めてレールガンが【黒刃金】に向けられる。だが【黒刃金】もすぐさまブースターを噴かせてレールガンの照準の先から抜け出していった。

なんだ、結構戦い慣れてきているみたいじゃないか。それがいいことなのか悪いことなのかは分からないけど、少なくともここで一真が死んでしまうかもしれないと言う恐怖はだいぶ薄れてきた。

「一体私達が居ない間に何が…?」

「わ、分かんない。あの青いのが工場の中に居たのだけしか知らないの」

「工場の中?それじゃ、あの工場は、人さらい達の拠点だったのか」

ギュッとしがみつき続ける加那を抱きしめながら呟く。これまでの流れから言ってそれ以外には考えられない。まさに飛んで火にいる夏の虫と言うべき事態。今更後悔しても遅すぎるが。

その時、佑奈のリストフォンに通信が入った。

≪お、い…姫さんよぉ…≫

「赤土?何が起きているんだ?」

いきなり姫さん呼ばわりされていることに若干の不快感を感じながらも、佑奈は通信相手がいつもと比べようがないほど弱弱しい声なのに気づいた。普段なら無駄すぎるほどバカでかい声で騒ぎ立てる奴だと言うのに。

≪に、逃げろ…≫

その先は聞こえなかった。ただ、ゴトリと言う嫌な音が聞こえた気がした。思わず目を閉じ、リストフォンの通信を切る。

赤土がどうなったのかは想像したくない。だけどアイツがどんな状況でも無意味な通信を送ってくる奴とも思えなかった。だが今はあの青い機体は一真が抑えている。ならここで加那と一緒に一真があれを倒してくれるのを待つ方が安全だろう。

加那も少しは落ち着いてきたのか私の胸から離れて涙を拭き始めた。ここ最近何度も見てきたが、この子はやっぱり大人びすぎている。まるで無理をしているのが普通みたいな、怖いくらいの他人本位な感じがしてしまう。だからと言って私に何かできる訳ではないけれど。

「大丈夫だ。もうすぐアイツがあれを倒す。それからあそこに戻ってみんなを探そう」

「うん…」

ぎこちなく頭を撫でながらそう言うと、加那もちょっと無理した笑顔を引っ込めて不安げな表情に戻った。不謹慎かもしれないが、やっぱりこっちの方がしっくりくる。

その時、後ろから足音が聞こえた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



比較的高さの低い建物ばかりのこの場所で、シールドガンだけで防御しきれるはずがない。既に二・三発レールガンの直撃を受けてシールドガンはかなり表面が焼け爛れ始めている。おまけに左腕の関節部分にも異常を示すアラートが出始めた。耳障りだったから速攻で音声を切ったが、機体のコンディションの悪化は変えようがない。

「これ以上はまずいか、なら!」

シールドガンから残弾残り僅かな内側の小型ライフルをパージし、左手でマウントする。これでシールドガンごとぶち抜かれて余計な二次被害を出さなくても済む。そしてそのままフットペダルを思い切り踏み込んでバックユニットのメインブースターを全開に噴かす。強烈なGを全身で受け止めながら全神経を敵機の右腕のレールガンの照準に向ける。発射間隔は約五秒。だが一発一発がまるで先読みしてくるかのように正確にこっちに向けられている。この距離では弾速はあまり関係ないが、それでもレールガンの銃弾の速度からして発射された瞬間には着弾している。なら、発射される瞬間にレールガンの銃口が光るタイミングで機体を射線からずらすしかない。そう言うと簡単そうに聞こえるが、実際にやれるかどうかは別の問題だ。ハッキリ言ってできる自信は無い。シールドはもうあと一発食らえば使い物にならなくなるし、下手すればそのまま左腕も持っていかれるかもしれない。なら、もう一発たりとも貰う訳にはいかない。

レールガンの銃口が輝き、とっさに右の操縦桿のスイッチを押す。強烈なGと共にディスプレイの映像がが大きく右にずれて、左のほうを目に見えないほどの速度で銃弾が飛び去って行った。

当然敵機がそれに戸惑う様子は無い。冷徹に次の射撃の準備に取り掛かり、五秒のインターバルを置いて再び銃口が輝く。だがその時にはもう充分距離は詰め切れていた。右の操縦桿を思い切り倒し、連動して【黒刃金】の右腕が日本刀を振り上げるが、敵機は急速後退で距離を開ける。レールガンの照準はあらぬ方向に向いてしまっていたため大きく外れて、その隙を狙い俺は左の操縦桿の引き金を引く。牽制用とはいえ重量二脚機の手持ちの火器。敵機の青い装甲に次々と傷がついていく。

だが、元々無人の機体がその程度のダメージでは怯むはずもなかった。

ゼロ距離で向けられたレールガン。既に五秒は経過していた。

咄嗟に左腕のシールドを銃口と機体の間に挟み込ませる。当然発射されたレールガンの弾が直撃し、激しい衝撃に【黒刃金】ごと俺は吹き飛ばされていく。そして【黒刃金】は背中から地面に激突し、俺はコックピットの衝撃吸収エアマットに頭を突っ込ませた。だが、いくら衝撃吸収してくれるとは言え首の骨が折れそうな恐怖に襲われてしまう。

「ああくそ!きついっての…」

頭を振ってぼんやりした頭を覚まさせ、ついでにボキボキ言ってる首の骨をほぐす。これで何か変わるかは分からないが、気分はよくなった気がした。

その時、真正面のモニターの隅のあたりに二人の人影が写り込んだ。あの二人、まだ逃げてなかったのか。しかしそこまで考えて違和感に気づく。人影は二人。だが、片方は子供のはずだ。少なくとも同じくらいの背丈の二人が居るはずがない。生き残りが居たと言うことなんだろうか。だけどそれならなんで小さな人影が居ないのか。気になって思わずディスプレイを操作する。あの青い機体はなぜか近づいて来るだけで何もしなかった。

そしてモニターの焦点が合い、アップで目当ての光景が映る。

崩れ落ちたようにへたり込む佑奈。その膝の上で目を閉じる加那。そして、その二人に銃口を向ける志和――――。

「何だよ…お前…?」

≪ああ、気づかれちゃったかな?まあいいや≫

外周スピーカーがオンになっていたのか、それとも動かずにメインカメラを向けている【黒刃金】に気づいたからか。どちらにせよ、いつもの細目では無く両目見開いた志和はけらけら笑いながら上着のポケットから何かを取り出し、おもむろにボタンを押す。青い機体が動きを変え、まるでかしずくように志和の元まで近づくと跪くような体勢で動きを止めた。そして志和は力ずくで動かない佑奈の二の腕を掴み上げて引きずるように青い機体の元まで歩いていく。

その時、一真はモニターの画面に佑奈の膝の上から落ちた加那の顔を見つける。まったくピクリとも動かない。それどころか全く生気が無いように見える。真っ青だがまだ生きている暖かさを持ったままの佑奈と違い、青白くて唇は紫色になっている。

「何をしたんだよ…?志和!」

≪何…?何って、邪魔だったからさ。佑奈にべたべた引っ付いちゃってさぁ≫

佑奈を片腕に掴んだまま青い機体のコックピットにワイヤーガンを使って乗り込みながら、志和は子供みたいにすねた声で答えた。そして志和はコックピットに乗り込むと、青い機体を立ち上がらせて【黒刃金】に相対させる。

≪これで邪魔な奴は君ひとり。結構数居たな≫

「お前、何言ってんだよ!」

≪はあ?分からないかなぁ。僕は佑奈と一緒にこの地上で二人っきりで過ごすんだ。その為に、何か月もやりたくもないリーダーなんかやってたって言うのに、いきなり横から入って来た君が僕の計画を無茶苦茶にしたってことなんだよ!≫

「ふざけんな!いきなり訳わかんないことばっか言うなよ!俺に分かるように説明しろ!お前は、佑奈と加那に、みんなに何したって聞いてんだよ!」

意味が分からない。今俺の目の前に居るのは誰だ。その青い機体は何なんだ。アイツは一体何なんだ。一体何をしたんだ。一体何をしようとしているんだ。

「答えろよ!志和!」

【HEAT UP】のパネルに触れ、ケーブルに繋がれた日本刀が超高熱に熱せられる。カウントダウンが残り二分を示し、刻一刻と減っていく。

そして思い切りフットペダルを踏み込み、右の操縦桿を思い切り力任せに押し倒す。しかし青い機体は最小限の動きで回避し、それ以上の動きを見せなかった。

≪その動きは見切っているよ。機体の性能に頼り切ったその動き、そんなものに佑奈が心を乱されたなんて…!≫

「だから意味が分かんないっつってるだろうが!」

残り一分。思い切り突き出した日本刀の切っ先がわずかに青い機体の肩を掠める。

≪僕こそが佑奈を守る騎士なんだ。この【蒼鬼】を乗りこなすこの僕が!≫

「佑奈を守る…?【蒼鬼】…?」

残り三十秒。日本刀が【蒼鬼】のシールドを焼き切りながら食い込んでいく。だが、【蒼鬼】はすぐさまシールドをパージしてレールガンでシールドごと日本刀を打ち抜き、爆散する。へし折られた日本刀が折れた部分から火花を放つ。そして、エネルギーが尽きた。

≪お別れだ、一真。君は調子に乗りすぎだったんだよ≫

レールガンの銃口が輝き、激しい衝撃と共に俺は意識を失った。

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