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16:助言

結局その日のうちに目的地である軍需工場にたどり着くことは出来なかった。当たり前と言えば当たり前で、初めから誰もとんとん拍子で三日で着くなんて期待してなかったから文句を言うものも居なかった。夜になって半分くらいの距離まで来たことを確認した志和の号令のもと、近くにあった比較的壊れていない民家を見つけて休息をとっていた。

しかし一真はすぐに休むわけにはいかなかった。ボロボロの【黒刃金】の応急修理を出来る限り進めていかなくてはならなかったし、何よりも休む気になれなかった。手を動かしていないとまた色々とモヤモヤした感情が浮かんできてしまいそうで怖かった。

有り合わせのスクラップで吹き飛ばされた右腕の肩のあたりをカバーし、うろ覚えの知識で穴の開いた装甲を取り外して内部の切れた配線をその辺で拾ってきた導線で繋いでいく。ある程度素人でも修繕できるようにあちこちに配線図が書いてあるから迷いはしなかったけど、それでも正規の部品を使っている訳じゃないから本来の性能を発揮できるとは思えない。片腕吹き飛ばされた状態で本来の性能なんて言えたもんじゃないが。

「忙しそうだね」

「まあ、そりゃ」

ふと後ろから声をかけられる。振り返らなくても志和だと分かった。

何とか配線を繋ぎ、油まみれの顔をタオルで拭いて立ち上がる。志和はその辺にころがしておいた穴だらけの装甲を撫でつつ、どこか遠くを見るような顔で一真を見ていた。

「何の用だよ。結構忙しいんだ」

志和から装甲を乱暴に奪い取り元々の場所にはめ込む。そして溶接キットを使ってうっかり落ちないようにしっかりと溶接していく。その光景を見て、志和はなぜか苦笑いを浮かべていた。

「便利なものだね。もう少し私が働いていた時代が遅かったらそんな便利アイテムで仕事もはかどったのに」

「仕事?」

「ああ、私は元々技術者でね。こういった軍用重量二脚の整備をしたこともあるのさ」

上着を脱いで足元に置き、志和は【黒刃金】の傷だらけの装甲を取り外し始めた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



コックピットの中で足の動作テストを進めていた時、ぽつりと志和が独り言のように呟いた。

「やはり、慣れないものだよ。見知った人が死んでいくって言うのは」

肩を震わせる一真。始めから、志和がこの話をしに来ることなんて分かっていた。

ふと佑奈の言葉を思い出す。人が死んでいくことに慣れなきゃいけないなんて、俺は嫌だった。だから志和がこの話を始めたことは、俺にとって救いのようで、それでいて心を抉られるようでもあった。

「ここでは人はいくらでも死んでいく。それに慣れるべきだ、なんて私は言いたくはない。だけど、それでも君は引きずりすぎてるようにも見える。たとえそれが初めての、それでいて友達の物だとしても」

「大げさだって言うのか?」

思わず操縦桿を強く握りしめる。このまま志和を振り払ってしまおうかと思うくらい頭の中に真っ黒なものが浮かんでくる。

「そこまでは言ってない。だけど、君は人の死にやけに過剰な反応をすると思ってね。勿論、それが悪いことだとは思ってないさ」

そう言いながらも志和は手際よく溶接を済ましていく。その手際はまさに元技術者と呼ぶべき物だった。

「人が死ぬ光景なんて、本当は誰も見ていいものじゃない。君みたいな若者には特に、ね」

「俺はそんなに繊細じゃない。確かに斉人が死んで辛いのはあるけど、だからってアンタが言うような傷を抱えたりはしない」

「口ではそう言えるだけさ。実際君はかなり弱ってる。まだ高校生は繊細な時期なんだよ」

「言ってろ。アンタに俺の心が分かってたまるかよ」

「まだ君は分かってないようだね。私はあくまで君に忠告しているんだ。あまり感情を周囲に見せるもんじゃない。余計な波紋が広がるだけだよ。今みたいに、ね」

分かり切ったようなことを言う。要するにわざとらしいことをするなってことか。

最期の装甲を溶接し終え、志和が十分離れたことを確認してからディスプレイを操作して内部回路を接続していく。【黒刃金】のような軍用重量二脚は装甲に条件次第で様々な特性を発揮する特殊合金、通称【D(Digitl)M(Metal)合金】を使用しており、さっきは溶接などを簡単にできるようにあえて耐熱性を落とすために低い電圧をかけて数分放置していたが、今度は実戦で耐えられるように耐熱、耐衝撃性を高めるために高圧電流を流して一晩放置しなくてはいけない。後で機体に近寄れないように何かしらの対策を仕掛けておかなくてはいけない。

だが一足先に志和が低温レーザーの立ち入り禁止線を周囲に張って子供などが簡単に近寄れなくしていた。こう言った所も抜け目がない。その分なんだかこっちの動きがいつも読まれている気になってしまってなんだか怖くなるが。

うっかり装甲に触れないようにコックピットから降りて遠隔操作でハッチを閉める。これでしばらくは何もすることがなくなった。そう思うと何度か急に不安になった。やっぱり何か手を動かしていないと怖くなってしまう。

そんな一真のことなどお見通しと言わんばかりに志和は上着のポケットから乾燥食品を取り出して一真に投げ渡した。

「もう休むといい。明日にもまだ戦わなくちゃいけなくなるかもしれないんだからね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



大型トラックの荷台に積まれた大量のパソコンを前に、佑奈は今までの作戦で手に入れた映像資料を見つめて思わず拳に力を込めた。思った通り、見覚えのある機影があちこちに映っている。

しかし最後の作戦の終わりに一真がハッキリと倒したと思えないみたいなことを言っていた。なら、まだ動いていると考えるのが妥当だろう。

「絶対、倒す」

画面に映る青い機体は、映像越しに見ると笑っているような顔をしていた。

決意を新たにパソコンのスイッチを切ろうと手を伸ばしたとき、ドタバタとやかましい足音が聞こえて佑奈は手を止めた。少なくとも二人分の足音だが、どう考えてもこのくらい騒々しい足音を出せる奴が手下以外で一緒に連れ歩ける相手が居るはずがない。手下どもは全員病室送りなんだから。

「ああ?誰かいんのかよ」

「おいゴリラ!いい加減放せっつの!」

閉め切っていた荷台の扉を開けてみれば、まだ頭に包帯を巻いたままの赤土が半ば抱え込むように一真を連れてすぐ目の前まで来ていた。

「何をしているんだ?」

「何だ姫さんかよ。ま、いいか。話があんだ」

赤土は力ずくで一真をトラックの荷台に投げ込むと佑奈の返事を待たずに荷台の扉を閉めた。足元に転がっていく一真に手を貸し、後頭部を思い切りぶつけた一真が頭を押さえながら起き上がる。

「何なんだよ。いきなり拉致しやがって」

赤土は見慣れたこっちを小馬鹿にした笑顔を見せるが、すぐに真剣な目つきになった。その目つきは、今までがどこかチンピラみたいだったのに急に元ヤクザの貫禄を見せつけているようだった。

「おい、お前ら二人とも人さらい共のことは知ってるな?」

「人さらい?」

「当然だろう。なぜそんなことを聞く」

「いや俺全然知らないぞ。まあ、大体は名前からして分かるけどさ」

いきなり当たり前の話を始めた赤土に付いていけない一真が首をかしげた。そう言えば、一真は地下でぬくぬくと平和に暮らしていたんだった。

「名前の通り、人を浚っていく連中のことだ」

「この地上で?何の意味があるんだよ」

「さあな。どこかに街があってそこのトップが買ってるとかいう噂だが、少なくとも私は見たことは無い。だけど人さらいが実在するのは事実で、他のグループがそいつらに襲われて壊滅したこともある」

赤土が顔に似合わず手早くパソコンを操作していくのを横目で見ながら最小限の説明で済ませていく。一真もそれ以上知ろうと思った訳でもなかったのか一つ頷くとすぐにまたわずかに混乱した顔に戻った。

「で、なんでそんなことを?」

「まあ取りあえずこれを見ろ」

赤土はそれだけ言ってパソコンの画面をこっちに見せてきて、一真が思わず顔を背けた。私がついさっきまで見ていたあの青い機体と一真が戦っていた時の、斉人が死んだときの映像だ。正直言って私も何度も見たいわけじゃない。

だけど赤土は別に私達への嫌がらせが目的と言う訳でもなかった。ある部分で映像を止め、さらにキーボードを叩いていく。

やがてパソコンの画面に謎の波形が現れた。

「電波?」

「そうだ。ちょうどお前がシールドを投げつけた直後、あの青い機体が動揺したのか動きが止まったところだ」

「【URANOS】に情報を送ってたんじゃないのか?」

「いや、これはそんな機械的なもんじゃねえ。だからっつってもそれほど複雑なもんでもない。お前なら何なのかわかんじゃねえか?」

赤土にちらりと試されるような視線を送られる一真。いまだに顔を背けたままの一真だったが、それでも話の内容を考えるだけの余裕は取り戻していた。

「外部からの司令か?遠隔操縦じゃなくて、行動パターンを決めるタイプの」

一真が恐る恐る呟くと、赤土はニヤリと笑った。

だけど佑奈はそんなことなど気にならないほど激しく動揺していた。まさか、あの機体は誰かが操っていた?だとしたらこれまでのことは―――

「そう言うこった。つまり、こいつは第三者の命令で動く手先だったってわけだ」

「じゃあ、その第三者は?」

「大方人さらいだろ。強力な戦力を蹴散らして、守ってる奴らを浚おうとしてんじゃねえか」

一真の目の色が一気に変わる。だけど佑奈の心に恐怖が浮かぶ。

だとしたら、私の敵はあのロボットたちじゃなくて人間だったんだろうか?

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