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13:敗北

半分適当に乱射したライフル弾が敵機のシールドに防がれて派手な火花と金属音を起こす。このままタックルを決めることも考えたが、流石にこっちが持ちそうにない。取りあえずシールドガンを構えながら足元のパイルアンカーで急停止させる。だが、敵機はそのタイミングに合わせて右腕に持ったレールガンを撃ってきた。ちょうどシールドガンを構えたあたりだったから機体に直撃にはならなかった。だけどコックピットの中に居る一真にとってはシャレにならない衝撃だった。衝撃を吸収してくれるはずの操縦席のシートが暴力的に背中を叩き、一瞬目が回って前後不覚に陥ってしまう。だけどこのまま突っ立ていては今度はシールドガンで防いでいない部分にレールガンをぶち込まれることは分かり切っている。つま先でフットペダルを探して踏み込み、ブースタを吹かして右によける。二発目は何とか回避できたようだが相手はだからと言って油断して手を休めることは無い。ビルを影にしながら青い機体の背後を取ろうと移動を続ける。だが敵機は滑らかな動きでこちらの動きに合わせてレールガンを連射してくる。

「くそ!あっちも新型のローラー使ってんのかよ!」

急停止した目の前を高速で弾丸が飛び去っていくのを見送りながら操縦桿を倒し、狙いを定めてライフルを連射する。だが敵機はすばやく動いて回避していき、逆にレールガンをこっちに向けて発射してきた。あまり狙いが定まっていなかったが、機械の射撃精度はかなり高くヒヤリとするほど機体の近くを掠めていった。コックピット内に響くアラートでそのことに気づいた一真だったが、かと言ってここでビビって引くわけにはいかない。

「今のうちに逃げろ!」

足元でこっちの戦いを見ていた連中に声をかけ再び飛んできたレールガンをシールドガンで受け止める。今度はパイルアンカーで機体を固定していなかったからか【黒刃金】がわずかに後ろに押しのけられるが、その分コックピット内の衝撃は少なめで済んだ。だがシールドガンはもう彼方此方焼け爛れ始めていた。敵機のレールガンを既に数発もろに直撃させているのだから当然と言えば当然だったが、正直言ってシールドガンで防ぐ以外に敵機のレールガンを凌げるとは到底思えなかった。

だけど、弱音を吐いてる場合じゃない。なんとしてでも目の前に居る敵を撃破するか撤退させる。最悪目をくらませて逃げるだけの方法を考えなくちゃいけない。その為にも今は出来るだけ臨時拠点から離れなくては。それだけ考えてライフルを連射しながら敵機からわずかに右に逸れていく。敵機は着実にこっちを目がけてレールガンを放ってくるが、ビルの影やらに隠れて何とかやり過ごしていく。だけどこの機体を隠せれて、それでいて相手のレールガンを逸らすか防ぐくらいしっかりした建物なんてそれ程あるわけじゃない。だけどある程度距離を取れれば相手の予測弾道が分かる。それなら多少は回避も出来る。

距離を置いてライフルを構えて青い機体の能面のような顔を睨む。一応ライフルを撃ってもいいが、まず間違いなく回避されるのは目に見えている。それでも万が一こっちに興味を失っていたらあのまま臨時拠点に攻め込むかもしれない。なら、威嚇目的もかねて撃つべきだろう。威嚇が通じる相手ならいいが。

狙いを澄ましてライフルを連射し、青い機体はわずかな動きで回避していく。そして周囲の足元を一瞥したのち、背中のバックユニットのブースタを点火してこっちに向けて突撃してきた。それに向けて引き金を引いていくが敵機は全く意に介していないかのように最小限の動きで回避しながら全く速度を落とさずに突き進んでくる。まさに人が乗っていないからこそできる機動力だった。だが、それはそれで戦いようはある。同じように敵機に向けて突撃しつつ、ライフルを特に狙いを定めずに連射する。当然ほとんど当たらず、当たったとしても敵機のシールドに防がれる。だが、そのうちの一発が偶然敵機の頭部に迫りそれをシールドで防いだ。その瞬間敵機のメインカメラは一瞬潰れた。

今ならやれる。そう感じるままに左腕に取り付けられていた残弾ゼロかつ溶解寸前のシールドガンをパージして敵機の足元に投げつけた。

敵機は一瞬の間にわずかに変わった【黒刃金】の機影に解析を始めるが、すぐにボロボロのシールドをパージしただけと判断してレールガンを向けて前進を続ける。だが、次の瞬間ついさっきまで無かったはずの大き目の障害物に足を取られて体勢が崩れた。すかさずライフルを左腕に切り替え腰にマウントしていた剣を右腕に装着し、ディスプレイの【HEAT UP】をタッチする。

「たああああああああああああああ!」

力任せに操縦桿を押し、連動した【黒刃金】の右腕が高熱化した剣を振り下ろす。数秒後には剣が敵機の能面のような顔ごと溶断していくはず。

だが敵機は倒れたまま背中のバックユニットのブースタを全開にして【黒刃金】に突撃をかました。衝撃で息がつまり、振り下ろされた剣は空を切った。しかもエネルギー残量も30%を切りこれ以上の戦闘は難しいレベルまで来ていた。咄嗟に【HEAT UP】だけでも解除して余計なエネルギー消費を避けるが、既に状況は数秒前とひっくり返っていた。体勢を崩して、おまけにエネルギー残量も心許ないこっちと万全の体勢でこっちにレールガンを向ける敵機。既にレールガンは発射寸前だった。思わず目を閉じる一真。

もうこれまでか。せめてさっきの雑魚に余計なエネルギーを浪費していなかったらもう少しまともに戦えたかもしれないのに。いや、もっと言えばあそこで余計な時間を取られていなければ、もっと万全な状態で戦えたかもしれない。どっちにしろ、ド素人が戦いなんかに首を突っ込んだ挙句に調子に乗ったのが悪い。このまま死ぬしかないのか。

≪援護砲撃を始める!ソイツから離れろ!≫

通信から聞こえてきた佑奈の声。一真はその声に目を見開き、ほぼ無意識にフットペダルを思い切り踏み込ませた。すべてのブースタが火を噴き、滅茶苦茶な加速がかかって【黒刃金】が青い機体の拘束を振りほどいて飛び上がり、コックピットに直撃コースだったレールガンが剣を持っていた機体の右腕を肩のあたりに逸れ、右腕が肩から吹き飛び激しい衝撃に襲われる。だが、コックピットやプラズマジェネレータなどの重要な機材は無事だった。警告音を聞き流しつつ何とか機体の体勢を整えフットペダルを踏みながら左の操縦桿の引き金を引き続ける。【黒刃金】が後退しながらライフルを連射し、発射された炸裂弾が青い機体の装甲に傷をつけていく。やがてライフル弾が尽きてむなしく引き金を引き続ける一真を前に青い機体はあちこちから火花を散らしながらもレールガンを構えて発射しようとした。だがその直前に上空から何発もの迫撃弾が降り注ぎ、青い機体は爆炎の中にその姿を消していった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



レーダーに映る機影が一つ消え、ついさっきまで派手に動き回っていた【黒刃金】らしき機影の反応が動きを止めた。敵機は撃破できたのかは判断できないが、取りあえず危機は去ったという認識でいいだろう。佑奈は思わず肩の力を抜き、大きなため息を付いた。

≪一真君!無事か?≫

≪し、死ぬかと、思った≫

もの凄い裏返った声で志和からの通信を返してくる一真。佑奈はそれがなんだか可笑しくって薄らと笑って、そしてちょっとまた後悔した。こんな顔を斉人に見せたら、まず間違いなくまたからかわれる。今までならあまり気にしないことだったが、もうそんなことを気にしてしまう自分に少しだけ順応していた。

しかし今はそんなどころの騒ぎではない。

≪敵は?撃破できたのかい?≫

≪分からない。機体が爆散したにしては爆発が小さかったし≫

≪そうか。なら、こっちに戻ってきてくれ。詳しい状況を知りたい≫

志和の声もわずかに落ち着きを取り戻し、佑奈も迫撃砲から離れる。本当なら安全のため、そして何より移動を再開するときに余分な時間をかけないようにさっさと片付けてしまうのだが、この時ばかりはそうする気になれなかった。他の援護砲撃をやっていた面子は片付けも忘れて帰ってきた後発部隊の面子を迎えに走っていた。いつもならそこから背を向け、一人で片付けやらをしているのが佑奈だった。

まず最初に戻って来た面子がそれぞれの家族や友人に迎えられて歓声を上げる。確か後発部隊はそんなに数は居ないから、最初の面子で大体の人数が揃っていることになる。

志和が珍しく小走りでみんなの所まで近づき、リーダーの出現でより一層みんなが気分を盛り上げ始める。まだ戻ってきてない面子も居るが、それでも十分嬉しいんだろう。

「済まない。私の状況判断能力が足りなかったようだ」

「いやあ、まさかあのタイミングでエース機が仕掛けてくるなんて思いませんよ。それに撤退命令を出してくれたおかげで戦って無駄死になんてことにならなかったっすよ」

「だが…まあ、君たちがそれでいいと言うのなら構わないか」

志和もわずかに気分が高揚しているのかいつもより口数が多い。珍しいこともあるもんだと思って佑奈はまじまじとその光景を見つめる。もしかしたら、今までもそうだったのに立ち会おうとしなかっただけかもしれない。

そしてバカでかい駆動音が響き、佑奈たちは一斉にこちらに近づいて来る黒い機体に視線を向けた。腰に剣をマウントし、片腕に何人かを乗せた【黒刃金】は、右腕を失い、おまけにあちこちの装甲に損傷を無残に残した姿だった。今まで見たことなかったボロボロの姿に思わず息をのむ。

なぜだろう、【黒刃金】がボロボロの姿をさらしているのを見てわずかに悲しみを感じている自分が居る。考えてみれば、操縦しているアイツは昔の私達と同じで、ある日突然いきなり戦いに放り込まれて、訳も分からずがむしゃらに命をすり減らして戦っている。それ以上に、アイツは私たちの中で孤立している。もしかしたら、アイツの負担は私が考えているよりもずっと重いのかもしれない。

だけど、それでも私はそんなこと表に出さないように注意しながら停止して片腕をゆっくり地面に降ろし、コックピットから這い出るように出てきたアイツのもとに近寄った。

「助かったぜ。ありがとよ」

だけど、その前に【黒刃金】の腕から降りた一人が声を上げた。真っ青な顔で【黒刃金】の機体に寄り掛かっていた一真は目をパチクリさせる。

「そうだよな。お前が居なかったら、俺たち全滅なんてシャレにならないことになってたかもな」

「ああ。さっきだってお前がアイツを引き付けてくれたから俺たちも逃げられたんだ。本当に、感謝してるぜ」

「ありがとう。本当に」

次々と寄せられる感謝の言葉。一真は戸惑うばかりでどう答えればいいのか分からなかった。それを遠目に見ていた志和が小さく笑い、みんなに背を向けて臨時の作戦室に戻っていく。まるで、もう自分は必要ないと言わんばかりだった。

「おい、お前が倒したエース機は?」

「は、はあ?こう見えても結構ボロボロなんだよ俺。ってかなんでそんなこと聞きたがるんだよ」

鋭い目つきで今にも掴み掛らんばかりの勢いを付けて近づいて来る佑奈を前に一真が思わずのけぞる。まあ、当然の反応だったが今の佑奈にはそんな態度すら気にできない。

「そう言えば、斉人は?後発部隊だったはずだろ」

その時、誰かがふと呟いた。

「斉人?もう戻ってるんじゃないのか?」

「此処にはまだ戻っていない…?」

周囲を見回し、すぐに思い浮ぶ顔を探す。だけど、斉人はどこにも居なかった。みんなもざわつき始め、口々に斉人の名前を呼び始める。だけど、返事が帰ってくることは無かった。

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