表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

12:新型

爆破の衝撃に煽られて地面に叩き付けられる。鉄みたいな味と砂利が口に広がり、斉人は慌てて立ち上がって走り出した。ちょうどさっきまで居た場所に銃弾が叩き込まれ、身を隠した瓦礫に散弾のようなアスファルトの欠片が当たって鈍い音を立てる。さっき斉人の背中に当たったのはどうやらこのアスファルトらしい。鈍く痛み続ける背中を手で押さえ、斉人は口元を拭った。口を切ったのか、それとも内臓をやられたのか。是非前者で、と心の中で叫びつつ斉人はリストフォンの通信に耳を澄ました。

≪志和さん!早く救援送ってくれ!≫

≪このままじゃ持たない!≫

≪【黒刃金】は!?あれなら戦えるんだろ!?≫

≪前方で別の敵機と交戦中だ。彼が救援に行くには時間がかかる。済まないが、こっちの援護部隊が到着するまではそちらで何とか耐えてくれ!≫

≪そんな!?≫

通信機からは絶え間なく悲鳴が聞こえる。必死に体をかがめつつ走る続ける斉人は後ろを振り向き、その青い巨大な重量二脚機の能面のような顔を視界に入れる。恐らくあの敵機は【黒刃金】と同じ日本のエース機として開発された特注機だろう。すばやい動きでこちら側の爆薬トラップやバズーカ弾を回避し、右腕に持つライフル、電動音からして恐らくレールガンを連発してくる。正直言ってあれが持つ銃がライフルだろうがレールガンだろうが直撃はおろかちょっとでも隙を見せれば即死なのは変わらないのだからあまり問題ではない。

斉人はようやく敵機の視界から外れ、肩に担いでいたバズーカを敵機の足元を狙って撃つ。せめて足を損傷させられれば逃げられるかもしれない。同じことを考えているらしく、次々と彼方此方からバズーカ弾やグレネード弾が青い機体を狙い撃ち込まれた。

しかし、青い機体はそれらを右、左と信じられないような動きを見せてすべてを回避していく。外れたバズーカ弾が青い機体の背後のビルに直撃して爆発し、爆炎に照らされて能面のような顔がゆらりと笑って見えた。

「嘘だろ!?」

信じられない。いや信じたくない現実を前に、斉人は慌てて走りだしながら叫ぶしかなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



慌ただしく動き回る志和達。不安そうに周囲を見渡す非戦闘員たち。そのすべてがこの異常事態に振り回されている佑奈に余計なプレッシャーを与えているようだった。

廃墟になったショッピングモールの駐車場に設置された臨時の作戦所で設置されたばかりの通信機の前に陣取り早口で次々と指示を送り続ける志和に指示をもらおうと走るが、状況を少しでも知ろうとごった返す非戦闘員たちの人混みに飲まれ、佑奈は思ったように進めずにいた。

声を張り上げてどけと叫んでも掻き消えてしまうほどの喧騒の中、佑奈は聞き覚えのある泣き声が聞こえた気がした。思わず声のした方に向けて人混みをかき分けて進む。やがて、人の波にのまれて泣きじゃくる幼い女の子が佑奈の視界に入った。

いつもなら、当然無視するはずだった。ああいった奴の世話は斉人の仕事で私の仕事じゃない。そもそも私は子供のなだめ方なんて知らない。なのに、今はそんなことが頭から飛んだ。気が付けば泣きじゃくるの女の子の手を引き人混みの中から脱出する。しかし、いまだ泣き続ける女の子の顔を見たあたりで後悔した。なんでこんなことをしたんだろう。私らしくない。だけど、この女の子どこかで見た気がする。

「お、お姉ちゃん…」

どこかおびえた顔と大きめのピンクのリボン。思い出した、よく斉人と一緒に居る女の子だ。名前までは知らなかったが、聞いておけばよかったなんて後悔してしまった。でも、だからと言ってこのままにしておく訳にもいかない。さすがにそんな人でなしな真似ができるほど私も尖ってないつもりだ。

「ここは子供が居る場所じゃない。早く保護者のとこに戻れ」

我ながら何とも意地の悪い言い方だ。慣れないことはするもんじゃない。

当然女の子はより一層泣きじゃくるだけだった。

「い、居ないよ。加那にはもうお兄ちゃんしか居ないもん!」

「斉人のことか?」

加那と名乗った、と言うか一人称が名前なんだろう。とにかく、加那は私の問いかけに小さく頷いた。

「こーはつぶたいに行っちゃって、それで…」

さらに激しく泣きじゃくり、とうとう周囲の非戦闘員たちも気づき始め、佑奈は頬が厚くなるのを感じた。こんな形で注目を浴びるのは全然慣れていない。なり始めた手首のリストフォンに救われた思いで佑奈はリストフォンを操作した。

≪佑奈、遠距離迫撃砲を組み立てて支援砲撃をしてくれ。相手はかなり強力だ。恐らく歩兵を送っても無駄だろう≫

しかしリストフォンから聞こえてくる志和の司令はあまりに残酷かつ、志和に罪は無いとはいえこの場の空気を最悪な形で歪ませてしまった。加那の泣き声だけが響く中通信を切る。周囲の大人たちの顔も曇り、その様子を感じ取ったのか加那が崩れ落ちていく。

その時、激しいブースト音とバカでかい駆動音が佑奈たちの耳に聞こえてきた。こんな音を出せる奴は一人しかいない。

バックユニットのブースタを最大限に吹かし、さらに全身の装甲の隙間からも火を噴くブースタを覗かせ【黒刃金】の真っ黒な装甲が幹線道路を高速で突っ切てくる。一瞬このままこの臨時拠点の真ん中を突き抜けていくかとも思わせる勢いだったが、直前で足腰のブースタが火を噴いて黒い巨体が高くジャンプして佑奈たちの上空を飛び越していった。

上空から叩き付けられるような風圧から加那をかばい、舞い上がる土煙に目を閉じる。ようやく視界を取り戻して飛び去って行った方角を見れば、既に【黒刃金】はかなり遠くまで移動していた。

「斉人は大丈夫だ。多分、な」

「え?」

「そこの男、この子を任せた」

佑奈は軽く加那の頭をポンと撫で、同じく呆気にとられて【黒刃金】を見送っていた男に加那を半ば押し付けるように頼んで走り出した。

やっぱり、らしくないことばかりしている。もしかして斉人の言う通り、アイツが現れて私は変わってしまったのかもしれない。別に悪い気はしないが。

だけど、なんで私はアイツと出くわしただけでここまで変わってしまえたんだろう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



エネルギー回復のためにケーブルを差し込んだその時、モニターに志和の顔が映った。相変わらずの細目だが、それでも顔色は悪かったから何か問題が起きたことは分かった。しかしその割にはモニターの向こうは静かだ。当てにならないレーダーじゃここからどこに敵がいるか分からないから向こうの状況はさっぱりわからないのが厳しい。

≪一真君、後発部隊が敵機の襲撃にあっている。しかもいつもの【甲士】じゃなくてエース機の様だ。至急戻ってくれ≫

「わ、分かった!つってもここからじゃどんだけかかるんだ?」

≪出来る限り早く頼む。後発部隊には斉人君も居るんだぞ!≫

めずらしい早口で告げた内容は一真の背筋に冷たい物を伝わせた。

斉人が危ない。こんなに怪しすぎる、怪しまれて当然な境遇の俺をあそこまで良くしてくれたアイツが死ぬかもしれない。想像したくない。いや、そんなこと考えている時間も惜しい。

ディスプレイを操作し、彼方此方のパネルやスイッチを押していき送られてきた戦闘地域までの距離を計算し、全動力をブースタに送る。地面に転がった【甲士】のライフルを拝借し、剣を腰のあたりにマウントして最高速を出すための体勢を取らせる。ほぼ一直線だから出来ることだが、最高速は今まで出したことは無い。どのくらい負担がかかるかも分からない。だけど、そんなことで立ち止まるつもりはない。

フットペダルを思い切り踏み込み、真正面から見えない板で全身くまなく殴りつけられたみたいな衝撃に包まれながら先を睨む。速度計に時速100㎞を突破したと言う表示が視界の端にわずかに見えた気がしたが、すぐに視界がブラックアウトして真っ暗になる。何も見えない。耳鳴りも激しくて音も分からない。全身ももれなく押しつぶされていくようで何かが触れている感覚なんて分かるわけがない。

「ぅぉおおおおあああああああああああああああああ!」

だけど、ここで自滅なんて笑い話にもなりはしない。絞り出すみたいに叫び声をあげ操縦席のシートに叩き付けられてへばり付いていた両腕を無理矢理シートから引きはがし操縦桿を握る。首の骨が折れそうになりながらも頭を振り、血液を無理矢理脳内に循環させて視界を取り戻す。心臓も異常なほどバクバクしていて、全身の体温が滅茶苦茶上がっていくのが分かった。速度計が時速150㎞を指し、モニターに臨時の拠点になったショッピングモールの駐車場が映り、俺は両方の操縦桿を押し込み、フットペダルを思い切り踏む。【黒刃金】の機体が全身のブースタからの噴射でジャンプし、強烈な上からのGと一緒にモニターの映像が廃墟のショッピングモールから青い空と遠くのビル群に変わり、全身が砕けそうな衝撃と一緒に再び元の幹線道路に変わる。足元のアスファルトが砕けたのかわずかな間断続的な振動が続いたが、それでも速度は出来るだけ落とさないためにもブレーキはかけなかった。ここで速度を落とすつもりはさらさらなかった。絶対に間に合わせる。

操縦桿を改めて強く握りしめ、ディスプレイに表示された戦闘地域までの距離があとわずかにまでなったことを確認する。しかし、同時にエネルギーもまた大幅に減少していることに一真は気づかなかった。

やがてモニターに青い機体が映り、一真は操縦桿の引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ