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11:慢心

装甲車の後部に専用の器具を取り付け、トラックの荷台を改造した非戦闘員用の輸送車を連結する。今日の作戦は移動だけの予定なので、必要以上の戦力を整える必要はない。むしろそんなことに時間等を浪費する余裕はない。そうなってくると佑奈としてもまた戦闘部隊に入れろなどとごねることは出来なかった。

「連結完了。いつでも出発できる」

≪よし、じゃあ出発と行こうか。僕らが出発してから五分後に後方部隊も出発してくれ≫

口々に了解、と返事が返っていく。次々と目の前で止まっていた装甲車たちが非戦闘員を乗せた輸送車と一緒に動き出し、佑奈もアクセルを踏みしめた。

一足先に起動し足裏のローラーでゆっくりと先陣を突っ切っていく【黒刃金】が視界に入り、思わずハンドルを握る手に力が籠ってしまった。アクセルを踏む足に力を入れなかった私の自制心に何となくほっとしたが、それ以上あれを見てたらその自制心さえ無くなりそうで無理やり視線を運転席のディスプレイに視線を落とした。暫く道なりだし、そもそも前の装甲車についていけばいいのだから自動操縦でいいだろう。

設定を終えて一息つき、ふとミラーに映る自分を見つめる。斉人に喋り方を指摘されて以来どうしても今までの顔をするのに苦労してしまっている。一体今まで、どんな表情をしていたんだろう。言われてみれば、アイツと出くわしてからと言うものやたらと振り回されてばかりだ。今だって、気づけばアイツの言葉如きに頭の中をぐちゃぐちゃにされてしまっている。と言うか、アイツが来てからと言うものここがアイツを中心に回り始めている気がする。気に入らないが、それは紛れもない事実なんだろう。しかしそんなことを考え続けているとまた変な方に考えが行きそうだった。それも全部、斉人が余計なことを言うからだ。

何となく気になって、ディスプレイに作戦予定の人員配置を表示してみる。斉人は後方部隊だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



自動操縦モードの微妙な振動を全身で受けつつセンサーを最大範囲で周囲を索敵する。今のところは敵機の反応は無いが、意外とこの機体のセンサーは性能が悪いらしい。実際レーダーの索敵範囲の最大半径が五十キロ圏内と言うのは通常のレーダーより明らかに弱い。まあ、本来人が乗ることを想定していないのでしょうがない。確か索敵から戦術司令と言ったことは安全区域から専門のプロがやる予定だったとか。そう思えばこのレーダーも万一のための非常用でそれ程容量に余りが無かったんだろうと想像がつく。

その辺のことは一応昨日の内に報告しておいたから、志和達もそっち方面でこっちに期待していることは無いだろう。今レーダーを付けてるのはあくまで何もやることがないのがきついからだ。コックピットの中ってだけでくつろげるわけもないし。

≪やあ一真君。上司に朝の挨拶は無いのかい?≫

「誰がするかっつの。嫌味言いにわざわざ通信送って来たのかよ」

≪いやいや、ちょうど出勤したとこだったからついでに、ネ。今何してるの?≫

一々腹立つ喋り方をするオッサンだ。この時代にわざわざ語尾にネなんて使う奴がまだ居るなんて知らなかった。ま、誰が使っても可愛くないだろうがこのオッサンが使ったらもう変な笑いしか浮かんでこない威力を誇っていた。

「今移動中だ。多分明日にはエレベータに着く」

≪あらそう。じゃ、僕忙しいから切るね≫

たった今正午を指したデジタル時計を横目に思わず乱暴に通信を切り、取りあえず落ち着くべく携帯食料を口にしつつ改めてレーダーを漫然と眺める。相変わらず全く反応は無い。ま、こいつの性能から言って敵の反応があれば志和達から連絡があるんだろう。

≪一真君、レーダーに反応だ。前方約六十キロに一機≫

「分かった。一機なら俺一人で十分いける」

≪なら私達はここで一時待機だ。後方部隊にも連絡しておこう≫

志和からのまともな通信を切り、自動操縦モードから手動に切り替える。六十キロなら全速力で五分で着く。瞬時に出た計算結果を受け、後方と足元を確認する。当然前には誰も居ないし、既に一時待機を始めている非戦闘員たちは安全な後方に居るので問題ない。

確認を終えた一真はフットペダルを踏み込み、元は幹線道路だっただだっ広いアスファルトの道を突き進んでいく。彼方此方崩れたビルの瓦礫やひび割れたアスファルトに時折足を取られかけながらも速度を上げ、バックユニットのメインブースタが火を噴く。やがて、敵機がこちらのお粗末なレーダーに映った。やはり敵機偵察中の【甲士】だ。反応は無いが、もしかしたら近くに空中偵察機も飛んでいるかもしれない。だが一機だけなら一人でも何とかなる。今までも志和達の援護があったとはいえそれ以上の数を何とかしてきた。なら、タイマンでも何とかできるかどうか試すいい機会だろう。

残り三十キロの時点で敵の動きが変わった。こっちの反応に気づいて確認に来たんだろう。一気に距離が縮まっていく。両方の操縦桿を強く握りしめ、先制を取るべくさらに強くフットペダルを踏み込んだ。

こちらの動きに気づいた、と言うか反応したのか敵機が動きを止める。距離は後五キロ。ディスプレイを操作し、バックユニットの左側のブースタが火を噴く。右に押し付けられるような強烈なGを受け止めながらさらに操作を続け、敵機がこちらの動きに反応し続けていることを祈りつつ円の動きで距離を詰めていく。昔やったロボットゲームの動きだが、果たして実戦でどれだけ通用するか。免許の教習所で行った大型二脚の実習での模擬戦では相手を混乱させただけだったが。

ついに円が縮まり、敵機の周囲をかなりの速度で周回しつつあった。メインブースタを切って左のサブブースタを全開にする。敵機が混乱してライフルをあちこちに構えるも発射には至らない。基本的に自動操縦なので射撃武器を使う際は必ずロックオンしてから撃つようプログラムされていると聞いたことがある。ビルの影を隠れ、途切れ途切れながらも敵機の機影をモニターの中心に捕え続ける。ゲームならこのまま銃で蜂の巣だが、今持っている武器は剣しかない。そして敵機の【甲士】は足裏のローラーが旧式なので振り返るのに一々歩く必要がある。なら、隙を見つけて切りかかるだけ。

こっちの機体が敵機の真後ろについた所で右のブースタを点火し、今度は真逆の左に押しつぶされていくGに耐える。今度は今まで慣れていた右向きのGから急に逆になったからかいつもより強烈で一瞬視界が真っ暗に押しつぶされてしまうが、二・三度頭を振って元の視界を取り戻すとまだ背中を向けている敵機をロックオンした。

バックユニットのメインブースタが再び点火し、振り返りつつあった敵機にシールドガンを構えたまま思い切りぶつかる。左の操縦桿と連動した左腕がシールドガンを振り上げ、敵機のライフルを持った右腕を派手な金属音と共にはじき、露わになった右肩の関節部分にある装甲の隙間を右腕の剣が切り上げた。そのまま再びシールドガンでぶん殴り、敵機を突き放すように距離を取った。

音を立てて敵機の右腕ごとライフルが地面に落下し、両方の切り口から火花が散る。敵は左腕のシールドしか残っていない。だが敵機は迷わずシールドをパージすると予備の高振動ナイフを左手首の装甲の隙間から取り出して構えた。今まで見なかった武器に一瞬戸惑うも、それほど射程は無いし片腕失ってバランスも微妙に取れていない【甲士】を相手に負ける理由は無い。

「ははは。結構やれんじゃんか、俺!」

思わず知らず口に出た。たった一体、しかも先兵の量産型相手。だけど、それでも自信は付いた。

よろめきながら突撃してくる敵機の高振動ナイフを回避し、すれ違いざまに右足の膝から下を切り落とす。派手な音を立てて地面を滑っていく。既に勝負はついている。こうなれば、もう後はコックピットの中に入って直接電源を落としてしまった方が楽だし早い。

だが、この戦いで無駄なエネルギーをかなり使ってしまったらしい。既に残りエネルギーが76%まで消耗していた。この当たりは反省点だろう。無駄な動きが多すぎるらしい。

「じゃ、根こそぎエネルギーを貰うとするか」

胴体の接続口にケーブルを差し込み、充電開始。これならすぐにでも終わりそうだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



≪【黒刃金】、敵機と接触を確認。交戦開始した模様≫

≪敵増援の反応は?≫

≪ありません。小型偵察機も反応なしです≫

通信機から聞こえてくる報告の数々を半ば聞き流しつつ、赤土は傷病兵用の輸送車の中でリストフォンのアプリを起動した。勿論ゲームのような物ではなく、映像を検索して再生するタイプのアプリで、検索していたのは先日の戦い、特に赤土たちが大怪我を負った爆発事故の瞬間の映像だった。

あの時は爆発のショックで気が動転し咄嗟に仲間たちがもらい火や流れ弾を見逃したのだろうと思い込んでいた。だが、意識を取り戻した面子は全員そんなことは無いと断言していたし、何よりそんな気配など全くなかったことを思い出した。流れ弾なら音がするはずだし、もらい火が弾薬箱の近くに発生していれば間違いなく気づくはず。だが、誰一人として気づく者が居なかった。なら、本当の原因は何なのか。

「ああ?」

答えを探して検索したあの時の映像を見つけることは出来なかった。その時偵察機は全く別の地点を飛んでいたからだ。だが、その代わりに別の記録データが表示された。

≪うわああああああああ!≫

≪どうした!?何があった!?≫

≪敵が来た!しかもいつもの量産型じゃねえ!≫

それについて詳しく調べようとした途端、切羽詰った声が無線に響いた。

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