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ポーシャ  作者: nooom
2/11

ポーシャ・2

前書きって何を書けばいいんでしょう?

面白いこと書こうと思いましたが、何も思い浮かびませんでした。


とりあえず本編をお楽しみください。念のため、話を二話に分けました。

突然ではあるが、古賀幸助の初恋は高校に入学してすぐだった。「運命的な出会い」という映画や漫画じみた状況が、彼の気持ちに拍車をかけたのかもしれない。だが、彼の高校生活は、その出会いでより濃いものとなっていた。


その時、彼は学校から少し離れたバス停で、最寄りの駅に向かうバスを待っていた。新生活ということもあり、まだ慣れない学校生活からの帰りには、ちょっとした安心感があり、明日予定されていた部活動見学には誰と行こうかな・・・などと彼は、のんびり考えていた。

この時は細かくではあったが、雨が降っていた。まだ4月ということもあり、雨は少し冷たさを感じさせていた。

そうして、バスが来るのを待っていた時だった。


自分と同じ制服を着た女の子が走って、自分と同じバスの時刻表の前に止まった。その子は制服をびしょびしょに濡らし、すっかり冷えていたであろう体を細かく震わせていた。

彼女はせめて持っているバックだけでも濡らさないように、と黒い鞄をしっかりと抱きかかえて傘は持っていなかった。近くに雨宿りできるような場所があれば、幸助も彼女に気を使うこともなかったのだが、この二人が待っていたバス停の周りには、屋根付きのベンチや大きな木などはなかった。

その子は「え~っと・・・」と小声で呟きながら、細かい文字の書かれた時刻表を指で追いながら見ていた。幸助はそんな彼女のことをさしていた傘の間から、そっと見ていた。肩を見ると、自分と同じ学校の校章であるバッヂがついていてた。幸助の通う高校では肩のバッヂの色で学年が分かる。赤が3年、青が2年、緑が1年だ。彼女の肩には、まだ真新しい緑のバッヂがあった。


少女はしばらく時刻表を見ていたが、自分が乗るバスの時間を見るなり、口を唖然と開け、少しの間、ぴくりとも動かなかった。まるで漫画にでも描いたような表情で立ち尽くしていたので、幸助は失礼にも笑いそうになった。

彼女は何も言っていなかったが、バスが来るのは相当待たなければならないんだと察しがついた。

「なあ、バス結構待つの・・・?」

幸助は思わずそう聞いた。この時は、誓って彼の中には下心などなかった。

自分が声をかけられるなど、考えてもいなかったのか、その子はびっくりしたように振り向いた。

「え・・・?う、うん。少し待つことになりそうかも・・・」

「何分のやつ?」

「55分の・・・・」

なんだ俺と同じバスじゃないか・・・。

幸助の乗るバスは、あと20分近く待たなければならなかった。

幸助はそれを聞くなり、しゃがんで自分の鞄を開けて、もう一つ持っていた折り畳みの傘を引っ張り出し、それを彼女に差し出した。

「ほら、使えよ」

少女は突然の好意に驚いて、首を横にふった。

「い、いいよ!いいよ!大丈夫、気にしないで」

「いいから、使えってば。な?」

幸助が同じことを二度言うと、その子も流石に二度も「いらない」とは言わなかった。このまま濡れ続けるのは誰だって嫌だろうから当然の返事だった。彼女は「ごめん、ありがとう!」と、素直に名も知らない同級生からの傘を受け取った。

彼女は傘をさすと、ようやく余裕ができたのか、顔に張り付いていた長い髪の毛を横にかき上げ、ふう・・と短く息をついた。

「ありがとう・・・・。助かっちゃった」

思いのほか、友好的な態度で話しかけてきてくれたので、幸助も気を良くした。

「いいんだ。どうせ同じバスだから」

「ほんとにありがとう。あたし、学校に傘を忘れたみたいで・・・」


幸助は、ここから先のことを誰かに正直に話すと、いつも笑われてしまう。だが、彼がここで感じたことは本当の気持ちで、彼の人生最大の青春の瞬間だった。

もしも、この時、彼女の顔を見ていなかったら、幸助は彼女のことをどうとも思っていなかったかもしれない。ただ「偶然に親切をしてあげた女の子」というだけで、友人にすらならなかった。彼はこの時のことを思い返すとどうしてもそう思えた。


だが、幸助はこの時の彼女の顔をしっかりと見て、今日まで忘れたことがない。

しっとりと濡らした髪に、寒さで桃色に染まった頬・・・、何より警戒もなく無償で向けてくれるその笑顔が、どうしようもなく可愛らしく見えたのだ。

理由などなかった。完全に衝動的な感情だったが、その彼女の表情が自分の脳裏に焼き付けられた。「人を好きになる」という意味では、とても短絡的な理由かもしれないが、その一瞬で幸助は、その少女に一目惚れした。


「そ、そうか・・・。傘は明日、学校で返してくれればいいよ・・・・」

幸助は突然、傘を深くさし、自分の顔を隠した。顔が火照ったように熱くなり、自分の顔が赤くなっていると鏡も見ていないのに分かった。自分の心臓音が耳にまで聞こえるようだった。

「私、4組の三島由愛」

その少女はそう名乗った。

後から知ったことだったが、三島由愛はそれほど特別な女子ではなかった。特別頭が良いわけでも、魅力ある特別な性格があるわけでもなかった。容姿もそれほど良いわけではなく、彼女のことを何も知らない男子に話すと「わるかないけど、いい趣味じゃねえ」とも言われた。普通に長所と短所を持つ、普遍的な女の子。だが、幸助はそんな彼女に強い魅力を感じていた。

「お、おれは2組の古賀幸助・・・・」

「うん。よろしく、古賀君」

彼女との出会いを「運命」というのは、少々大げさだっただろうか?幸助は自分のことを、断じてロマンチストではないと思っていたが、直観的にそういったものを感じずにはいられなかった。

古賀幸助はその日、三島由愛に生まれて初めての恋をした。


古賀幸助は、「ロマンチスト」と「リアリスト」の決定的な違いは、行動を起こすか否かにあると考えていた。為せば成る、為さねば成らぬ。彼はあの雨の日から境に、自らの想いの成就のために努力を始めていった。

もちろん、真っ先に彼女に告白をしに行くなどのバカはしなかった。幸助は焦らず、慎重に彼女へ近づき、少しずつ開いていた距離を縮めていった。

幸運なことに三島由愛は、雨の日、傘を貸してくれたという印象的な幸助の好意を覚えていた。彼らが知人から友人になるまで、そう時間はかからず、入学してから2年経っての今では、教室で雑談し、何人かの友人も交えて遊びに行くまでの関係になった。

そうして、制服が体に馴染んで2年・・・。

ある日、古賀幸助は、ついに三島由愛に告白することを決意した。

だが、突然、彼にはそうすることができなくなる理由が出てきてしまった。彼自身が怖気づいたわけではなかった。幸助の中では、まだ三島由愛に対する想いは暑く燃え続け、その感情は喉からがあふれでそうなほどだった。

そんな彼の感情の高ぶりを一気に吹き消してしまったのは、ふと聞いてしまった、たったひとつの噂話だった。


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