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11話5節(上)


[5]


 世界がすっぽりと夜闇のヴェールに覆われ、天に星が輝きだしたころ。どうにか無事帰還しおおせたアトリ達は、些かくたびれた様子で一人、また一人と玄関へ身を滑り込ませていた。そこに緊張の糸が緩んだような雰囲気が漂っているのは、この家が幾重もの結界に守られた絶対的な安全圏であるが故だろう。


「やあやあ、皆よく帰ってきたね! お疲れさま! 早速だけど治療の時間だよ!」


 ……ああ、何たることか! 本来、温かな電球色の照明で帰宅者を迎えるはずの玄関は、ビビッドピンクのけばけばしい光が支配する異様な空間へと様変わりしていた。そして、そこで一行を真っ先に出迎えるのは、目に猛毒なミニスカナース服姿に変身した郁だ。奴はねぎらいの言葉もそこそこに、黒々とした網タイツに包まれた美脚でしゃなりしゃなりとこちらへ近付いてくる。


 これは、これこそはまごう事なき変態だ。奴こそが、このサイケデリックなおピンク空間の支配者なのだ――本能的にそう理解せざるを得ない視覚の暴力に、そして安全圏にあるまじき不穏な存在に、アトリはげんなりして祐の背に隠れる。腹黒悪魔とミニスカナースの変態、どちらも碌でもない奴ではあるが、今この場に於いては前者の方がずっとマシだ。


「おやおや……どうしたんだい? 皆そんな怯えた顔して。早く傷を見せてごらん。僕がきっちりしっかり、そしてバッチリ治してあげるよ」

「ひ、必要ない。俺たちは祐の治療でちゃんと治った!」

「そ、そうだぞ! それより秀を治してやってくれよ……何か呪いがやばいって、祐が言ってたぞ!」

「そうなのかい? なら良いんだけど……そんな借りてきたチワワみたいに震えられると、何だかそそるんだよね」


 小首を傾げて近寄るミニスカナースの変態に翼や武志は涙目で震え上がり、すぐ側の朔の影に隠れてしまう。……溜まったものではないのは盾にされた朔だが、彼は些か迷惑そうにしながらも冷徹な面持ちを崩さない。さながら守護神像の如く軟弱な片割れ二人を背に庇い、接近する郁をアイアンクローで食い止め、痛烈な往復ビンタをお見舞いした。いつぞやかのドロップキック事件といい、今回といい、彼は他の片割れより変態綿毛に強いようだ。


「……郁、今は戯れに興じている場合ではありません。早く秀を診てやってください。身体中に呪いの残滓が散らばってて、僕にはどうしようもないんです」

「あいたたた……君が手間取るなんて、よほど酷くやられたんだね……良いよ。秀の治療は僕が引き受けよう。――来てくれ、識!」


 朔に成敗され、祐に釘を刺され、少しは素面に戻ったらしい。腕捲りした郁はパンパンッと高らかに手を叩き識を呼び出す。そうして現れた彼だけはまともな姿――医療スタッフらしい白衣姿――だったのは幸運と言えるだろう。長身痩躯の能面フェイスがナース服など、放送事故レベルの大惨事にしかならない。


「ふむ。今のところ、バイタルは概ね安定しているが……呪いの残滓があまりにも多すぎるな。これでは自然回復する前に症状が再発しそうだ」

「やっぱりそうかい?」

「早急に除去処置を行うべきだろう。……なに、侵食箇所の座標データは全て取れた。後はこれをお前にインストールさせ施術するだけで良い」


 全ての吸盤を開眼させた蛸触手を二本ほど伸ばし、しばらく怪我人をスキャンするようのたくらせた識は、そんな風に郁と短く言葉を交わす。除去だのインストールだのと、まるでコンピューターかアンドロイドのようだ――素人故に細かい事はよく分からないアトリがそんな感想を抱いているうち、二人は慣れた手つきで秀をスライム担架からストレッチャーに移し、運んでゆく。どうやら、行き先は物置扉の向こうに新設された医務室であるらしい。


「本当に大丈夫なんでしょうか。識さんはともかく、あんなミニスカナースの変態綿毛に任せて……」

「確かに郁はどうしようもない変態ですが。同時に、黒騎士でも並ぶ者の居ない再建療法のスペシャリストでもあります。僕の魔術や魔法薬で治すのが難しいダメージも、彼なら損傷細胞を除去し、健康な細胞を移植する事でまっさらな状態に戻せる。……秀の呪いに侵された体だって、小一時間も有れば元通りにしてしまうでしょう」

「はあ」


 細胞移植による完全治療。ある意味では人類の夢とも言えるそれを、己の能力としてほしいままに行使できるとは……相変わらず、変態の癖してどこまでもデタラメなハイスペックである――アトリは感心半分、呆れ半分の妙な気分で肩を竦める。こういう事がしばしば有るからこそ、不二郁という男は侮れない。



◇◇◇◇



 とにもかくにも、これで秀は大丈夫だろう。朔や翼たちも祐の治療で万全に回復しているようだし、自分がここに留まる理由は無い――そうして自室へ帰ろうとしたアトリの肩を誰かの大きな手が掴む。振り返れば、腹黒悪魔に似つかわしくない爽やかな笑みを浮かべた祐が居る。


「祐さん……? どうしたんですか?」

「僕たちも医務室へ行きましょう。アトリさんには、もう少しメンテナンスが必要です。さっきのはあくまでも応急処置ですからね」


 胡散臭がるような冷淡な眼差しにも怯まず、祐は砂糖菓子のように甘い声音でそう囁き、アトリの手を優しく引いてゆく。行き先は言わずもがな件の物置の向こうの異次元空間、秀が連れて行かれた医務室だ。……どんな情け容赦ない治療をしているのか、奥に佇む手術室からは負傷者の物凄い叫び声が聞こえる。本当に大丈夫なのだろうか。


「……少々うるさいですが、心配はいりません。ちょっと触手状の蔓を差し込んで、呪いに侵された体組織を取り除いたり、穴埋めの治療妖蟲を注入しているだけですよ。あとは、火傷した皮膚に張り付いてしまった衣服などの異物を取り除いたり、少し滲みる治療薬を塗り込んだり……まあ、いずれも治療の範疇です」


 安心させようというのだろう。病院に入るのを嫌がる犬の如く足を竦ませたアトリに、祐は優しい声音でそう囁く。しかし、肝心なその内容はといえば腹黒悪魔らしく非情な切り捨てで、安心できる要素などまったく存在しない。


 きっと、この腹黒悪魔には人の心というものが分からないのだ。でなければ、「仲良くしましょうよ」と言いつつ人の神経をわざと逆撫でしたり、死にかけた花嫁を「あなたは馬鹿ですか」などと言い痛め付けたりなどしないはずだ。数少ない治療役が片やこんな腹黒悪魔、片やセクシーテロリストだなんて、この組織は弱った者にまったく優しくない。――手を振り払い逃げようとしたところを子猫のようにつまみ上げられ、衝立の向こうへ押し込まれるなか、アトリは内心でそう嘆いた。


「良い子にしていてください。魔力の過剰使用は体にも魂にもガタが来るんです。なるべく早期に、きちんとメンテナンスしておかないと……」


 椅子に座らせたアトリに背を向け、ごそごそと傍らの薬棚から色々な瓶を取り出す祐。人をからかう時とは違う真面目な横顔からは、本気でアトリを自壊から守ろうとしているらしい事が窺えた。……それ自体は非常に頼もしいしありがたいのだが、今まであれだけボロクソ言ったりしておいてこれというのは、気まぐれにも程がある。今日が初対面という事を差し引いても、目の前の男の思考回路はまったく理解できない代物だった。


「――何ですか? そんな熱視線を送られると恥ずかしいです」

「べ、別に、そういうんじゃありません。ただ、どうして魔術師で衛生兵の人が神父さんの服みたいなのを羽織ってるのか、不思議に思ってただけで……」

「ああ……これですか。衛生兵というのは、時に救護した相手をそのまま葬送しなければなりませんからね。この方が効率的なんですよ、色々と」


 ニッコリ笑ってそう言う祐の姿は悪趣味以外の何物でもなく、アトリはやはりこの男は治療者や聖職者という柄ではないなと顔をしかめた。その本性と役割のミスマッチには悪魔的なアイロニーすら感じられる。


「本当に、ガワと中身が一致しない人ですね……はあ」

「何を言うんです。見た通り、僕はか弱く善良な魔物ですよ? ほら。こんな非戦闘員じみた格好のうさみみ男に、一体どんな悪行ができるというんです?」

「あんな鈍器で敵をぶちのめしといて、よく言いますよ」

「辛辣ですね、アトリさんは。こんなに女の子受けする可愛い動物系の黒騎士なんて、僕くらいのものなのに」


 見た目は確かに甘めの美男子だし、兎を擬人化したようなフワフワとした柔らかさもある。だが、中身は全然女の子が好きなやつではない。――そんな毒が喉奥からせり上がってくるのを抑えつつ、アトリは密やかに眼を伏せる。相手は腹黒大魔王だ。噛み付いた所で何の得にもならないのは、今までのやり取りで骨身に染みていた。


「……さて。おしゃべりはここまでにして、そろそろ始めましょうか」


 小さなテーブルに置かれた色とりどりの瓶。その内容物は液体から錠剤、ゼリービーンズ、粉末と実に様々だ。その中から祐が手に取ったのは、非常に見覚えのある――寧ろ忘れたくても忘れられない――ヌメヌメ蠢く白い物体が詰まった瓶だった。


 色は違えど、それはまさしくあの忌まわしき黒ナメクジと同じものに相違ない。祐はいつぞやの郁と同じように、自分にあの冒涜的な肉塊を引っ付けようというのだ。そんな不都合な真実に気づいてしまったアトリは疲れなど吹っ飛んだかのように逃亡を図ったが、敵のがたいの良さは伊達ではない。必死の抵抗もダンゴムシのそれと大差なく、敢えなく椅子へと戻された。


「暴れては駄目です。ほら、大人しくして」

「うう……く、黒ナメクジ……いやこれは白ナメクジか……とにかく、ナメクジだけは! それだけは嫌です! 別のにしてください!」

「別の……ですか? アトリさん。ここにあるのは全て、黒騎士細胞を培養して作った治療妖蟲ですよ? 用途別に適したサイズに変えてあるだけで本質は変わりません。全部ヌメヌメナメクジです」

「……まさか、そこのゼリービーンズみたいなのもですか」

「ええ。これは、経口摂取すると胃の中でコーティングが溶けてナノレベル状のナメクジが体内へ広がるタイプです」

「うえっぷ」


 取って付けたように「どれも最終的には体に吸収されるし無害ですよ」と言う祐だが、そういう問題ではない。あんな悍ましい物体を引っ付けただけでなく、飲み込んで吸収してしまっていただなんて……出し抜けにぶちあげられた重い事実と生理的嫌悪感に、アトリは思わず胃の内容物をぶちまけそうになる。


「い……嫌です。治療を断固として拒否します……!」

「駄目ですよ。うちでは患者に拒否権はありません。いい加減に観念して、大人しく治療されてください」


 結局のところ、情け容赦のない治療は変態綿毛でも腹黒大魔王でも変わらない。祐は非情なる死刑宣告を最後に、とうとうアトリの柔肌へぴとりと白ナメクジを引っ付けた。尻尾を踏まれた猫のような悲鳴が医務室に、そして雛形家全体に響く――。



◇◇◇◇



「――はい。これで治療終了です。やっぱり、魂魄や肉体に小さな綻びが出来ていましたね。……もうあんな無茶をしてはいけませんよ?」

「ぜえ、ぜえ……しませんよ。誰が好き好んで、こんなナメクジ地獄に遭うような真似をするもんですか……」

「本当にそうなら、僕も安心なのですがね」


 大いに懐疑的である。そう言わんばかりの口調と目付きで、祐は冒涜的な瓶たちを薬棚へと片付けてゆく。やんちゃ坊主の反省の弁ほどにも信用していない……そんな心境があからさまに滲み出ている嫌味な態度に、アトリもムッとして眉間に深い皺を作った。


「どういう意味ですか、それは」

「あなたは自分の身が一番可愛いと言いますが……いざ誰かが危険な目に遭えば、すぐ自己犠牲に走って助けようとします。僕には死に急いでいるようにしか見えません」

「……人を自殺志願者みたいに言わないでください」

「あなたに自覚が無くとも、僕らにはそう見えるのですよ。――花嫁にしたからには責任取って幸せにしてあげます。ですから、これからはちゃんと良い子にしていてくださいね」


 さながら不意討ちの如く、腹黒悪魔は甘い殺し文句を吐き、空色の瞳に慈しむような色を滲ませる。人の事を散々ボロクソに言っておいて、いきなりこれだ。気まぐれもここまで来ると、いっそ人格破綻者じみた塩梅に見えてくる。――グッピーも一撃で天に召されるであろう温度差に、アトリはそんな感を抱いてやさぐれた。やっぱり、この男とは馬が合わない。


「そんなにむくれては、可愛い顔が台無しですよ」


 面の皮千枚もここに極まれりと言うべきか。祐はまるで恋人と戯れるように頬をむにむにと弄ってくる。しかし、そんなので誤魔化されるほどアトリはちょろくない。用事が終わったのならこんな所に長居は無用だと、頬をむにむにする手を乱暴に剥がし、野良猫のような素早さで衝立の外へと脱出した。


 腹黒悪魔が追いかけてくる様子はない。今のうちにさっさと自陣わたしのへやまで撤退しよう――そんな心持ちでアトリが医務室を出ようとした時である。ちょうど手術室の扉が開き、そこから秀をストレッチャーに乗せた郁が出てきて進路を遮った。……哀れな患者はどうやら気絶しているようで、何か恐ろしいものを見たような形相でぐったりしている。さっきの叫び声からして、相当ひどい治療だったのだろう。満身創痍であっても凛々しさを保っていたはずの顔には、もう精悍さの欠片も残っていなかった。これでは、折角まっさらな状態にまで治されても全然そのように見えない。


「やあ、アトリ。君も治療が終わったのかい?」

「ええ。まあ、そんなとこです。……秀さんは大丈夫なんですか?」

「ああ、勿論さ。秀の治療ならバッチリ完了したよ。移植したてで細胞同士の繋がりが緩いデリケートな状態だから、しばらくは絶対安静だけど……なに、数日もすれば元通り動けるようになるさ。心配はいらない」


 そう説明した郁は、「おっと、立ち話してる場合じゃなかった。早いところ秀を部屋で休ませてあげないとね」と、怪我人を自室へぶちこむ為に医務室を出て行った。その間も怪我人は気を取り戻す気配すらなく、脱魂したようにぐったりしたままである。……白ナメクジ、もとい霊体修復用治療妖蟲ですら精神衛生上非常によろしくない代物だったが、郁による細胞移植はそれを遥かに超える恐怖と悍ましさをはらんでいるらしい。祐の言いなりになるのは癪な気もするが、あんまり無茶をするべきではないのかも知れない――秀のあんまりな惨状にぶるりと身震いしたアトリは、少々考えを改めつつ、今度こそ自室へ逃げ帰っていった。


◇◇◇◇


 患者の居なくなった医務室はシンと静まり返り、祐が道具を片付ける音だけがカチャカチャと物寂しく響く。そこへ不意にコツコツとリノリウムの床を叩く靴音がしたかと思うと、衝立の脇から約一名が顔を覗かせた。いつ見ても何を考えているのか分からない能面顔……識である。


「ふむ。一人寂しく後片付けとは……またアトリに嫌われるような事をしたのか」

「何ですか、識。僕を笑いにでも来ましたか」

「そういう訳ではないさ。俺も今しがた手術室の片付けを終えてきたところでな。まだアトリが居るかと思って顔を覗かせただけだ」


 そう嘯きつつ、するりと衝立の内へ入ってくる識。ここにアトリは居ないのだから素通りすれば良いものを、こうしてわざわざお喋りしに立ち寄るあたり、きっと今朝の剣呑なやり取りの事など忘れてしまっているのだろう。相変わらず切り替え早いことだ――そんな感を抱き、祐はあからさまな嘆息を一つ吐く。


「まあ、どうしてああも、いちいち意地の悪い言い方をするのかとは思うがな」

「単にそういう性分なだけですよ。それにです。一人くらいキツく言ってあげないと、アトリさんも無茶をやめないでしょう?」

「想うがゆえの忠告という訳か。難儀な奴だな」

「難儀で結構。……それにしても。君が花嫁候補をすんなり受け入れるなんて、珍しいですね」


 「考え無しに動いたな」という、皮肉げにうっすらと歪めた唇の意図は正確に届いたらしい。識は珍しくその能面顔を僅かにむっとさせた。……祐には預かり知らぬ話だが、識にとって、アトリを花嫁に選んだのは参謀としての熟考熟慮の末の話なのだ。それを考え無しなどと言われるのは甚だ不服で、とてもじゃないが黙ってなどいられない。


「全ては十分な期間を使って観察し、精査・考察した結果だ。雛形アトリは我々とこれ以上無い程に相性が良い。それはお前も分かっている筈だが」

「相性の良さ()認めましょう。ですが、前言撤回する気はありませんよ。あなたはあくまでも観察者気取りで淡々としているつもりなんでしょうけど、僕から見ればかなり入れ込んでます。――まあ、それもそうでしょうね。あれだけ弱くて隙だらけな子だと、ストーカーし甲斐が有るでしょうし」

「……俺はストーカーではない。ストーカーというのは、覗き趣味で対象を脅かすのが好きな、卑劣な変態の事だ。俺はそんな事はしない」


 凛として決然とそう言い切る姿こそは立派なものだが、実態は哀れな熱狂者マニアの開き直りである。当人の中ではきちんとした論理が出来上がっているのだろうが、客観的に見ればそうとしか言いようがない。……頭の良すぎる者にはよくあるエラーだ。識のような者は、なまじ賢く物事がよく見えているため、真理という名の闇に到達してしまいやすい。深淵を覗くうちに自らが深淵そのものになってしまうのだ。祐はこの片割れを見ていると、時々不憫で仕方がない。


 しかし、冷徹な観察者になりきれない、その不条理な心の動きこそがこの男を血の通った存在たらしめているのもまた事実である。人間性こそは、悪魔のようだと言われる自分に最も足りないものだ。それをこの男が当たり前のように有している事には、些か劣等感や嫉妬を覚えてしまう。ついつい当たりが厳しくなるのも、言葉に毒が混じるのも、きっとそのせいだ。


「アトリさんも、一番えげつなくて質が悪いのに好かれてしまって、可哀想に。囲い込んで駄目にされなければ良いのですが」

「そういう言い方は止めろ。まるで俺が駄目女製造機のようではないか」

「はあ。相変わらず、自覚症状が無いのですね……まあ良いです。この話はここまでにしましょう。――どうやら敵も本腰を入れてきたようですし、護衛や哨戒の編成を考え直さなければいけません。あんなのが続くようであれば、まだまだ未熟な年少さん達だけでは荷が重すぎる。年長組の召集を急ぐべきです」


 腐っても鯛……ならず、腐っても参謀である。話題を戦略に変えれば、識はさっと思考をそちらへ切り替える。お節介焼きの次兄でも、確信犯的なストーカーでもない。思慮深い戦略家としての顔で彼は祐の話に耳を傾け、思案を巡らせる。


「確かに、今日のような敵が続くとなれば今のメンバーでは少々心許ない。召集を急ぐとしよう。それまでは俺やお前、郁でカバーしていくしかないが……」

「……僕一人で十分ですよ。郁は指揮官、あなたは参謀なんですから。むやみに前へ出るものではありません。特に識、あなたの能力は切り札になり得る力なんです。取って置きにしておいてください」

「それは頼もしいものだな。……では、郁には俺から話をしておくとしようか。編成の詰めは作戦会議でする事になるだろうが、その時はよろしく頼む」


 隠微な微笑みを一つ残し、来た時同様するりと衝立をすり抜けてゆく識を、祐は大人しく見送る。ここで余計な事を言えば、あの口の立つ片割れがまたうるさくなるのは目に見えているのだ。なればこそ、とっとと仕事を与えて郁の所にでもやってしまうのが一番いい――長年の付き合いもあり、そこの所をこの悪魔的な男はよく理解していた。



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追伸:アクセスやブックマーク、評価、感想等々、とても励みになっております。この場を借りて御礼申し上げます。


2017/11/28:加筆修正を行いました。

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