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赤い瞳の前で信号は青く光る

 天気は晴れだ。空が透き通って光ってる。

 爽快に突き抜ける青に二羽の鳥が横切ってどこかへ飛んでいく。でも、それは朝のしめやかさを含んではおらず、いささかのんびりとした雰囲気を伴っている。なぜかといえば今が早朝でもなく、夕暮れでもなく、昼過ぎだからというだけのことだ。

 欠伸をひとつしてみる。空気に余分な二酸化炭素がひとつ放られ、次の瞬間には混じっている。

 俺は目覚めた後もしばらく寝転がったまま、組んだ腕に頭を乗せ、下方で流れる川のせせらぎを聞き、空を見上げていたが、そのうち「よっ」と上半身を起こした。

 木戸川の向こうでは、工場の煙突から煙がもくもくもくもく立ち上って、その中で従事する汗かき労働者を思わせた。ポケットを探って煙草に火を点ける。俺には少しも罪悪感はない。働く人たちはご苦労さまだ。今日も明日も他人のため。生き続けるために身体を動かす。そんなことをしたって無駄だろうに。信心は人を救う。

 俺と彼らはどちらがパラノイアックに見えるのだろうか。

 俺は先日週刊誌の片隅に見つけた記事を信じている。

 そこでは、専門が霊視・透視・ヒーリング・守護霊診断で、テレビに一回出てからというもの以前からの人気に更に火がつき、連日連夜予約の電話が鳴りやまないという元ライターの総合占い師、ゴダイ・ジョン・マッケリー氏が「六月三十日、隕石が地上に落下し、我が国は滅亡する!」と唱えていた。

 今はもう五月の半ば。これでどうして汗水たらして働く気になるのだろうか。これから何をつくろうったって全ては無に帰するのだ。意味などない。あらゆるものがなくなり、初めからなかったことになる。それなのにほとんどの人間はあの記事を目にも留めていないようだった。そうであるならば、俺も何の借りがあるわけでもない、わざわざ変わらず働く彼らにやめておけという気にもならないのだった。どうせ、彼らだって残された時間ですることなんてないのさ。

 隕石の到来を信じる俺と、終わらない日常を疑わない彼ら。

 どちらが真でどちらが偽か。

 どちらが死んでどちらが生き残るか。

 まあ、ぶっちゃけ、そんなのどーでもいいことだ。あんな胡散臭い記事、信憑性なんて皆無なことだし。

 大体、ゴダイ・ジョン・マッケリーってなんだ。元ライターって、総合占い師って、馬鹿にしてんのか。正味職に当てがなくなって、必死に闇金から金を借りて最後のチャンスと広告を打ってみたってとこだろう。たかが知れてる。

 たかが知れてることだ。

 北の方に目を向けると木戸川に架かる大きな赤い橋が見える。上では車が二車線の道路を忙しなく行き来している。築五十年くらいで、俺が生まれた時にはもう既にあった橋だ。袂で信号機がチカチカと黄に点滅している。

 工場の煙、赤い橋、背中に感じる雑草のチクチクした感じ、頭上の土手を通る下校途中の小学生の声。それらは最近、見慣れた風景になりつつある。こないだ新聞配達の仕事を辞めてからは、よくこうして時間を過ごしている。隕石が落ちてきたらどうせみんな死ぬわけだし、なんて理由に納得したように見せかけながらただ何もしたくなくなった。それだけの話だ。なんで早朝と夕方に俺がわざわざ二百戸近くの家々を回り、新聞を読むほど暇な奴らに貢献しなくてはならないのか。そして、それを一カ月二カ月やったくらいでは、一生遊べる金は決して手に入らない。そんなのやってられるわけないだろう。心の底では隕石なんて信じてないけど、最後に背中を押してくれたのはそれかもしれない。それも良いことなのか悪いことなのかは分からない。


 俺がぼんやりとそんな景色を見て、太陽が傾きだしたことを思っていると、土手の上で自転車の錆びたブレーキ音が鳴った。目を向けずに、誰かが降りたのを聞いていると、その人物は土手の斜面を下って近くまでやってきて、俺の顔を覗き込んだ。

「またこんなとこにいて。何してるの?」

 佐伯千佳だ。しつこい奴め。

「いや、何も。煙草吸ってるだけだよ」

「じゃあ、一本ちょうだい?」

 そういって彼女は俺の隣に三角座りをして、俺の横に置いてあった煙草を勝手にひとつ拝借した。川に向けて、白煙が一本伸びる。

 横になった位置からは彼女の後ろ髪が目に入った。肩口まで伸びた髪が上流から吹く風に微かにそよぎ、頬に流れている。

 邪魔そうにかかる前髪の隙間から大きく縁取られた瞳がこちらを見た。

「ねえ、智くん。君ってなんでいつまでもこんなことしてんの」

「隕石が降ってくるから……」

 それを聞くと、佐伯はお馴染みのためいきを吐いた。

「まだ言ってんの? そんなの今更流行んないよ。ダサいよ。激ダサだよ」そして川の向こうに並び立つ灰色の工場たちを見て言った。

「あそこじゃ毎日毎日苦労しながら働いてる人がいるんだから。若い芽が頑張らなくちゃダメだよ。働かざる者食うべからず、とはまでは言わないからさ」

「お前だけには言われたくないな」俺はむっとして言い返す。

 こいつの嘲笑うような目がむかつく。佐伯こそ働いていないのだ。こいつは二年前に親のコネで手に入れた職で碌に働きもせず、遊んで日々を暮らしている。親が代々の地主で、生まれも育ちも俺なんかとは違うのだ。仕事だってしたい時にすればいいらしいし、だからといってその暇で彼女は危ない事業や株に手を出すこともない。彼女が意識していなくたって、その余裕は空気を通じて伝わってくる。嫌味っぽいし、うざったい。しかしパッとしたことを言い返せない俺がいる。実質、同じ無職同士だのに、なんだこの違い。なんだこの格差。

「でもこれが現実よ。智も一発当てるか地道にやるか、決断しなよ。そうやって何もしないで外に出たつもりでも、結局生きることからは逃れられないんだからさ。まー、かといって智に何かできるとはちょっと思えないけどね」

「うるせ。大体、重要なのはどうやって生きるかじゃなくて、どう感じて生きるかだってお前がいつも言ってんじゃねーか」

 佐伯は得意げに鼻を鳴らした。背は低いのに態度がでかいのは昔から変わらない。

「まあねん。じゃあ何? 町田智くんは毎日楽しくエンジョイしてるわけ? そんな中途半端にうだうだしてるように見えても」

「してるよ! 全然してるよ! 超ハッピーだよ、俺。毎日毎日生きるのが楽しすぎてつらいくらい」

「本心では隕石が降ってきて早く世界終わんないかなとか思ってるくせに」

 可哀想なものを見るような目つきはやめろ。

 赤が混じってきた空を黒い鳥が渡っていくその下でふと工場の煙が止んだ。午後五時、一時休憩の時間だ。冬季なら業務終了の時間。四月から九月までの夏季の間は、それに加えて五時半から七時までの仕事がある。休憩の間、何をするかと言えば、外に出て新鮮な空気を吸ってコーヒーを飲んだり、仲間と他愛もない話をしているらしい。飲み屋のおやじがそんなことを言ってた。

 彼女はまだ骨董品の価値を見定めるような目つきをやめずに、続けて言った。瞳に好奇心の色が見える。興味津々というやつか。

「じゃあ、そんなハッピーな智くんは一日をどうやって過ごしてるのかなあ。ねえ、暇なんだし教えてよ。今日は何やってたの」

 疑いようもなく暇だし、仕方なくいつもの茶番に付き合ってやろうと、言われて今日したことを思い出す。えーっとまずは朝に神社の周りを散策して、アパートに帰ってテレビを見ながら昼食をとり、少し昼寝をしてからコンビニに立ち寄り、過去のことを考えながら町をふらふら歩いて土手に行き当たり、寝ていた。見事に何もしていないに等しい行動記録だ。新しく点けた煙草の煙を肺に取り込むと、脳がじんわり締め付けられる心地がして思考を中断した。片手を頭にやる俺に佐伯が気をかけた。

「どしたの?」

「頭が痛いですね。た、煙草かな」

「ヤニクラかよ。だっせー」一転、高らかに笑う。「何本目?」

「えっと、」と言いつつ箱に残った煙草を確認する。今日新しい箱を開けたから、

「十三本目かな」

「明らかに吸い過ぎだね、そんなに身体強くないんだから。どーせ智なんてさ、何にも成りきれないんだから、そんな無理しない方がいいよ。今日だって碌なことしてなかったんでしょう?」

「う、うん。まあ」俺は軽く、頷く。頷いた後で、やるせない気持ちが痛みと同じように広がって身体の隅々に沁み込んだ。

 俺は結局のところ何もできないのだ。

 言われなくても知っている。

 だけど、それから何を言ったらいいものかが分からなくなって、もやもやした気持ちと頭の片隅の痛みを感じながら、川の向こう岸、工場の右側に広がる住宅や公園なんかをただじっと眺めていた。

「さ、てと」

 燃え上がる夕陽に照らされながら、佐伯が手をついて立ちあがった。逆光になって表情が見えなくなる。

「私、帰るけどどうする? 一緒に夕飯、うちで食べる? ポテトサラダ残ってるんだ」

「俺は……、」

 少し考える。佐伯の部屋に行くのはいつ以来だろう。何度も食事を出してもらったこともあるが、最近はない。いつの間にか引け目を感じるようになり、行かなくなったのだ。俺は別に悪いことをしたわけではない。佐伯が悪いわけでもない。けれど、ただ単純に気が進まないのだ。

「また、今度にするよ」

 そう、と言って佐伯は自転車に乗って赤い橋の方へ向かっていく。しかし一度だけ振り返って、足元に目をやり呟いた。「たまには会いに来てよね」

 赤く燻ぶる陽が落ちると、もうその色は思い出せない。


「まだ呑むのかい? 身体に障らぬ程度にしとけよ」

 飲み屋のおやじが棚の上に置かれた小型のテレビを見ながら、カウンター越しに気のない声を投げた。

「金払ってんだから、別に気にすることじゃあないさ」

 と、いいつつも呂律はあまり良いまわりをしていなかった。舌っ足らずに自分でも聞こえた。「それに、家に着くまで歩けばいい酔い覚ましにもなる」

 町の外れにあるこの小ぢんまりとした居酒屋はいつも客が少ない。今も五席あるカウンターに俺が一人と、二つある座敷席の一つに仕事帰りのような女性二人が向かい合って何か楽しげに話しこんでいるだけだ。おやじはもう五十いくつになったそうで、店を大体一人で仕切っている。たまに奥さんや高校に通うようになった娘さんが見える時もあるが、大抵は一人、よくやるなーと言ったことがあるが、彼は「やりたいことができるのは気楽なもんさ」とそのしわがれた声で笑って答えた。

 そんなことを思い出してから、俺は彼に目を向けた。何杯呑んだかも分からず、視界は微かにぐらぐらとしていた。

「そういやさ、おやじ。俺さ、やっと見つけた気がする」

「え、もう一杯か?」おやじはテレビからゆっくりと顔をこちら向けて、軽い調子で訊いた。「だからそんな呑んで大丈夫なのかって……」

 俺は手を上げて、新しいグラスに手を伸ばす彼を止めた。

「違えよ、よく聞け。俺はな、おやじが昔言ってたやりたいことってのが、ようやっと見えてきた気がするって言ったんだ」

 それを訊くと彼は一瞬目を丸くし、皺が深く刻まれた手を揉んでから、その目を細くした。

「あんたがそんなこと言う日が来ようとはなあ。いつも愚痴しかこぼしてなかったのに。俺はあんたがここで思いつめた顔を見せる度に――ってまあ大抵毎回そうなんだが、いつかは生き方だけじゃなく実際に家を出てふらふらさまよった挙げ句、どっかで野垂れ死んじまうんじゃねえかって思ってたりもしてたんだが、それが全くどういう風の吹きまわしなんだ。雪が降るのにゃまだ早いぜ……ってのはとにかくとして、一体なんなんだい、そのやりたいことってのは」

 俺は自分が他人からどう見られていたのかを知って、ちょっと傷ついた。そんな陰気臭い顔をしてるか、俺は。

 そんなら次来た時は底抜けに明るい与太話でもしてやろうか。

 そんなことは今はいい。

 俺はまだグラスに残ってたウイスキーを一口、胃に流し込んで、……しかし、まあどんなに神妙なことでも下手に言葉にしてしまうと、一変してひどく陳腐なものに見えてしまうからなあなどと、どう伝えてやろうか苦心していると、そのもどかしさに耐えかねたのかおやじは碌でもないことを言いやがった。顔をにやりと歪ませて、

「もしや、千佳ちゃんかい?」

 俺は反射的にテーブルを叩く。

「んなわけあるか!」

 そんな話は昔に終わった。


 昼過ぎに起きると、水曜日だった。抜けきらない酒気の所為で、頭が若干痛むけれど、曜日を確認した途端に気分は晴れた。うむ、と頷いて洗面台の鏡の前で顔を洗い、髭を剃り、髪を整えた。そして軽くシリアルを食し、家を出た。

 天気は麗らか、陽は高く昇っていた。花屋の店先では、今日も中学の時の同級生の女の子が爽やかな笑顔で、鉢に植わる草木にホースの先を向けている。そうやって社会に出て働きだした同窓生を見るに、俺の心は暗く深みに沈み込んだものだった。狭い町の中では、誰がどこで働いているとかも、注意していなくたって耳に入ってくるもので、バイトですら続けられない自分の惨めさは暮らしているだけで自然と際立ってくるのだった。だから今から一か月前のあの時の俺は、二十一歳を越えてそろそろ本当に心にできた壁が外界を遮断し、家から出られなくなってしまうのではないかと思って、日々をただ消費していたのだ。心の支えになるほどの目標や大事なものも持ち合わせていなければ、目に映る全てが無意味で、自分がいることだけが悪いのだと思えてくるものだ。そんな常に薄暗い廊下を歩いていたような俺は、しかし偶然だか何だか知る由もないが、どこからか射し込む一筋の光明を見つけたのだった。いまだに出口は見えてこないけれど、外はちゃんと明るいのだと知らせてくれる窓に出会ったような気分だった。

 家の傍にある知り合いの働く花屋の向こう一キロほどにある木江神社から、更に閑散とした方へ三十分ほど歩いたところに、駐車場の広いコンビニがぽつんとひとつ建っている。山の麓にある、いつも翳っているようなところで、駅も遠く、近くに民家も少ないので町の人はほとんど利用せず、使うのは近くを抜ける高速道路から降りてきた人くらいなものだ。町の中にはいくらだってコンビニはある。だけどそれでも俺は、週二三回はわざわざそこに足を向け、そして用を済ませると来た道を、町の中心地の方へ戻るのだった。

 まわりを見晴らしのいい田園風景に囲まれたコンビニの駐車場には、二十台分はスペースがあるのに今立ち去ろうとしている一台がいるだけで、今日も不自然なほどやけに広々と感じられた。ここが満車になるのは、都会の方で戦争でも起きてこの田舎に疎開民が押し寄せてくる時くらいなんじゃなかろうか、などと平和ボケしたようなことを考えながら、俺は自動ドアをくぐった。

 人口的な空調の風と、コンビニ特有の軽やかなメロディが出迎えてくれる。予想通り、その人は今日も暇そうに後ろの壁に寄りかかってレジに立っていた。水曜日はシフトなのだ。入った俺に気づくと、彼女は姿勢を正して両手を前で組み、爽やかな笑みを見せてくれる。

 俺はにやつかないように口元を結んで、ぎこちない会釈を彼女に反した。俺は店内を行ったり来たりして、立ち読みする振りなんかをしながら幾度も彼女を盗み見た。高校を出たばかりに見える彼女の名前は嶺音紗織。胸元につけられたプレートがそう示している。

 しばらくしてから、俺はコーラを一本持ってレジに向かった。

「時間が勿体ないくらいに暇そうですね」と言ってからいつも吸っている煙草を一箱頼むと、彼女は後ろの棚からそれを取ってバーコードをリーダーで読みこみながら、苦笑した。

「そうですね、いつもと変わりありませんが」

「その方が楽ですか?」

訊くと彼女は俯きがちに「楽かもしれませんが、少し退屈ですね」と呟いてから、外に目を向けた。俺もそうすると自動ドア越しに新たに車が駐車してくるのが見えた。「でも最近はあたたかくて気持ちが良いです」

 俺は代金を払いながら訊いた。

「また電話してもいいですか?」

 彼女はレジに小銭を押し込んでから、頬を緩めた。

「ええ、待ってます」

 これが一か月前からの大事な日課だ。

 俺はコーラを一口、飲むと元来た道を戻り、木江神社に立ち寄った。ところどころにひびの入りかけた石材でできた鳥居を抜けると、手入れのされてない雨水が溜まったような手水鉢には、汚らしく小枝や葉っぱが浮かんでいた。境内に人気はなく、周りに植えられた高く聳える杉の木々が皐月晴れの陽光を綺麗な文様にして、土の上を彩っている。小さな社なので拝殿もない。本殿に目をやれば、木でできた段の前には賽銭箱が置かれ、その奥の両開きの木戸の上には注連縄が巻かれ、茶色地に金の文字で「木乃ゑ神社」と書かれた額が備え付けられている。

 木江神社はここらでは古くからある産土神を祀る社だが、人々の信心が時代と共に薄れてきたのか、あるいは昔からそういう扱いを受けてきたのか、今では忘れられたように佇むばかりだった。通ってる人も自分の他には見たことはなく、たまに幼い子供と老人が散歩に寄るくらいのものだった。

 寂れた風情の拝殿もない小さな社。けれど俺はここが気に入っていた。誰もいないところにいると、なぜか心が和らいだ。家の近くにあるのは以前から知っていたものの、用事もない俺は誰もと同じようにここを見過ごしていたのだが、くつろげると知ってからはコンビニまで行く散歩のついでに立ち寄るようにしていた。

 ベンチで陽の光に目を細めつつ煙草を吸ってから、本殿の鐘をじゃらじゃら鳴らして柏手を打ち、ささやかな願いごとをし、そこを離れると「おや?」と思った。本殿の隣の敷地の奥に、もう一つ小さな祠があるのが見えたのだ。

 ちゃっちい屋根をつけた、あり合わせの材で作ったような祠だったが、格子の向こうに置かれた仏像は激しい目でこちらを睨んでいた。背には火がある、お不動さんだ。

 仏ということは、どこかの寺院から勧請された仏を祀っているのだろうか。それとも近くに住んでいた名のある仏師が彫ったものだろうか。いずれにしてもなんらかの由緒を感じさせるような趣きがあった。神社に仏。信仰の教えに矛盾するようにも思われるが、おそらく願うところは一つなのだろう。そしてそこに向かう助けになるのであれば、手を取り合うことを拒む障壁はない。

 しかし誰に見向きもされないのは、それはそれで悲しいことだ。

 俺はそこにも礼拝をしてから鳥居を抜け、神社を後にした。

 木戸川沿いの土手を歩いていると、昨夜寝ている時にメールを受信していたのを思い出した。

 携帯を開くと、「寂しい」なる旨のメールがそこにあった。誰からといえば、頭に上るのは一人しかいない、佐伯千佳からだ。俺は苦々しい顔をしてメールを削除する。

 佐伯が俺に依存してくるようになったのはいつからだろう、前はそうではなかったのだ、などと考えてみる。

 初めは俺の片思いだったのだ。佐伯千佳のことは小さい頃からよく知っていた。けれど佐伯の方は俺のことなど知らなかったかもしれない。なんせ小さい頃の俺なんていかにも目立たない奴で、陽の当らない隅の方から、明るい場所で遊ぶ佐伯を羨ましげに見つめていただけだったのだから。俺はいつだって憧れに似た思いを彼女に持っていた。俺が手を伸ばしてみても、絶対に届きそうにないものを持っている彼女はいつでも光にまみれて見えた。付き合っていたのは、二か月前くらい前の桜が咲き始める頃までの二年間ほどだった。

 しかしそう考えてから「付き合っていた」というのが引っかかる。

 俺たちは本当に付き合っていたのだろうか。取り決めも何もしてはいない。けれど二年前から突発的に会う機会が増え、互いの家に行くようになり、遊ぶようになり、好きと言い合い、共に寝ることもあった。「好き」とは言った。けれど「付き合おう」とは言わなかった。そんなぼんやりとした始まり方を迎えた二人のコミュニケーションは、それが当然であるようにうやむやなままに立ち消えていった。何も言っていなかったのだから「別れよう」とも言わなかった。けれど確かに今にもう愛はない。愛はなくなった。

 しかし好意は手を繋いだ余韻のように、悲しく、後腐れて残っていた。それは手を伸ばし、求め続ける方一方だけから。今はもう佐伯の方だけから発せられていた。俺はそれを断ち切る術を知らなかった。知りたくもなかった。ただ桜の花が灯りだす頃にうんざりした気持ちが臨界点を越えたという事実があるだけだ。それだけの話で特に荒立てることではない、そう自分に言い聞かせる。言い聞かせるだけだ。だからこんなメールが今でも届き、俺は胸に抱え込んだまま手放すあてもない嫌なものから目を逸らして、佐伯の思いを削除する。

 罪悪感はある。けれど倦んでいく思いの方が強い。

 自分は最悪だ。そんなことは知っている。


 夜、電話越しに嶺音紗織の声が耳に届く。

「どうしたんですか?」

「声が聞きたくなっただけなんですけど、忙しかったですか?」

「いいえ、全く」受話器越しに微笑む嶺音が頭に浮かんだ。

「そう言えば、こないだ借りた本、読みましたよ」

「どうでしたか?」

 外は暗く、電気も点けない部屋の中には夜の波が漂い込んで来ていた。遠くで虫の鳴く声が聞こえる。

「よかったですよ。特に主人公が最後犯人だって分かるところが。あんなに悲しんでいたのも演技……、いや違うな。演技じゃないですね、本当につらかったんでしょうね。ヒロインを自分の手で殺して、それを胸の奥に押し込んで、見ないようにして」

「ええ」彼女が嬉しそうな声を上げる。「私もその展開が好きで。主人公は確かに彼女のことが好きだったんだと思います。けれどどうしようもなくなって、好き過ぎて殺めてしまって、そのアンヴィバレント性が煮詰まって犯人捜しを始めるんですよね。あのどうしようもない感じ、好きです」

 彼女は本をよく嗜む人だった。普段は何も考えてないように明るく振る舞っているのに、心の内では物事を見透かすことを忘れはしない。それを表面に出さないのは驕りからではなく、周りに合わせる協調性を重んじているからだ。

 彼女と話をすると心が落ち着いた。まるで自分が許されているような気になった。その間だけは佐伯のことを頭の外へ、すっかり追いやることができた。

「好きな人はいないんですか?」

 彼女から借りたホラーサスペンスの本の感想が言い終わってしばらくしてから訊くと、彼女は無言の思案の後にこう言った。

「私には何も見えませんから、そんな高尚なことはできないんだと思います」

「高尚? 恋愛がですか?」

「はい。……私には誰かを思いやることがとても難しいことのように思えて仕方ないんです。誰かを思おうとすれば、そう思おうとするほどに、自分の醜い部分が露わになっていく気がして。そんなことに耐えられないんです」

 彼女の言うことは、ヒーリング音楽のように心に沁み入った。そうだ、その通りだ。

 嶺音は一か月前に今まで行ったことのないコンビニで働いているのを偶然に見かけ、惹かれた。そしてそこに通うのが日課となり、彼女の内面を知ると余計に引き付けられ、電話をすることが習慣になって、彼女もそれを受け入れてくれていた。

 俺は彼女の思いを汲み、ゆっくりと言葉を継いだ。

「そう、それなら、いつかはそう思わせないような人と出会えるといいですね」

「うん、そうですね」

 彼女は穏やかに言った。


「あ? ありゃあ。昔からあるもんだ。むしろ神社の方が後からできたって聞いたことあるくらいだ」

 木江神社にあった祠について、飲み屋のおやじに訊くと、彼は目を細くして答えた。

「俺がちっさな頃からあるもんなあ。あのお不動、顔がおっかないだろ? 悪いことした時にゃ、お天道様が見てるなんて言うけども、俺はおっかさんに、あのお不動さんがお前をしっかり見てるだなんて脅されてたからな」

「へえー。迫力あるもんなあ」

 俺はコップ酒を煽りながら、彼の思い出話を話半分、聞いていた。頭にはあのぼろい祠に坐する不動明王の厳しい顔つきを思い浮かべた。

「しかしあんな怒ってるような顔じゃあ、ご利益なんてなさそうだな。なんだか教師の姿が目に浮かぶようだぜ」

 そんなことを言うと、彼は笑った。

「いやあんた、教師だってご利益はあるんだろうよ。それにお不動さんは昔から特に功徳があるって言われてるしな」

「えっ、そうなのか。ちなみに不動明王様はどんなことをしてくれるんだい」

 彼は「あんた、そんなことも知らんのかいな」みたいな、意外そうな表情を見せつつも教えてくれた。おやじにとって常識だとしても俺にとっては常識じゃないかもしれないんだぜ、と言いたくなるが、そこはそれ、口を噤んだ。

「お不動さんはな、煩悩を捨てさせてくれる仏さんだ。右手に剣、左手に縄を持ってるだろ? 縄は羂索っていうんだが、まあいい。その縄でな、人の心に巣食うたちの悪い欲求やらを縛って、右手の剣でそれをな、こう――」

 彼はまるで左手に捕まえた獲物を右手の刃物でばっさりやる仕草をした。「――断ち切ってくれるわけよ」

「ほう」

「あるいは縄は迷ってる人々をそれで掬い取ってくれるとも言われてるな。それにその顔つきから目の前に立ちはだかる全ての障害を壊していってくれるともな。まあ、あんな怖いお顔だけども、心は人々を救おうとしてくれてるし、逆に言えば心強い味方ってことだ。熱血コーチってとこだよな」

 言った後にうんうんと独りでに頷いた後、口の中のものを咀嚼するように「先生ってのも当たってるわな。仏さんは皆、先生みたいなもんだ」なんて呟いていた。ちょっと怖い。

 そうしてから、壁のメニュー表を眺めてる俺に、思い出したような口ぶりで彼は言った。

「あと、そうだ。ありゃあ、確かいわくつきの代物なんだ」

「いわく?」俺は雑誌や本でしか聞いたことのなかった単語に違和感を覚えた。

彼は「ああ……」と顎を少し引いてから、

「俺の生まれはこの辺りなんだが、小学校なんかの頃からあの仏像にはなんか変なことが起こるって言われててなあ。心霊現象っていうのか? おかしな噂が広がってる時期もあったもんだ。仏像が喋ったなんて言ってたやつもいたしな。だから俺ら、昔っからの地元民はあそこにはあんまり近づかないんだ。まあ最近の人たちはそんなこと気にもしないだろうけどな。幽霊が出そうな場所なら町外れの廃病院やら工事の中断されたトンネルやらいくらでもあることだし。ネタが古いのかもしれんわな」

 俺も両親からそんな話を聞いたことはなかった。といっても両親も生まれはこの地ではないので、当然といえば当然なのかもしれない。


 誰がスタートラインを決めたのか、いつの間にか蝉たちが、まるで焚火にくべられた木がはぜるような音で鳴き出し始め、夏になっても、佐伯からのしつこいアプローチは止まず、それと反比例するように嶺音との関係は良好の一途を辿っていった。

 嶺音紗織は、表面と深層の様相がおそらく一致していない。そこに俺は魅入られた。俺がどうしても手に入れられないものを、彼女が持っている気がしたのだ。だからできるだけ嶺音と俺は一緒にいたかった。彼女の心にあるものが現実に零れ落ちる音を、俺は聞き逃したくなかった。それらを拾い集め、パズルのように繋ぎ合わせて、今まで自分が想像もしなかったものが完成されるのを見たかったのだ。それを思い願うことは未来の明るさを俺に暗示させた。新しい可能性がそこにあり、それを目指すことが俺のやるべきことのように思えた。塞がり込んでいた俺の前方が次第に広がっていくようだったのだ。そう思うほどに、俺の足取りは軽くなって、俺は階段を駆け上がるように嶺音のことが好きになっていった。

 おやじの言葉を聞いてから、俺は木江神社に寄った時には必ず、あの小さな祠にいる不動明王に手を合わせるようになった。そしてこの先のことを懸命に願った。俺の前に続いていく道に割り込んでくる様々な嫌なものを、どうか取り除いてくれますようにと。晴れの日でも、曇りの日でも、緑の鮮やかな午前でも、日暮らしの鳴く黄昏時でもその仏の顔が変わることはなかった。彼はどんな時でも、俺をその厳しい目つきで睨んでいた。それを見るごとに繰り返す俺の所業が善行であることが浮き上がるように感じ、心の内は充足した。

 ぼんやりと赤い橋を見ていた。

 今日も工場からは煙が上り、橋の上では陸地との接する地点にある赤信号に止まる車たちが渋滞の列を為していた。全くもって閉塞した世界がそこにあった。

 生きていけば、ところどころに必ず信号みたいなものが立っていて不規則な明滅を繰り返している。多くの場合にそれは歩速を緩めろと注意をしてきたり、停止を命じてきたりする。俺は、信号が黄になればいつ時間が来てしまうのかと怯えながら横断歩道を渡り、赤になったらなったでそれを破る勇気も出せずに立ち止まる。そして歩みを進めていくにつれて、その信号機は多くなり、青信号は少なくなっていくのだ。何も気にせず自由に走れていた道は、いつしか他人や自分の定めたルールやこだわりによって、元の機能を失った。そしてそれに安心感を見出しているのも事実なのだ。自分を閉じ込めた箱に鍵がかかるごとに俺は安堵し、その安堵した心で悪戯に早くここから出してくれと嘆いてみたりする。あるいは本当にあらゆるリミッターを取っ払いたいと思っているのだろうか? そんなに俺の心は純粋でないことを、誰より俺が一番よく知っている。けれどそこから出ることはできない。出ようとしてないだけと言えば、そうなのかもしれないが、けれどそうだとしたところで、俺はおそらく、鍵をかけ、信号を増やし続ける自分を、最早見つけて止まらせることができないのだ。ここに来る途中の道で本当の自分をいつしか見失ってしまったんだ。安心を求め続けた挙げ句、泥のような偽りの安心で自分の輪郭を塗り固め、目を見えなくし、耳を聞こえなくして、それが偽りでないと思い込む努力をしてきたのだ。俺はもうどこにも行けないのだろう。俺はもう二度と歩き出すことはできないのかもしれない。


 真夏に入って少し経った頃、ひどい熱が出た。

 俺は冷蔵庫になんとかあったポカリスエットを飲んで、ひたすらに布団の上で奇妙な動きで揺れる天井を見つめていた。首筋や、太腿の内側からは嫌な汗が出てきて、吐き気を一層強いものにした。

 今日は家で休んでいると、予定を訊いてきた佐伯のメールに返信をすると、彼女は案の定、家にやってきてくれた。白いタンクトップに短いデニムのズボンといった格好で、暗い色のキャップを被っている。両手には買い物袋を提げていた。

「もっと早く言ってくれればよかったのに」と言って、そっと彼女は俺の額に手を当てた。ひんやりとして気持ちがいい。

 眩暈は肌感覚だけでなく時間の経過の感覚も壊して、俺を襲った。意識が途切れて眠り、苦しさに目覚めたりを繰り返し、ずっと眠っていたかと思えば数分だったり、少し意識が飛んでいたかと思うと一時間が過ぎていたりした。そんな中、ぼんやりとした視界の隅で彼女が濡らしたハンカチを俺の額にのせてくれたり、空調を管理してくれたり、コップを差し出してくれたりするのが記憶に残った。変な夢もいくつか見た。そこでは、俺はずっとテレビを眺めて何日も過ごしていたり、押入れの隙間から知らない誰かが俺をじっと眺めていたり、嶺音が裸で寄り添ってきたり、顔も見えない相手から包丁で腹を抉られたりした。それらを見る度に俺の世界は目まぐるしいものとなり、何が何だか分からなくなった。そんな風におかしな夢と佐伯だけがいる現を行き来していると、それらのビジョンは溶け込み合い、混沌とした渦になっていったが、しかしやがてそれもくだらないものだと思えるようになると、熱かった身体も窓のカーテンを揺らす風に緩められ、気分もだんだんよくなってきて、ようやくはっきりと目を覚まし、上半身を布団から起こすともう夜になっていた。

 トントントンと包丁のまな板を叩く音が聞こえていた。

 台所から戻って来た佐伯は、微かに湯気が上るお粥を片づけられたテーブルに置いた。お粥には買ってきたのか、梅干しの他に細切りにした小松菜と葱が混ぜられていた。新たにポカリを入れたコップを横に置きながら、彼女は頬を弛緩させた。

「調子はどう?」

 俺は掛け布団をどけて、のせられていたハンカチを丁寧に畳んで佐伯の方に差しだし、肩と首を回してから随分良くなったことを告げた。そして軽く頭を下げた。

「ありがとう、こんなに面倒見てもらっちゃって。ここまでしてもらうつもりはなかったんだけど」

 すると彼女は満足げに鼻を鳴らした。

「いいんだよ、別にこれくらい。私だってちゃんと女の子らしいとこあるんだから」

 お粥は身体に沁み渡るようで、うまかった。かいがいしい佐伯の世話もあってか、食欲も少し出てきて、体調も大分回復していた。

 顔を上げると、佐伯の髪に光るものを見つけた。

「あれ、それ」と俺が言うと彼女は初め何のことか分からない風な顔をしていたが、じきに嬉しそうな表情になった。

「これ?」彼女が髪に手を当てる。その髪止めは涼やかな水色で銀の留め具が反射して光っていた。

「そう。バレッタ?」

「うん」

「綺麗な色だね、似合ってる」

 本心を口にすると、彼女はテーブルに顔を向け「えへへ」と笑った。

「かわいい」

「うん、ありがとう」

 似合ってる、ただそれだけのことなのに、彼女は日々には落ちていない珍しいものを見つけたように飛びきり幸せそうな顔を見せた。

 帰った後の部屋で俺はひとり、佐伯の心持ちを思っていた。思わずにはいられなくて、自然とそれが頭を支配していた。

 佐伯は普段会う時には、迷惑をかけたくないとでも思っているのか、その反響が大きいと思っているのか、ひとりでいる時に心が弱くなってしまうのかは分からないが、あまり弱いところを見せては来ない。表情が傾いたりすることはあるが、そのくらいだ。気をつけていなければ見逃してしまうサイン。そしてそこから潜った思いはメールに流れ込んでくる。

 こないだのメール、俺はなんともまだ靄のような気まずさを抱えていた。

 いつもであれば、適当に返答し、悔いなど残らないのが普通だが、それだけは今でも雑音のように心にこびりついていた。

「――好きな人が他にできたの?」

 たったそれだけの文字なのに、いつものように何も考えずにいないと言ってしまえば、それでお終いなのに、俺は変に戸惑い、心を針で刺したような痛みが生まれた。

 そのつんとした痛みが今になって鮮明に蘇って、更に大きくなってきていた。今日、ここまで俺のために世話をしてくれた佐伯を考えると、自分のやってることに強い呵責を覚えた。あの、髪飾りを褒めただけであんなに嬉しそうに微笑む彼女を、なぜ俺は騙しているんだろう。あんなメールを送ってきた彼女の気持ちをなぜ察してやれないのだろう。けれど……、

 ――けれど、俺の心は驚くほどに冷たい。

 佐伯を大切に思ってやることはできても、今や恋愛には開いていないし、開かない。

 明くる日になるとあんなに酷かった体調も嘘のように元の通りになっていた。俺は朝に目が覚めると、家を出て真っ先に木江神社に向かった。花屋もまだ開いていないくらいの白い朝だった。俺は本殿を横切り隣の祠に相対し、手を合わせて祈った。俺は心から祈った。以前の偽善的な情感はもう姿を消していた。必死な気持ちだった。俺はその日から毎日祠に通いつめた。週に三回ほどだったのが、朝夕と一日に二回に増えた。

 どうやってするのかは知らないけれど、佐伯も俺も幸せになれますようにと俺は祈った。あんなにも健気な佐伯がこれからも悲しい目に遭いませんように、そして俺と佐伯、これから決して交わらないねじれの点と点だとしても、うまいことやっていけますようにと。

 地上を洗い流す夏は植物の芽が早送りで育つように軽やかに過ぎていき、俺は祠にお参りに行く一方で嶺音との関係を続けていた。四月くらいに始まった嶺音とのやり取りは最近になると、親密さを増していくのが体感できるほどになっていた。彼女は俺に心の多くを開き、大事そうに抱えていたその一部を預けていた。

 ある夜、俺は嶺音に呼ばれ、山際の雑木林の中に敷かれた歩道を歩いていた。

 俺の隣を嶺音はゆっくりと歩いていた。頭上には、木々の高い枝先の隙間から静かな星々がきらめいて見えた。昼間は休んでると思われる虫たちが、夜に合わせてりんりん鳴いていた。

 嶺音が言う。

「ねえ、町田さんは嫌いなものってありますか?」

「嫌いなもの?」

「うん」彼女は首を下に向けた。

「そりゃあ少しは」俺は頭で碌に考えず、軽く答えた。けれど間違ってもいないだろう。

「そうですよね」と呟いてから、少し黙ってまた彼女は何かに怯えたように口を開いた。

「嫌いなものとか醜いものって、自分の中で抑え込むには耐えられないことがあるんです。勿論自分の中だけで完結させない方がいいことも中にはあるんですけど、その違いっていうのも分からなくなってくるし……」無意識なのか、癖のように彼女はか細い指を絡ませて両手を揉んだ。

「でもそういったものを打ち明けるのって、普通に見たら迷惑な場合が多いんですよね。誰もほら、自分以外のことを考えるのって面倒なことだから」

 俺はじっと彼女の声に耳を澄ませていたが、胸に込み上げてくるものの手触りも同時に確かめていた。穏やかな感情は立ち去るように冷めていき、代わりに熱い嫌悪感が湧きあがる。

「だけど」彼女は夜に広がる空に目を向けた。夜空はいつまでも変わらず遠くて、高い。それを見ると、自分の矮小さが浮き上がってくるようだった。

「けど、こんな風に町田さんはいつもなんだって話を聞いてくれるから、私は助けられてるんですよ。実のところ、本当に感謝してるんです」

 彼女は肩を寄せてきたので、俺は右の手でそっとその左手をとった。彼女は指先を折り曲げて、ぬくもりをこちらに伝えた。

 彼女の鼓動までもが分かるようだった。

 俺は確かに嶺音に惹かれていた。

 しかし、満ちた波は音も立てずに引いていく。それは自分の力ではどうしようもなく、不可逆的に。後の窪地に残るのは、砂を数えたようなおぞましいほどの自己嫌悪、それだけだった。


 不動明王はいつでも、迦楼羅焔を背に迫力を増して、俺を正面から見据えている。

 俺は後悔をもって、今日も彼の前に佇んでいた。夕方で、陽が最も眩さを強めて燃え、気が狂いそうになるほどに地上のあらゆるものを橙のただ一色に染め上げていた。

 俺は目の前の仏に祈る。その内容はもう、自分の前途に待ち構える障壁を除いてもらうことではなくなった。

 俺が願うのは、煩悩を消してもらうことだ。俺の煩悩を。俺に纏わりついて、いくら振り払おうとしても、剥がれ落ちてくれない煩悩を。

 俺は佐伯千佳に間違いなく憧れていた。好きだったのだ。そして、嶺音紗織も好きだった。疑いようもなく、そう信じていた。けれど……、けれどそんなことはなかったのだ。俺は誰のことも好きではなかった。好きに似た憧れの心境は、相手が次第に俺に心を開いていくごとに外壁から削り取られるように少しずつ崩れていった。それは冷めていき、もう二度と熱が戻ることはない。色褪せたものは戻らない。俺は好きだなんて言ったところで、結局誰にだって心を開いてはいなかったのだ。俺が好きなのは俺以外にはいなかった。

 ――俺は深く頭を垂れ、目を瞑って祈り続けた。合わせた手のひらに汗を感じる。思いが胸を抜けて口から溢れそうなほどに、暴れている。

 俺は隠されていることを逆手にとって、彼女たちの開かない心に、途方もない希望を託していたのだ。俺が信じていたなけなしの愛は、それらの希望に向けたものでしかなかった。俺は現実に見出せない幸福や理想といったものを彼女たちに投影していたに過ぎなかったのだ。そして心のドアが開いていき、中に詰まった現実的なものが見えてくると、それに絶望し、さっさと見切りをつけてしまう。俺が佐伯へ好意をなくしたのも当然だ。だって俺は一度たりとも彼女を見てはいなかったのだから。

 ――手を強く、強く合わせる。ぎゅっと瞑る瞼に力を入れ、眉間に皺が寄る。お願いだ、頼む、消してくれ。

 置き去りにされた彼女たちは誰のためにあったのか?

 俺の賤しい願望のためだ、紛れもない俺の煩悩のためだ!

 ――俺は頭を振った。苦しい。気づいてしまえば結局愛だの恋だの初めからなく、俺は彼女たちを利用していただけだったのだ。俺はもうそんなことには耐えられない。ふと思った時に現れる、悲しそうな視線に目を合わせることなんてできやしない。だから、醜い、俺の、いらないものを、捨てさせてくれ、追い払ってくれ、俺はもう、なんだって、いらないから。だから、彼女たちを、騙されやすいほどにやさしい彼女たちを、きっと悲しんでしまう彼女たちをその手で掬ってやってくれ!

「……まえ……を……」

 何か音が聞こえた気がした。声かもしれない。その直後、頭をガンと殴られる心地がした。俺は振り返ろうとしたが、もうそこは暗闇で何も見えず、手や足の感覚もなかった。太陽もない。俺は一気に、夢の中へ落ちたような感覚に引きずり込まれた。

「……ぞみ……を、かな……よう……」

 それでも、さっき聞こえた声が、低く唸るような厳かな声が、途切れ途切れになりながらも闇のどこかで鳴っていた。それは俺を呼んでいるのだと直感的に感じた。暗闇に抵抗するのをやめ、身動きしないままに意識を集中すると、その掠れた言葉は耳に入ってきた。言葉は幾度も同じことを言っているようだった。

「えの……、……ぞ………かな……う……」

 判別可能になるまでじっと耳に神経を集中させる。その声はだんだんと近づいているようだった。

「…………の…………ぞみを……えよ……う」

 しかし次の瞬間、それは途端に距離をなくし耳元で鳴った。

「おまえののぞみをかなえよう」

 俺はヒッと身を引こうとしたが、いまだ辺りは真っ暗で身体の感覚もないままだった。しかしその時、声が聞こえなくなった代わりに、何かが足首に触れた。細長くカサカサと乾いているそれは柔軟に身体を曲げ、俺の身体の輪郭に沿って、ふくらはぎから脛にまわりそして太腿の裏へと、じつにゆっくりと巻きあがるようにして這い上がってきた。俺は抗うこともできず、ただ少しずつ上半身に迫りくるその恐怖を見つめていた。やがて来る恐怖を焦らされているようだった。次第にそれは臍の上を横切り背にまわり肩甲骨に触れた。俺は今にも叫びそうだった。叫んでいたのかもしれない。けれど口の感覚もなければ、そこから漏れ出たはずの声も耳には届かなかった。しかし自分から身体を動かせない闇の中で、何かも分からないその生きものが身体の上をなぞってくることで、元々あった身体の存在だけは確かめられるようだった。

 それは背から首筋を撫で、喉元に触れた。また低く声が唸った。今度は声に表情を感じることができた。不気味にそいつは嘲笑っていた。明らかにこの場を楽しんでいる。

「代償は大きいかもしれないが」

 そしていきなり首筋に深く鋭い痛みが走った。大きな蜂に刺されたかのような衝撃と痛みだった。俺は叫び声を上げた。

 叫び声は黄昏れた空に響いた。当然のように景色は色を為し、俺は何事もなかったかのように神社にいた。


 不思議な感じのした俺は、その夜飲み屋のおやじに訊ねてみることにした。

「え、あのお不動さんがどうしたって?」

 今夜は客もほとんどいなかったので、俺は悠々とおやじに訊くことができた。何かあったとも思われないだろうが、あまり気のない風に聞こえるように俺は言った。

「なんか前にさ、あの不動明王には変な噂とかあるって言ってたからさ。気になって。前に言ってた『いわく』って具体的にはなんなのよ」

 彼は額の皺を深くして、腕を組んで宙を眺めていたが、やがて思い出したように息を吐いた。

「えっとな、まあ俺らが子供の頃にも噂はあったんだが、もっと前からそういう類の話はあってな。確かあの像は、あの場所に建てたのはもう随分昔の話なんだが、つまり百年とか二百年とか歴史があるってことよ。んで、その頃流行った話が大元になってんだろうな」

「で、それって?」俺はカウンターに身を乗り出した。

「……俺も、誰に聞いたかも分からんくらいに、っつっても親からだろう、いやとにかく記憶が曖昧だから正確なところは言えないかもしれないが、――そういやあんたあのお不動さんが持ってる剣に何かが巻きついてるのを見たか?」

 俺は急に話を逸らされた気がして、少し肩を落としつつ答えた。

「あの煩悩を切るって剣か? いや、別に何も見てないと思うけど」

 しかしおやじは大真面目な風に頷いた。

「いやな、もう古い像だから見えにくいかもしれんが、あの剣はただの剣ではなくてな。ほんとは三鈷剣っていう代物なんだが、三鈷っちゅうのはつまり、柄の部分が三股に分かれた金剛杵になってるからだな。ちなみに金剛杵は密教法具で煩悩を打ち砕いたり、仏の智慧がどれだけしっかりしたものであるかを示している」

「不動明王の功徳と近いところがあるな」

「そうだな、だから持物として掲げているのかもしれん。で、しかし、それだけじゃあない」

 そこでおやじはぐっと眉に皺を寄せて、さも重要といった顔つきをした。

「お不動さんの持つその三鈷剣ってのには、時に巻きついてることがあるんよ」

「何が巻きついてるんだ?」

 俺はごくりと唾を飲んだ。

「それはな、竜よ」

「竜?」

 訊き返した俺におやじは深く頷いた。

「そうよ。竜だ。不動明王の化身って言われる倶利伽羅竜ってのが巻きついてるんだ、あの像にもな。そんでそれが問題でな。お不動さんより付いてきたものの方が問題ってのもおかしな話だが、その類の説話とかにゃあ、まあ珍しくもない話だわな。あのお不動さんは、どっかの有名な寺でつくられてそれが木戸川に流れついたとか色々説があるんだが、その頃の村人の間で目立った話は、今の場所に置かれてからというもの、竜が剣を離れて人々を食いまわったというものだ」

「竜が人を食う? なんでだ、それこそおかしな話だろう。なんで仏に使える身なのに人を食うんだ」

 俺が訊くと、おやじは平然な面持ちで答えた。

「そんな話はいくらだってあるさ。神話の世界なんてそんなもんだ。でもそれには理由もあってな、竜が人を食うのはちゃんとした取り引きに基づいていたんだと」

「取り引き?」

「ああ。竜は無駄な殺生をしていたわけではなかったらしい。なんでも人の願いを何でも聞いてやり、その埋め合わせとしてその御魂を頂戴してたって話だ。結局は人が自らそうしてたんだ。だからここらに伝わってるというこの説話は、しばしば欲求が肥大化すると取り返しがつかなくなるから、節制を心がけなさいという教訓話にも用いられるらしいな」

「へえ」だの「なるほど」だの気のない返事をしながら、俺はあの時、我に返る寸前に聞いた「代償」という声を耳の奥に蘇らせていた。

 一息ついた俺らは二人でしみじみ酒を煽った。こうしてみると、おやじと呑むのも随分久し振りな気がした。客は既に出払って、店内には俺たち以外にはいなかった。

 そういや、と目の前のおやじが思い出したように言った。

「やりたいことができたって、あんた言ってなかったか。あれって結局なんだったんだよ。もう教えてくれたっていいんじゃないか?」

 俺はコップに映る酒に目を向け、その揺れ具合を確かめてから、顔を上げてはにかんでみた。

「もうちょいしたら言えるかな」

 店から出ると、夜だというのにまだ外はむわっとした空気に覆われていた。俺は風に当たりたくなって、木戸川の方へと足を向けた。

 川面は穏やかに、ゆっくりとなめらかな曲線を描いて、上流である赤い橋の方から下流へと流れていっていた。対岸の工場は暗がりに落ちて、空を過ぎる雲の影をその身に映している。見渡す限り人の姿はない。

 俺は橋の方へと歩いていった。

 そして俺は今までに誰かに何かを与えることができたのだろうかと思った。近くにいた佐伯千佳や嶺音紗織にさえ、俺は何かをしてやれたのだろうか。心の根元に巣食う醜い欲望に利用されていっただけではなかったか。目を閉じると、瞼の裏に彼女たちのもの悲しそうに目を伏せる姿がありありと浮かんだ。

 土手の斜面の芝生が風に舐められてさわさわと音を立てた。

 自分は何かを彼女たちから受け取ることができたのだろうか。それとも、それすら欲望に邪魔されてできなかったのか。心に問いかけたところで、聞こえるのは川のせせらぎと橋を時折通る車の音くらいなものだった。

 橋の袂まで来ると、信号機が黄から赤に変わるところで、やってきた車が二台ほど止まった。夜に浮かぶ信号の赤は艶やかに光り輝いていた。空に張りついた星なんかよりもずっと俺には綺麗に見える。そこには車を止めている罪悪感の一筋の陰りも見当たらなかった。そして、赤信号は青へと変わり、止まっていた車を解放した。その後には、長くて広い、大きな橋だけが残った。


 朝、雀が鳴く前に目覚める。昨日の酒が残っていると、眠りが浅くて済むことがある。普段ならまた床につくが、今日はそんなつもりはない。電話も部屋に置こうと決めていた。顔を洗い、歯を磨く時に、痛みもない首元を見てみるとそこには思った通りにくっきりと、何かに噛まれたような二つの赤い点がつけられていた。酔った勢いでどこかにぶつけたものでもない。俺は諦めに似た息を吐いた。

 カンカンとアパートの階段を下りて、いつもの習慣で郵便受けを確認すると、生活に不必要なチラシの他にノートを破ったような書き置きが入れられていた。

 そこには丸みを帯びた字で、上に昨日の日付が書かれ「夜に来てみたんだけど、いないみたいだね。またごはん一緒に食べよね。メールすることでもないから入れとく」とボールペンで書かれていた。そして最後に「さえきちか」と。俺は誰にも届くことのない柔らかな笑みを路上に零した。

 神社に着くと、まだ太陽も出たばかりだったので、辺りを包む空気も熱せられる前の新鮮さを保っていた。石でできた鳥居を抜けると、首元についた傷の痕がひとりでにじわりと痛みだした。俺はそのまま手水場を過ぎて、本殿を横切る。足を進めるごとに、手で押さえた傷痕はじくじくと痛みを増して、今にも生温かい血がそこから垂れてきそうだった。

 ようやく祠の前まで来る頃には、耐えがたい激痛が俺を刺していた。確かな力を感じながら、俺は首から手を離し、頭を下げ、手を合わせた。

 そして心から祈った。俺の煩悩が消えることを。あの二人に悔いを示すにはそれしかなかった。本当なら、生まれた時に時間を戻してその煩悩の種を取り除いて欲しかったが、そこまでは言うまい。進んだ秒針は戻らない。覆水は盆に返らないものだ。

 すると、また突如として身体の感覚がなくなり、俺は暗闇の中に再び放り出された。けれど、俺は一人ではなかった。

 俺の鼻先には、真紅の鱗を身に纏った大きな竜の姿があった。それは蛇のように胴が細長く、そこから蜥蜴のように手足がちょこちょこと生えていた。身体に隠されてる部分は見えないが、手足は六本はあるようだ。それとは別に背の部分からはにょっきりと二本、飛び出た大きな翼が構えている。竜は胴の下半分は地につけて水平にし、上半身を上げて口の先を俺に向けていた。顔は鰐のようで閉じた口からも大きな牙が垣間見え、線のような鼻の横についた髭は宙に小刻みに揺れていた。

「お前はそれでいいのか。代わりに御魂を頂くが」

 直接頭の中に響いてくる声だった。昨日聞いたのと相違ない。

 俺は「そうだ」と答えた。透き通る宝石のような真っ赤な両の瞳が、射止めるように正面からじっと俺を見つめていた。

 俺の意に変更がないことを認めたのか、竜は大きな息を吐いた。

 次に意識が戻ると、俺は神社にいた。いや「いた」と言えるかどうかは怪しい。俺に身体はもうなかった。暗闇に連れていかれた時のように、まるで魂だけが現世に戻ったようだった。

 視線を移そうとすると、急に目の前が真っ黒になり、ふわっと身体が宙に浮いた。

 ごつごつした厚そうな赤黒い鱗が下に見えた。どうやら俺は竜の背に乗せられたらしかった。

 竜は神社の上を二回三回とまわると、翼を優雅に傾かせ田園を下に飛んでいった。嶺音のいたコンビニを過ぎ、木戸川の方へ抜けると水面が、竜の生み出す振動で微かに震えているのが分かる。車が走るようなスピードで、景色が後ろに消えていく。

 そんな折に竜の声が響いてきた。

「お前の御魂がなくなるのだから、消すはずの煩悩もなくなり、私の叶えるべきものはなくなる。まだ残したことがあるならば祈るがいい。叶えてやろう」

 俺は眼下を眺めた。

 町の人はどう思うだろうと一瞬気になるが、おそらくは見えてなどいないのだろう。そう思うと、なんだかとても自由な気分になってきた。こんな思いはいつだったか忘れるほどに久し振りだった。轟々と鳴る爽快な風を感じ、速度は増し、何ものにも邪魔をさせずに飛んでいく。

 俺は風に負けないよう大きな声を張り上げた。

「それならあんたは彼女たちをこの先も見守ってやってくれ! あんなに祈ってたんだ、もう誰のことかは分かるよなあ! 手を出さなくてもいいから、あいつらの、嬉しいことも悲しいことも見届ける誰かでいてやってくれ!」

 口もなかったので、俺自身には聞こえながったが、竜にはなんとか届いたようで、彼は息を大きく吐いた。そして響きをまた返した。

「私はこの地の主だぞ。そんなの全員守ってやるに決まっているだろう」

 竜は口を開けてごうごうと鳴いた。どうやら笑っているようだった。俺は一層楽しい気分になってきた。

 川の上を上流に飛んでいた俺らの目の前には、やがていつもの大きな赤い橋が迫り来て、竜は翼を大きく揺さぶって空へと向かった。蒼い空に薄い雲が視界を支配する。そこからは急な角度で俺らは昇っていった。天空が近づくにつれて、速度はいきなり増していき、世界は白く霞んでいって、意識は次第に薄れていく。

 最後に見下ろした橋の袂の信号は、綺麗に澄んだ青色で、明るく視界に輝いていた。

(了)

僕も逃げたい。

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