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四話目

先週に引き続きまたもやノルマギリちょん投稿。大丈夫なんでしょうかこの作品は。とりあえずちょっくら喝を入れてきます。

 翌日、爽やかとはほど遠い目覚めの後、俺は学校へ行く用意を整え、その足で学校へと向かった。

 その日俺は日直であったが、だからどうという事でもなく、ひたすらいつも通り適当に授業を聞きつつ、同時に日直としての業務も淡々とこなした。


 昼休み、今日もいつも通りに昼飯を持って屋上へと向かう。階段を上り、まさかと思いつつ恐る恐る扉を開ける。するとそこには昨日と同じように、フェンスの向こう側に今にも飛び降りんとする人影が……


 なんてことは無く、いつも通り、ここには誰の影も形も見あたらなかった。

 内心ホッとしつつ、俺は例にもれず前もって買ってきた安パンを袋から取り出し、口をつけた。




 そして現在放課後。夕暮れの教室で、俺はただ一人で黙々と床を箒でひたすら掃いていた。

 この学校の日直の仕事には、学級日誌の記入、授業の終わりに黒板の文字を消す、等があるのだが、その業務の中には教室の掃除も含まれている。

 日直とは二人一組が鉄則であり、本来ならばこの教室の掃除は俺ともう一人の日直の二人で行われなければならないのだが、そのもう一人の日直の奴が、もうすぐ文化祭があるのでその準備に忙しいとか何とか抜かして結局バックれた。

 まあ俺もいわゆる暇人な身であるわけだから、放課後の時間が掃除に費やされようと別に構わない。それに最近は校内もその文化祭の準備で結構慌ただしいので、奴も奴でやはり多忙の身なのだろう。


 ……そんなことを考えたからって、一人で掃除をするという寂しさはどうしようと拭えないわけだが。


 おまけに本来二人でやらなければならない事を一人でしているものだから、ひたすら作業の効率が悪い。なので必然的にどうしても時間が掛かる。ダラダラと地道に孤独と闘いながら掃除をこなしていった結果、終わった頃には部活動や準備などで学校に残っていた生徒がぽつりぽつりと居なくなり始めていた。


「……ええ!?もうこんな時間かよ……」


 黒板の上に設置してあった時計を見た俺は思わず声を上げた。窓の外を見れば、空がいつの間にか暗くなり始めていた。

 いよいよ孤独感がマックスに達しつつあった俺は、急いで適当な机の上に放り出していた自分の鞄を引っ掴み、早く家へ帰ろうと教室の扉をスライドさせた。


 その時、


 扉をスライドさせた瞬間、誰かが俺の目の前を勢いよく横切っていった。


「……!?」

 暗くなり始め、人が居なくなりつつある学校に一人ぼっちというシチュエーションのせいで、必要以上にビビッてしまった俺だが辛うじて視界に収めた、なびくロングヘアーに既視感を感じ、何かが過ぎ去って行った方向に急いで視線を向けた。

 そいつはいきなり横合いから扉を開けて出現してきた俺に同じく驚いたのか、たたらを踏んでこちらを振り返ったところだった。そこに居たのは、もちろん幽霊的な超常現象じみたものなどではなく、れっきとした人間……それも忘れたくとも忘れられない、見知った顔だった。


 生徒会長、倉葉恋花(くらはれんか)、その人だ。


「……!」


 まさかの二度目の邂逅。

 あまりにも急な展開だったので、思わず戸惑っていると、


「あっ……おい!」


 なんと倉葉恋花は急いでそのまま踵を返し、あっという間に再び廊下の向こうへと駆け抜けて行った。

 まるで俺から逃げるようにして。


 ……何だったんだ?一体……。


 そもそも彼女、あんなに急いでどこへ行くつもりだ?

 彼女の走り去っていった方向に目を向けてみれば、彼女はタンタンとリズムカルに上り階段を掛け上がっていっているようだった。

 

 ……まてよ、たしかあの階段、四時限目が終わった後、俺がほぼ毎日上へあがっていく階段ではないか?

 すなわち、あの階段をずっと上っていけば、屋上へとたどり着く。


 屋上。

 ……必然的に、昨日のあの昼休みの光景が頭に思い浮かぶ。


 ……嫌な予感がするな……。


 その予感から来る衝動に突き動かされるまま、俺はこっそりと彼女の後をつけてみることにした。



 ……バァン!!

 騒々しく鳴り響く鉄製の扉が立てる音に、一瞬だけ彼女はビクッと身を竦ませ、こちらを振り返った。

 そして、突如現れた闖入者の姿を確認すると、いつもの如くその美貌を遺憾なく引き立てる怜悧な無表情を形作り、一言呟く。


「……また、会いましたね」

 昨日のことか、それとも先程の邂逅の事を言っているのか。どちらにせよその一言からは、ひたすら呆れと鬱陶しさがない交ぜ(・・・・)になった、『またお前か』と言わんばかりのニュアンスがひしひしと感じられた。

 一部のファンの奴らならご褒美ですとでも言うのだろうが、あいにく俺にそっち方面の趣味は無い。


「そうだな。俺もまたこんな状況で会うとは思ってもみなかった」


 俺がそう言うと、……昨日の昼休み、初めて対面した時と寸分違いなく、フェンスの向こう側に佇んでいた彼女、倉葉恋花は、ふっとはにかむように笑った。

 夜の色に染まりつつある空を背景として、殆ど沈みかけた太陽からのオレンジ色の僅かな光が彼女の姿を照らし、美しいコントラストを描き出している。……うっかり綺麗だなあ、と見惚れてしまった俺は不謹慎なのだろうか。


 いや、それよりも、


「お前な、……昨日確かに自分で言ったよな。もう二度とこんな真似はしないって」


 彼女が階段を上り始めたときからなんとなくある程度は予想していたとはいえ、やはり自分でも動揺が隠せていないことがわかる。……当たり前っちゃあ当たり前か。こんな心臓に悪い状況にそうそう慣れてたまるか。


「そう……ですね。確かに、そんなことも言いました」

 彼女はどこか他人事のような、ぼんやりとした声で呟き、


「でも、大丈夫です。……もう、これで終わりにしますから」

 首を下にゆっくりと傾け、はるか眼下を見下ろしながら、そう付け加えた。


 ずっ、と彼女は足を半歩踏み出す。その先にはもうコンクリ製の床など無い。あと少しでも進んでしまえば、その先は言わずもかな。


 彼女は本気だ。俺は理屈ではなく、直感でそう感じた。


「……なんで……」

 気付けば自分の口から、勝手に言葉が紡がれていった。

「なんで……どうしてだ……?」


「お前は誰よりも優秀で何でもそつなくこなせる、非の打ちどころなんてどこにも無い完璧な奴だろう……?そんなお前がなんでこんな事を自分から……」


「……完璧、ですか……」


 俺の言葉に、彼女はそうぽつりと応じた。



日瀬(ひのせ)君。完璧ってどういうことなんですか、ね」


 彼女はこちらを振り返り、痛々しさを感じさせる笑みでそう言った。

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