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三話目

今回は少し長めなせいか、投稿ノルマギリギリになってしまいましたあばば

お待ちしていた皆様すいません……

 衝撃の昼休みの後、俺は前回の宣言通り5時限目の授業を華麗にサボタージュし、そのままたっぷり一時間掛けて気持ちを落ち着かせた後、6時限目の授業をきちんと受けた。


 で、HRも終わり、現在放課後である。


 ……正直に言うと、倉葉恋花(くらはれんか)…彼女の事が気にならない訳ではなかった。5時限目が始まる直前にも思ったことだが、俺にはどうしても昼休みの出来事が、単なる彼女の一時的な乱心から起きたものだとは思えないのだ。やはり何か悩みや理由があってあんな行動に至ったのではないのか?なぜかそんな風に考えてしまう。


 まだ終わっていない。問題は根本的に解決していない。そんな予感がするのである。


 だからといってこのまま現在彼女のいるであろう生徒会室に突撃を敢行し、「よう倉葉!困ったことがあるならいつでも言えヨ!!」などという英雄的行動を起こせるような度胸を俺は持ち合わせてはいない。というかそんなことをしてみろ。俺の青春は確実に終わる。


 まあそんな訳でこの件についていくら悶々としていようと今の俺にできることは何一つ無く、このまま学校に居残る必要も特にはなかったので、気持ちを切り替えてとっとと家に帰ろうと、夕日でオレンジ色に染まった校門をくぐったところで、


「あ!先輩じゃないですかー!奇遇ですね、今帰りですかー?」


 元気の良い、活気に満ちた声が俺の右方向から飛んできた。

 そちらを振り向いてみれば、栗色のショートヘアを揺らしながらこちらへ駆け寄ってくる、溌剌(はつらつ)とした輝かしい瞳をした小柄な生徒が一人。

 

 澪岸空(みおぎしそら)。新聞部所属。俺の一年下の後輩だ。

 

 ちなみに実は俺も一年の時から新聞部に所属しているのだが、なんやかんやでいつの間にか幽霊状態になっている。だがこいつが入部したての頃、俺はこいつに先輩として色々と世話を焼いていた。そのおかげか、こんな俺でも澪岸は今でも親身に接してくれている。


「見ての通りだ」

「んー、部室にはもう寄って行かないんですか?」

 小首を傾げながらそう言った。こいつもこいつで倉葉とは別方向に整った顔立ちをしている。倉葉を美人とするなら、澪岸は可愛らしいと言うべきか。もっとも俺はあまりこいつを可愛いと表現したくはないのだが、まあ周りが口々にそう言うものだからそういうことにすべきだろう。


「ああ。もうあいつの破天荒ぶりにはいい加減うんざりしてきたんでな。暫く会ってないんだが、あいつは今でもあんな調子なのか?」

勝山(かちやま)先輩ですか?先輩が不在がちになってからちょっとテンションが低空飛行気味になってますけど?」

「なんで俺が居るか居ないかでテンションが変動するんだよ。相変わらず難儀な奴だな……」


 校門の手前に立ち止り、他愛ない世間話にしばし花を咲かせた俺たちだが、


「……そういえば」


 俺はふと思いつき、隣にいる澪岸に問いかけた。


「倉葉恋花についてだが……何か知ってることは無いか?」

「む?生徒会長の倉葉さん?……突然どうしたんですか先輩?」

 澪岸は眉根を寄せ、困惑の表情で俺を見た。まあ無理もないだろうな。


 言うまでもなく新聞部の活動内容とは、学校内の情報を集め、集めた情報を紙に写し、それを掲示板等に貼り出して一般生徒に公開することだ。つまり部員は学校内の情報に精通しているということになる。新聞部員であるこいつから、少しでも倉葉についての情報を入手できれば、あるいはこれから俺のすべきことのヒントが見つかるかもしれない。


「むむむー、先輩の心意がイマイチよく分かりませんが……」

 腕組みをしながら考える澪岸だが、やがて再度口を開いた。


「とりあえずスリーサイズは……」

「おい待て澪岸。お前は俺が倉葉について一体どんな情報を求めていると思ったんだ。」

 とりあえず頭を一発(はた)いてやった。先輩に対してあまりにも失礼だろう。ちょっと興味は持ったが。

 というかそんな情報まで網羅しているのか、恐ろしいな新聞部!


「あ痛ー……」

 頭を押さえながら呻く澪岸。少しは反省したか。

「そうじゃねーよ馬鹿。……なんというか……あいつ、何か悩みでもあるんじゃないかと思ってだな」

「……悩み、ですかー……?どうしたんですか?何かあったんですか?」

 何かあったかと聞かれれば間違いなくYesと答えるべき……なのだが、まさか天下の生徒会長様が学校の屋上で自殺未遂などと、新聞部であるこいつにだけは絶対に話すわけにはいかない。間違いなく次の日には大スキャンダルが巻き起こるだろう。


 俺にとっても、そして恐らく彼女にとっても、決してそのような展開は望ましくない。

 なので、


「いや……前にちょこっとだけ廊下で見掛けたときにな、なんかあいつ元気無さそうだったから」

 適当に理由をでっち上げることにした。


「元気なさそう?倉葉さんが?……うーん、考えにくいですねー……だってあの倉葉さんでしょう?」

 もっともな意見だ澪岸。まさか完全無欠の生徒会長が白昼堂々と学校の屋上から飛び降りようとするなど誰が考え付こうか。


「まあ……考えてみればそうだよな」

「んー、残念ですが、今のところは何も聞いてませんよ」

 澪岸はそこで一拍おいた後、

「そもそも倉葉さんって、しんどいとかだるいとか辛いとか、そういうことは一切誰にも言ったことが無いって話ですよ。噂では人前ではため息一つついたことが無いとか、感情もめったに表さないとも聞いてますよー」

「なんだそりゃ。……まあ、らしいっちゃらしいが。」


 以前から幾度も校内で見掛けたことはあったが、確かに今思い返してみれば、いずれも無表情の時が多かった。というかほとんどそれしか見たことはなかった。


 だが、腹が満たされ、微妙にほっこりとした顔。懺悔(と言っても良いのだろうか、アレを)をした時の沈痛な顔。そして最後に見せた、花の綻ぶような微笑。あの昼休みの時には、僅かながらも感情の片鱗を見せていた。


 やはりあの時俺が見た顔は、人前じゃ滅多に見せない顔という事なのか。だからってそのことについてなんら優越感に浸るつもりは無い。あれは俺だからとかいうわけではなく、ただ単に飛び降りという極限状況において、精神が極度に不安定だったことに由来するものなのだろう。

 そうだ。妙な期待など抱かない方が良い。俺と彼女では明らかに立ち位置が違う。

 

「まあとにかく、そんなわけで倉葉さんに関するそういった情報は特にありませんよー。でも悩むとしたら、倉葉さんは一体全体どういったことで悩んだりするんでしょうねー、先輩」

「んなもん俺が知るかよ。そうだな、あるとすれば俺たちのような凡人には考え付かないようなことだろうな」

「俺『たち』って……ぶーぶー、先輩と一緒にしないでくださいよ、失敬な」

「ひねり潰すぞコラ」


 ……やはり完璧な奴には完璧な奴にしか分からない悩みというものがあるのだろうか。そこら辺、俺たち、……いや、俺の貧相な頭ではどうも想像がつかない。


「……うわ、もうこんな時間ですか!?」

 ふと自分の腕時計を覗き込んだ澪岸が、ふいに声を上げた。

「なんだ?……バイトでもやってんのかお前?」

「そうなんですよー……もう、面倒だなー……」

 澪岸は暫くぶつくさとぶー垂れていたが、やがて気分でも入れ替えたか、


「それじゃあ先輩、今日はこの辺で失礼させていただきますっ!」

 一転して朗らかな声で何故か敬礼しながらそう言うと、沈みゆく西日に向かってあっという間に走り去っていった。


「……はー……」

 なんか疲れが一気にドッと押し寄せてきたような感じがするな……。

 仕方がない。今日はいろいろな事がありすぎた。早く家へ帰って飯を食って風呂に入ってさっさと寝るぞ。


「……しかしあいつ、いつ絡んでも変な感じがするんだよなー……」

 誰に言うでもなく、俺は思わずポツリと呟いた。



「……あれで男なんだよな、澪岸……」


 夕日へ向かって一直線に駆け出していった、小柄なブレザーとスラックス姿のれっきとした男子生徒、澪岸を思い浮かべ、俺はなんとも微妙な気分になりながら帰路についたのだった。

次回も2週間以内にアップします。

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