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二話目

GW中遊び狂っていたので少し遅めになってしまいました。次話はいつもどうり二週間以内にしようかと。

「……ごちそうさまでした」

 袋の中に入っていたパンやジュースをあっという間に全て平らげ、お行儀よく両手を合わせながらそう宣言した彼女、倉葉恋花(くらはれんか)。その微妙にほっこりした表情を見る限り、どうやら俺の安物パンフルコースはお気に召してもらえたらしい。

 ……ってよく考えてみれば俺、昼飯無しかよ。…まあ彼女の飛び降りを未然に防げたという偉業を成し遂げたのだから、ほんの数時間程度の飢えぐらいは我慢しようか。


 さて、次の授業までにはまだ時間は幾分か余裕がある。そろそろここらへんで問うべきだろう。


 何故彼女とあろう者が、学校の屋上からの飛び降り(未遂に終わったが)などというエキセントリックな行動に走ったのかを。


 しかし凡人過ぎる程に凡人な俺ごとき小市民がこの学校を代表する高嶺の花、倉葉恋花に『何故こんなところで紐無しバンジーを実行しようとしたんですか』なんてド直球に問えるはずがない。

 なのでいざ問いかけようとしても気の利いた言い方が思いつかず、俺はただオロオロと要領の得ない言葉を漏らすばかりでいた。

「…あー、えー……っと……その、」

「『どうしてあんなことをしたのか』……ですか?」

 こいつはビックリだ。流石と言うべきか。見事に俺の言葉を先回りし、ピンポイントで言いあててきた。

 しかし、先ほどまで浮かべていた満足感溢れる、僅かながらも愛嬌を感じさせていた表情が消え失せ、いつの間にか感情の一切見えない無表情になってしまっていたのが何だか怖かった。

 そのギャップに少々戦慄しながらも、俺は彼女の言葉を肯定した。

「あー……そうそうその通り」

 やや間があって、彼女は眼を伏せ、


「……ごめんなさい」


 小さな声で、そうぽつりと呟いた

 ……な、何だ、いきなり謝られたぞ。まあ反省の気持ちがあるのは結構だが、だからって俺に謝られても困る。

 密かに困惑する俺をよそに、なおも彼女は言葉を続ける。


「……つい発作的に……」

「発作的!?」

 ってオイ待て発作的て。発作的に飛び降りをしようとしたのか?一体何を考えているんだこいつは。


「……反省はしています」


 ……まるで傷害事件を起こした犯人の言い訳のようだ。しかもその薄っぺらい台詞とは裏腹に、神妙な面持ちで重くゆっくりと、まるで絞り出すような声音でそう言ったものだから、一概に誠意がまったく無いとも言い難かった。

「ま、まあ反省してるならいいんじゃないか?」

 なにがいいのか正直自分でもよく分からなかったが、とりあえず場を取り繕うため俺がそう言うと、

「……、」

 彼女はゆっくりと顔を上げ、俺の顔を真っ直ぐに見つめたかと思えば、


「ありがとう、ございます」


 やんわりとした口調で突然礼を口にした。

 しかも花がほころぶような微笑を(たた)えながら。


「……ッ!」


 さすがの俺でもこれにはクラッときた。不意打ちすぎる。卑怯だ。くそっ、顔がなんだか火照ってきやがった。

 俺は彼女に気づかれないように横を向き、真っ赤になっているであろう顔を手で煽いで冷ますことに専念していると、学内に設置されているスピーカーから突如鐘の音が響いた。

「あ……予鈴」

 彼女は誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

 もうそんな時間か。それにしても異様に短く感じられたな。まあ無理もないか。

「あの……私……」

「ん……ああ、そうだな。そろそろ行くか」

 今のところ腑に落ちないことだらけだが、俺はともかく、優等生の彼女が授業に遅刻などあってはならないことだ。この場はとりあえず一度置いておくことにしよう。

 彼女はこくんと一度頷き、すっくと立ち上がると、そのまま屋上の入り口まで走っていった。

 そして扉に手を掛ける瞬間、こちらを振り向き、言った。

「心配はいりません。……あんなことは、もうしません」

 どこか憂いを帯びたような表情で、更に言葉を続ける。

「ご迷惑を、お掛けしました。……えっと……」

「ああ、……日背達士(ひのせたつし)。2年生。同学年だ」

 

 彼女はこくんと小さく会釈した後、ガシャンと扉が閉まる音と共に去っていった。


 後に残された俺は、ふーっと一度大きく息を吐き、この濃すぎる30分弱の出来事を思い返し、しばし余韻に(ふけ)っていた。

 ……結局うやむやになってしまったが、しかし彼女、何故飛び降りなどをやろうと思ったんだろうか。まさか本当に発作的にやろうなんて思ったわけでもあるまい。

 彼女はもうやらないと言っていたが、なんとなく俺はその言葉を鵜呑みにすることができず、出所のわからない何かしらの『予感』のようなものに胸をもやもやさせつつ、とてもそんな気分にはなれなかったので華麗に5時間目の授業をスルーすることに決めたのであった。

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