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一話目

一応まだ続きます。

次話は2週間以内に上げます。


感想をくださった方、ありがとうございます!これを励みにがんばろうと思います。

日瀬達士(ひのせたつし)。つまり俺という人間は、どこへでもいる凡庸な高校生男子である。

 成績は中の上、悪いというわけではないが特に良いというわけでもない。そこそこ話せる友人は男女あわせて5人といったところか。俺の特徴を強いて挙げるならば、目が悪いので黒縁の眼鏡を掛けていることくらいか。…いや、普通すぎて何の面白味も無い俺のプロフィールについて、このままダラダラと述べ立てても苦でしかないだろうからこの辺りで省略させてもらおう。

 さて、そんな俺は4時間目の授業を終え、購買で昼飯であるパン数個とミックスジュースを購入後、屋上へと向かった。

 何故屋上?と思うだろう。恥ずかしながら屋上で飯を食うのが俺の密かなマイブームだからだ。風が気持ちいいし眺めも案外悪くない。その上ほとんど人が寄り付かない。案外居心地が良く、落ち着いてリラックスしながら昼食にありつけるのだ。

 9月の中旬、まだ夏の残滓が残る時期、今日は天気が良いので暖かいが、そのうち本格的に秋がやってきて肌寒くなるだろう。

 ここで食うのもそろそろ考えなくちゃなんねーかなーなどと考えながら階段を登りきり、足元から錆びつきつつある鉄製の扉を力を込めて一気に開け放つと、


「……。」


 珍しく屋上に誰かがいた。髪の長い女生徒だ。上履きの色を見るとどうやら2年生、俺と同学年だ。

 いや、誰かがいたこと自体は問題ではない。問題なのはその女子が立っている位置だ。


 四方に佇む錆びついたフェンス。その向こう側、コンクリート製の床のギリギリの位置に立っている。 ちなみにこの校舎は4階建てで、高さは地上からこの屋上までおよそ30メートル。一歩踏み出せば即落下。その先はもう言うまでもない。


 あまりにも突拍子も現実味もない光景に、しばし呆然としていた俺だが、

(……これは…もしかしなくとも……)

 飛び降り。

 自分の目の前で、人が今まさに死のうとしているという状況に理解が追い付いた途端、

(えっ……ちょ、これ……。嘘だろ!?)

 情けないことに、俺は半ばパニック状態に陥ってしまった。


 しかし、事態の深刻さはそれだけにとどまらなかった。


 今にも屋上ダイブを試みようとしている女子生徒が、背後にいる人の気配に気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 その顔を認識した瞬間、今度こそ俺の思考が完全停止した。

 子犬のように丸い瞳、すっきりと通った鼻筋、慎ましく可憐に閉じられた淡い色の唇。

 学内でのイベントで何度も見掛けたその顔は、この学校において才色兼備、完全無欠の代名詞とされている、

 生徒会長、倉葉恋花(くらはれんか)。その人であった。


 何故、一体、挫折とは無縁であろう完璧超人のあの女が、何故こんな?

 俺の脳内では、ひとえにそんな疑問の言葉ばかりがぐるぐると衛星のように回り続けていた。


「…あの……。」

(……はっ!?)

 意識を現実に引き戻してくれたのは、その疑問の発生源である彼女が投げかけた涼やかな声だった。

 彼女は今この時間に、こんな場所に人が来るなんてことを思っていなかったようで、非常にばつが悪そうな、戸惑っているかのような表情を浮かべていた。

 そうだ、何をボケッとしている日瀬達士。今はとにかく彼女に自殺を思いとどまらせるんだ。

 そう決意を固めるや否や、俺は一度大きく深呼吸をし、なんとか気分を落ち着かせた後、必死に頭を働かせた。

 まずはとりあえず会話だ。コミュニケーションを図るんだ。しかし何と声を掛ければ良いものか。下手に刺激してしまうとその瞬間に彼女は落ちてしまうかもしれない。いやしかし悠長にもたついていい状況でもない。

 何かないか、どう言えばいい!?何かないか、何か…

 暗闇で出口を探すように、視線をうろちょろと彷徨わせた俺の目に偶然留まったのは、

 ……これだ!!

「おっ……おいッ!!」

 いきなり俺の発した大声に驚いたのか一瞬肩を強張らせたものの、なんとか落ちずにいる彼女を真っ直ぐ見据えながら、俺は手に持っていたものを真っ直ぐ前へと突き出した。


「ひっ……昼飯…まだ食ってないだろう?」

 パンやミックスジュースがごろごろと入ったビニール製の袋を。


 ……。

 

 アホか俺は。

 アホか俺は。

 アホか俺は!!


 これから死のうとしている奴に飯催促してどうすんだよ!!

 しかも一個当たり100円以下の安物パンとジュースを!!

 ヤバいよなこれ絶対ヤバい。嗚呼さらば生徒会長。どういう悩みがあったのかは知らんが助けてやれなくってゴメンな。自分の浅はかさをこれでもかと呪い、情けなさに涙目になりつつあった俺だったが、


 ぐぅ。


 不意に響いた音。

 その微妙にくぐもったような響き、非常に聞き馴染んだものだ。空腹を感じると自らの意思に関係なく鳴るその音は、俗にいう腹の虫と呼ばれるものだった。だがそれは俺から発せられたものではない。

 では誰か。その答えは明白。

 見ると彼女は、ちょっと照れたように顔を赤らめながら、


「……いいんですか?」


 そう聞いてきた。

 しめた!何だかよくわからんが、パンとジュースに興味を示したぞ!!

 思わぬチャンスを掴んだ俺は戸惑いつつも肯定の意を表すため、必死にこくこくと頭を上下に振った。

 ……しかし、生徒会長様の腹の虫か。非常にレアなものを聞いたな。ちょっと感動したぜ。

 

 そうこうしているうちに、フェンスを軽々と乗り越え、彼女はこちらへと歩いて近づいて来た。

 いろいろと言いたいことは山ほどあったが、とりあえずあえて俺は何も言わず、彼女に(くだん)の品の入ったビニール袋を差し出した。

 袋を受け取った彼女は、はにかんだように俺に向かってにこっと笑いかけた。


「……じゃあ、いただきます。」


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