こんな勇者の始まりの物語
「お探し申し上げました。勇者さま」
「………はぁ?」
地面に埋まったこの地方名物巨大カブ(成人男性でも抱えきれない大きさながら味は繊細で絶品)を引っこ抜こうと足を踏ん張ったあたしの前に恭しく膝を突き、そう言うのは明らかに上等な衣服を纏うとてもとても綺麗な神官さま。お日様のようにきらきらしている髪からのぞくお耳が尖がっているからエルフ族の人だ。
まさに神秘、まさに至宝。見る人間の魂丸ごとそっくり持っていってしまうような美貌の主がなぜ、私に膝まづいている?
カブと対決したままの間抜けな体勢で間抜けな顔をするあたしにエルフさんはキラキラした笑顔。
「ゆう、しゃ?」
「ええ。貴女様のことです」
間髪いれずに頷くエルフさん。っうか今、全く躊躇せずに頷きましたよ、この人。
えっ~~~~~と。勇者様について思い出してみようかあたし。
あたしの住むこの大地。フェルカ大陸には様々な種族が住むけど数百年周期で「魔王」と呼ばれる突然変異種が生まれる。
強い力をもつ「魔王」は一度の例外もなく大陸に害を成す。
だが、不思議なことに「魔王」が生まれると同時に「勇者」も生まれる。
「魔王」になる魂が決まっているように「勇者」になる魂も決まっており、彼らは外見も記憶も全て引き継ぎ戦い続ける定めにあるのだという。
しかし、だ。ここで一つ、疑問が。
「あの………」
「はい、なんでしょうか。勇者様」
うっ、そのキラキラ笑顔に気圧される。だが、言わずにはいられなかったあたしは目を逸らしつつそれを口にした。
「ゆ、勇者って………男の方、だったのではないでしょうか………」
もぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
遠くから牛の鳴き声が聞こえた。のどかな我が村(大陸の端、主要街道からも外れた小さな田舎です)ではなんてことのない光景。
ああ、風にそよぐ農作物の葉ももしゃらもしゃらと牧草を食べる牛達も何も変わらないのに何故、あたしはキラキラ笑顔のエルフに勇者呼ばわりされているのだろう?
第一、勇者は男だし。
教会にある勇者様の姿絵は男性だ。
エルフさんは笑顔を崩さずさらりとカブを掴むあたしの手を取ると泥だらけの指に唇を落とした。
突然の暴挙に『ひにゃ~~~!!』と声なき声を上げあたしをエルフさんは抱き寄せ耳元で囁いた。
「些細なことです」
全然些細じゃな~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!!
魂の叫び虚しく、あたしはエルフさん…………なんと数千年を生き、歴代の勇者様を導いてきたというとっても偉い神官の長にそのまま強制的に王都へと連れて行かれて勇者としてエルフさんと一緒に旅たつはめになったのだった。
あたしが勇者なんてなにかの間違いだぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!