参:沈黙のルール
次の朝、瑪瑙は起きると同時に父親の元へ走った。
「おはようございます!父さん!」
「…ん?瑪瑙。どうした?朝から。」
翡翠は歯を磨いていた。
「今日…友達の部活を見に行ってもいいですか?」
「……?」
翡翠は急に視線を鏡に映る自分から瑪瑙に変えた。
瑪瑙はその目つきに多少おののきながらもこう言いきった。
「友達に…その…部活を見に来いと…言われまして…。」
「……。」
翡翠が黙り込むのを感じて、瑪瑙はだんだん声が小さくなって行くのを感じた。
そして、歯を磨き終えた翡翠が、口を濯いだ後、瑪瑙を見た。
「剣道の練習はどうする気だ?」
「……えっと…。」
「瑪瑙。」
自分の名前を厳しい口調で呼ばれ、反射的に体がビクっとしてしまう。
「これだけは言っておく。物事をサボるというのは、自分に負けるという行為なんだ。」
「………。」
「私は、自分に負けるような息子を持った覚えも、育てた覚えもない。」
「………、何でもないです。さっきの話は忘れて下さい……。」
瑪瑙は逃げるように翡翠の視界から消えて行った。
「行ってきます…。」
「あら!元気ないわね。しっかり元気出して行きなさいよ!」
後ろから大きな声で瑪瑙を呼んだのは瑪瑙の母、高鐔 鰶だ。
「…母さん。」
「ん?どうしたんだい?」
「…いや、何でもない。」
そう言うと瑪瑙は、母親に背を向けた。
「アンタさぁ、やりたい事があるなら父さんの言う事を無理に聞かなくても良いんだよ?」
ふいに背後から聞こえた、母親の声。
その声を、その言葉を聞いて、瑪瑙は動きを止める。
「父さんはアンタに剣道をやらせたいみたいだけど、
アンタがそれを望まないなら、辞めても良い。」
「…母さん…。」
「…と、あたしは思う!というわけで、サッサと行って来な!」
「…母さん!」
振り向きかけた鰶が瑪瑙に視線をやる。
「……俺、今日帰り遅くなるから!」
「…はいはい!分かったよ!」
瑪瑙は天にも昇るような気持ちで学校へと向かった。
分かってくれた。やった。
「………で…今日、部活を見にきたいと…。」
休み時間。ウンウン、と頷きながら薙が呟く。
「な?今日でいいだろ??」
瑪瑙が身を乗り出して薙に尋ねる。
しかし薙は先ほどと変わらず唸っているだけだった。
瑪瑙に嫌な予感が走る。
まさか…今日部活休みとかだったら…もうきっとチャンスは来ないだろう。
今回は都合良く母さんが助けてくれた。
もう…こんなチャンスはない…。
この言葉がだんだん瑪瑙を暗闇へと落として行く…。
薙の沈黙が続く。何秒が何時間にも感じられる。
突然空白を破ったのは、薙のつぶやきだった。
「……たしか…あったハズだ……。」
「…?」
「うん。あった。あった!Mサイズの余りが一つ!!!」
「……?あの…薙さん…?なんの話をしてらっしゃいます??」
「道着!!確か部室に一つあるんだよ!ただ見学するだけなんてつまらねえだろ!
どうせなら体験してみろってことだよ!!道着あるし!!」
なんだ…道着か…。
「ん?どうした?瑪瑙。」
「…いや…今日練習ない…とか言われるんじゃないかって思っててさ…。」
瑪瑙はグッタリと腰を落とす。
「ハハハ!ごめんごめん!てか、うちの部。休みなんて一日もねえよ!??」
「…剣道と同じだな…。」
「…そうだな…。」
「………。」
「………。」
今度は気まずい沈黙となった。両者縦線。まぁ今回は俺が悪い。
「…じゃ…じゃあ!放課後に部室楝の前に来といてくれ!!」
薙が自分の席へと早々と戻って行くのを見て、瑪瑙は苦笑した。
「……薙よ…本当にごめんだ…。」
初めまして、三話目にして初コメ、山本です。
あんまコメントって好きじゃないんですよねぇ……。
あ、すいません。これは私事でしたね。
一応言っておきますと、題名はわざとです。