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PROMISE OF THE END  作者: nanaco
1/1

ふたりの男とひとりの少女

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーーー私たちは、約束を抱いて生きている。

いつ終わってもおかしくないこの世界で、

誰かと交わした、ちいさな約束を。


それは、生き延びた先にしか叶わない。

だから私たちは、今日も命を賭ける。


たとえ叶う保証なんてなくても。

ーーそれでも、信じていたかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






——世界は、静かに終わった。


最初の警報が鳴ったとき、テレビではまだバラエティ番組が流れていた。

誰もが“どこか遠い国の話”だと思っていた。


けれど、次の朝には街の半分が焼け落ちていた。

叫ぶ声も、泣き声も、笑い声も、

ゾンビに喰われて、音がひとつ、またひとつと消えていった。




✳︎✳︎✳︎✳︎





エンジンの低い唸りと、乾いた風の音だけが車内を満たしていた。地図にも載らない道路を、二人の男が黙々と進む。

目的地はない。ただ、生き延びるために走るだけ。


助手席の男がぼそりと呟く。

「次の町までガソリン、保つか?」


運転席の男は曖昧に肩をすくめ、眠気まじりの目で前を睨む。


そんな静けさを切り裂いたのは、ふいに視界の端を横切る、小さな影だった。


「……止めろ」


助手席の男が窓の外に目を向ける。その先には、崩れた塀を越えて駆けてくるひとりの“女”。

彼女を追いかけるように、ゾンビの群れが蠢いていた。


運転席の男がブレーキに足をかけるより早く、助手席の男はドアを開けて、まだ減速しきっていない車から飛び降りた。


「おい、マジか!待てって……!」


運転席の男が焦った声をあげるが、聞こえていない。

砂煙の向こうで、男はすでに銃を構え、ゾンビの間を駆け抜けていた。


女は必死に走っていた。

涙で滲む視界の先に、希望も助けもない。

もう駄目だ、と膝が折れそうになったそのとき――


鋭い銃声が数発、静寂を切り裂く。

目の前のゾンビが吹き飛び、群れが崩れる。


気づけば女の前に、見知らぬ男が立っていた。


「お前、こんなところで何してんだ」


低い声に、女は言葉を失う。

男は乱暴に手を伸ばすこともなく、ただ淡々と彼女の様子を見ている。


「……ここは危険だ。とりあえず移動するぞ」


女は首を横に振る。震える指で腕の裾をまくると、そこには歯型の痕が赤く残っていた。


「……せっかく助けてくれたのに、ごめんなさい」


顔を伏せる女。

男はしばし沈黙し、ふっと息を吐く。


「ここから東に行ったら避難所がある。……そこならワクチンがあるかもしれねぇ」


「……何言って……」


「まだ諦めるのは早いだろ。いつ噛まれたんだ、それ」


「今朝、です……」


「じゃあ、まだ大丈夫だ。来い。連れてってやる」


「え、でも……」


「でもじゃねぇ。そもそも、こんな中途半端に放り出すなら最初から助けてねぇよ」


男は強引に女の腕を掴み、歩き出す。

後ろで運転席の男が呆れた声を上げる。


「おいおい……やっぱり放っておけねぇのかよ」


二人の男と一人の少女。

それが、旅のはじまりだった。



✳︎✳︎✳︎✳︎



静けさが戻った路地を、男は少女の腕を引いて歩く。

遠くにエンジン音が近づいてくる。

さっきまで彼が乗っていた車だ。

運転席に座るもう一人の男が、窓越しに呆れた顔でこちらを見る。


「……せめて止まってから飛び降りろよ」


助手席の男は、まるで聞こえていないかのように無言で車のドアを開ける。

少女を先に乗せ、自分も助手席に滑り込む。

少女はおずおずと乗り込み、戸惑いと不安が入り混じった顔で小さく身を縮めた。


車内に、汗と埃と火薬の匂いが漂う。

男たちの間に、短い沈黙が落ちる。


「こいつ、噛まれてた」


助手席の男が、窓の外を見たままぼそっと言う。


「へぇ……は?」


運転席の男が一瞬だけアクセルを踏み間違えそうになり、急ブレーキ気味に車を止める。

助手席の男を振り返って、思わず声が裏返る。


「いや、だからお前何してんの? 噛まれてる奴連れてきてどうすんだよ!」


「今朝噛まれたばっかだ。まだ間に合う。東の避難所ならワクチンが——」


「いやいやいや、勝手に話進めるなって……!」


助手席の男はちらりとも運転席の男を見ない。

むしろ当然のように少女の方へ身体を向けている。


「名前は?」


いきなり話を振られた少女は、びくりと肩を揺らす。


「……ユズキ、です」


「俺はレン」


運転席の男は「ちょっと待て……」と呟きつつ、あきらめたように肩をすくめる。


「話聞けよ……。ああもう、いいわ。俺はカイ」


少女は戸惑いながらも、小さく「よろしくお願いします」と呟いた。

誰も目を合わせず、車内にはどこか間の抜けた空気が流れる。


カイが溜め息混じりにハンドルを握り直す。


「……はぁ、今日も無事じゃ済まねぇ気がするわ」


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