影の終焉、そして約束
屋敷の中庭は、血と煙に包まれていた。イチの影の剣が男たちを次々と斬り伏せ、恐怖に駆られたキンゾウの手下たちは、我先にと逃げ出していった。宴の喧騒は消え、残されたのは静寂と、月の光だけだった。
そのとき、武道場の奥からキジマルが現れた。縄を切り、傷だらけの身体でふらつきながらも、イチの背中を見て笑った。
キンゾウはその姿を見て、すべてを悟った。
「お前…あの時の小僧だな。生きていたのか!」
声を震わせながら、キンゾウはツキを羽交い締めにした。刀の刃が、ツキの白い首筋に冷たく当てられる。
「この女を殺すぞ!近づくんじゃない!」
イチは一歩も動かず、ただ静かに見つめていた。
その足元に、黒い影が忍び寄る。小さな影ネズミが、音もなくキンゾウの足元へと近づいていく。
「な…なんだ…!」
キンゾウは後ずさる。だが、もう遅かった。
影ネズミはキンゾウの足元で形を変え、黒い太刀へと変化した。次の瞬間——
刃は地面から突き上げ、キンゾウの身体を貫いた。
肛門から入り、頭頂部から刀の先が突き出る。キンゾウの目が見開かれ、口から血が噴き出す。
「ぐ…あああああ!」
そのまま、キンゾウは崩れ落ちた。
ツキはその場に立ち尽くし、震える手で口元を押さえていた。イチがゆっくりと歩み寄ると、ツキは彼に飛びついた。
「よかった…本当に…よかった…!」
イチは何も言わず、ツキを強く抱きしめた。二人の影が、月の光の中でひとつになった。
☆
——シップ内。
静かな機械音が響く船内。ツキはイチの隣に座り、窓の外に広がる星々を見つめていた。
「私は一度、国に帰らなければいけないの」
イチは彼女の横顔を見つめながら、静かに頷いた。
「待っててくれるよね?」
「…ああ。いつまでも待つよ」
ツキは微笑みながら、少しだけいたずらっぽく言った。
「ちなみに、どれくらいで帰ってくると思う?」
「ん?…まあ、1年くらいか?」
「そうね…300年ぐらいかな」
「……え?」
イチは目を見開いた。
「大丈夫。だいぶイチ、長生きになったから」
ツキは笑った。イチも、少しだけ呆れたように笑った。
そして、二人は静かに手を繋いだ。
時を超えても、影の絆は消えない。