奪われし力、影の裁き
一匹の影ネズミが、屋敷の奥にある武道場へと音もなく忍び込んだ。床を這うように進み、やがて一人の男の姿を捉える。縄で縛られ、柱に背を預けて座っているのは——キジマルだった。
「キジマルを発見した」とモモの声が響く。
「よし!」とイチが応じた瞬間、背後から太刀が振り下ろされた。
ニオウの一撃を受け止めたイチだったが、すぐさま横からラオウが斬りかかってくる。二人がかりの攻撃。モモが即座に反応し、肘に仕込まれた手裏剣が自動発動。
カキィン!
鋭い金属音が響き、ラオウの太刀を弾いた。イチは振り返り、二人の巨漢と対峙する。だが、ラオウの剣速は異常だった。イチも速いが、それを凌駕する動き。剣の実力差は明らかだった。
「ははは、強いだろう、こいつ。俺が見た中で一番強い。死ね、忍者!」とキンゾウが高みから笑う。
イチは必死に剣を受けるだけで精一杯だった。汗が額を伝い、呼吸が荒くなる。
「…この強い男、努力に努力を重ねてここまで強くなりました」とモモが静かに語る。
「…何言ってる?」
「でも今は、人を殺しまくって悪の限りを尽くしております」
「だから何言ってるんだ」
「この能力、奪っちゃいましょうか」
「…できるのか?」
「触れば殺さずとも、能力だけ奪えます」
イチは一瞬黙り、そして笑った。
「つまり…お前の説明は、俺に罪悪感を与えないための…いいね。こいつの能力、全部取っちゃうか。何年もかけて手に入れた力——」
「はい、触っちゃってください」とモモ。
イチは跳躍し、天井を蹴って反転。ラオウの背後に回り込み、肩に手を添えた。
「何の真似だ…?」
「いただくぜ」
ラオウの身体が震え、膝から崩れ落ちた。体中から砂が吹き出し、筋肉が萎み、瞬く間に痩せ細った姿へと変わる。
「ぐああああ!」
「兄者!」とニオウが叫ぶ。目を見開き、信じられないという表情。
イチは剣を構え、ニオウと対峙する。
「……その構えは…まるで兄者…」
「来いよ」
「しょらぁぁぁぁぁ!」
ニオウが渾身の一撃を放つ。だがイチは、ラオウから奪った剣技でそれを受け流し、回り込んで一閃。
刀ごと、両手を切り落とした。
「ぐわぁあああ!」
血が噴き出し、ニオウは自分の両腕を見つめる。絶望が顔に広がる。
その瞬間——
イチの太刀が閃き、ニオウの首を飛ばした。
静寂が広がる。
宴の喧騒は消え、ただ月明かりの下に、影の裁きが残された。