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護られる、虚しさ

 ――幼い子どものころ。


 自身の居宮から離れた広場で、武芸に勤しむ半人半竜の竜騎兵や竜騎士の雄たちを見るのが嫌だった。

 もともと暴力沙汰は好まない性格だったため、それが実際には暴力ではなく、決められた「型」というものに準じて身体を鍛錬する動きだとわかっていても――結局は、防御が間に合わず、あるいは相手よりも技術が劣れば向けられる拳や蹴りは身体に当たるので――見るのは嫌だったし、


 ――何より。


 竜騎兵や竜騎士の雄たちが武芸鍛錬に精を出すのは、自分のせいだと思える自覚があったので、まるで彼らにそれを強いているような自分が情けなくなり、それを見るのが嫌だった。


 ――そう。自分が幼くて、弱いから……。

 ――《()》族の族長としても、「(りゅう)五神(ごしん)」としても頼りがないから……。


 どんなに大陸を創成しようと、《(すい)(じん)と戦争をすればいつもかならず大敗し、大怪我を負う。そんな《地》族族長を護るために、彼らは忠義のために独自に身体能力を高める武芸を生み出して、鍛錬を日常のひとつとしている。

 そんなことをする必要はないのに、と思う一方で、それほどまでに護られていても成果をひとつも上げられない自分が情けなくて、目を逸らして逃げては、周囲に侍る女官たちにしがみついて泣いていた。


 ――俺はほんとうに、「竜の五神」なんでしょうか?


()(がみ)は自分を世話するためだけに存在する女官たちに泣きながら問う。

 女官たちは、


 ――あなたは間違いなく我ら竜族が《地》族の族長でございます。


 と言って、頭を撫でてくれて、


 ――世界創世は始まったばかり。何事もお焦りにならずともよいのです。


 そう言って、慰めてくれる。

 でも、ほんとうに、ほんとうに自分は世界の《()》であり、始まりの種族――竜族の《()》である《原始(げんし)》が分け与えた自然エネルギーのひとつを司る「竜の五神」、その一席に座する《地》神でいいのかと疑うばかり。


「だって俺は、いつまで経っても大陸を創成することができないんです」


 ――一匹の竜が咆哮して始まった、この世界創世期。


 あまりにも強大な自然エネルギーをひとりでコントロールすることが困難だった《原始》は、自身の自然エネルギーを五つの元素に分け、《空》、《水》、《風》、《火》、《地》と定め、最初にそれを司った竜に「神」の一席を与え、部族を与え、族長という立場を与えた。

《地》神は「竜の五神」のなかではもっとも誕生が遅かったが、世界創世期でもっとも重要な生命誕生の場である「大陸」の創成を任され、預かり、物心ついたときからそれに着手してきたが、それまで海洋だけが広がる世界を領域としていた《水》神が大陸創成を領域侵犯と見なし、事あるごとに大津波を起こして大陸を破壊し、沈めてしまう。

 それに耐える力がない《地》神は、いつも大敗し、大陸を失うたびに同調連鎖で身体に地割れを起こしてボロボロになり、手も足も欠損させてしまうので、五体満足で過ごすことのほうがむしろ珍しいくらいだった。


 ――それほどまでに出来損ないの自分が、《地》神だなんて……ッ。


 泣いても、泣いても、涙は尽きない。

 気鬱ばかりがつづいて、顔を上げることもできない。


「本来、《地》族は戦いに身を投じる部族ではないんです」


 大陸を創成し、多くの自然を成して大地に数多の生命を誕生させて、育み、慈しみ、それらが末々まで繫栄するように実りを与えて、恵みを与えるのが本性だ。父性と母性で生命のすべてを護るのが本性なのだ。


「でも、俺はそれを《地》族に与えることができないんです」


 自分は彼らを率いる族長なのに、世界創世期のいま、「竜の五神」のなかで自分がいちばん奮励努力しなければならないというのに、何ひとつ成果を出すことができず、平和や調和、豊穣を注ぐべき彼らに役目を与えることもできず、武芸ばかり精進させている自分が情けなくてたまらなかった。

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