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1.私はミサキ

 五月蝿い、って殴られた。片想いだった男子に、お前は邪魔だと。


 頭の中の嫌なことを、消しゴムで消せたらいいのに。ずっと嫌な感情で、他のことなど考えることができない。


 彼はずっと頭の中にいる。


「こら策舞ミサキ、授業中にぼーっとするな」


 物理の岩吉に頭をぱかーんと叩かれ、涙で視界が滲む。


「あー、岩吉泣かした」


「最低」


「これって体罰っていうんじゃない?」


「五月蝿い、授業中だぞ。策舞、気分悪いなら保健室に行け」


 ドクンドクンと心臓が脈打ち、頭がくらくらする。


「…はい」


 教室を離れて、階段を下る途中で私は蹲る。力が入らない、どうしたんだろ私?


「大丈夫?」


 声に驚き顔を上げると、柔らかい表情の男子が心配そうに立っていた。


「心配しないで、大丈夫だから」


「大丈夫そうには見えないよ、肩貸そっか?」


「今は私を構わないで」


 声を荒らげるつもりなどなかったが、私のクチから出た言葉は明確な拒絶である。


「ごめん」


 男子は驚いた顔をして、申し訳なさそうに謝り、離れていった。


 どうしてなんだろ、何で上手くいかないのかな?痛くて重い、頭がモヤモヤする。


 これが青春?こんなのいらない、私の人生なんてゴミじゃん。


「だったらいっそ」


「青春なんてぶち壊れちゃえ、って君思ったでしょ?」


「えっ!誰っ?」


 階段の踊り場に見知らぬ白衣の女性が立っていた。一体何者なのだろう?


「私が誰かって?魔法使いかもしれないし、神様かもしれない」


「からかっているんですか?」


「冗談が過ぎたね。私は、この学校のスクールカウンセラーの井上八千代と申します」


「カウンセラー?」


「そうだよ。心に傷を負った学生の逃げ道を作る、それがカウンセラー」


「心の痛みがなくなるんですか?」


「違うよ、カウンセリングってね。聞こえはいいけど。痛みを感じにくい方へ、思考を誘導することなんだ。だから痛みがなくなるわけじゃない」


「ならいいです」


「あら残念、美味しいお菓子と紅茶があるんだけど」


「バカにしないでください、子供じゃあるまいし」


「お菓子って言われると、子供なイメージがあるけど。心にも補給は必要で、それが簡単にできるのがお菓子だったりするの」


 このままだと本当にカウンセリングを受けることになりそう。めんどくさいので、この辺りで話を切ろう。


「そうですか、なら授業終わったら、お菓子買って帰ります」


「そうするといいわ」


 今日の授業が終わり、コンビニでお菓子を買って帰宅した。部屋でお菓子を食べながら、ふと思う。


 私、誘導されたと。大人ってズルい。

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