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翌日。青空のもと校庭に集まった一年生30名は龍導の属性ごとに分けられていた。
「なにするんだろうね」
同じ水属性のツララが首をかしげる。
「属性ごとに今日は技の練習とかなのかな」
返事をしながらあたりを見回す。
水属性7人は初等部から変わらない。
私とヤヨイの予想は外れ、編入生は碧い瞳だが火、緑の髪の毛だが土だったようである。
「今日は高等部から入ってきてくれた人もいるので、属性ごとに技のレベルや適性をみていきたいと思います」
先生の言葉になるほどとみんなうなずく。
たしかに初等部からのメンバーは力量もどのような力の使い方をするのかも知っているが、編入生は謎である。
「それでは間隔をあけて、立ってください。そしてまずは己の属性の物体を手のひらサイズで出現させてください」
みな言われたように広がり、物体を生み出す。
生み出し方は人それぞれである。
基本的に念じれば、自分の属性の、私の場合なら水を生み出すことはできるのだが、気合を入れるために声を出したりするものや指を鳴らしたりするものもいる。
私は静かに念じ、手のひらで作った器に水を出現させる。
量を調節するのは難しく、繊細さ、コントロール能力の高さが如実に表れる。
初等部からのメンバーは長年鍛えられ、だいたいの量は調節可能である。ただしもともとの絶対値は存在するので、無限に出せるわけではない。
そしてその絶対値は人それぞれで、大きいほどやはり能力は高いということになる。
私を含め、みんなさりげなく編入生を見る。
注目されてやりづらいだろうなと思うが、気になるものは気になる。
「すごいな、うまいんだな。誰かに習ってたのか」
編入生の隣に立っていた子が声を上げる。
碧い瞳の彼は手から浮かせた火を、緑の髪の彼は手のひらに土の山を出していた。
「よし、全員できるようね。次はそれを投げます。校庭の壁の的に向かって投げて。特殊な加工がしてあるから、特に加減はいらないわ。的に当てることを意識して」
一斉に手に持っていた塊を的に投げる。水や火は念じることによって形を変え、真っ直ぐ的に飛んでいく。
「だいたいみんな狙えているわね」
先生が的を見て満足気につぶやく。若干距離が届いていなかったり、的からずれていたりしたものもあったが、おおむね的の周辺に当たっている。
「さて、次は技をみせてもらいましょうか」
横一列に並び、準備をする。技といっても人それぞれで攻撃的な技もあれば、魅せるものとして美しい技もある。コントロール、パワーなどそれぞれが得意とする分野に特化したものである。自分の今までの知識、経験、練習を積み重ねた一番の技なので、準備や精神統一が必要な人もいる。
「攻撃型の人は壁に向かって。それでは一斉に放って!」
互いの技を順番に見ることができると思っていたので、戸惑いながらも放つ。
視界の端に編入生の赤い炎が壁に向かうように見えたが、よくわからなかった。
「ここで皆さんに大事な話があります」
黙って壁を見つめていた先生が全員を見渡した。
この学校で一番年上と思われる彼女の眼鏡の奥の真剣なまなざしに、空気が変わったことを察して生徒たちも息をのむ。
「先ほどの攻撃を人に向かって本気で放つことができますか」
予想しなかった言葉に生徒同士で顔を見合わせる。
「近年、この国が他国に狙われていることはご存知でしょうか。前学校長であるミカゲ様、そのご夫人のミコト様が5年前に前線を退かれてからです。他国は力が弱まったとする我が国を狙っています」
ここは龍の力が満ちた土地ですからねと先生は目を細める。
「その関係で任務の内容が変化してきています」
松竹梅のバランスは崩れ、圧倒的に松竹の割合が多くなっているのだ。
しかも危険を伴う任務が。
生徒たちに一気に緊張が走る。
「改めて聞きます。殺意をもって向かってくる相手に本気であなたたちの技をぶつけることができますか」
ただし、と言葉は続く。
「相手のことは殺さずに、です」
先生がひとりひとりの目をしっかり見つめて言う。先ほどよりストレートに命の危険があること伝えられ、小さく悲鳴のような声が漏れる。
「任務があるのに矛盾しているかもしれません。しかしあなたたちには人殺しにはなってほしくないのです。あくまで護る人であってほしい」
先生のまなざしは、教師というより孫を見つめるようなまなざしである。
「本来であれば、まだ子供であるあなたたちにこのようなお願いはしたくありません。しかしこの国は今狙われており、それを守ることができるのはこの学校にいるあなたたちのような属性能力、龍導を鍛えている人間です」
この国のすべての人が能力を有しているが、特に能力が強い人間がこの学校には集まっている。一概に能力だけの問題ではないが。
「任務が始まるまでの間によく考えてください。このままこの学校で戦うのか、任務にはつかず、援護に回るのか、この学校をやめ、ちがう道を歩むのか」
「戦う…」
強い言葉に動揺する生徒も出てきた。
「援護とはどういうことですか」
隣のツララが手を挙げて質問する。
「看護を学び、救護の役割を果たしてもらいます」
先生が優しく応える。
「なるほど」
何かを考えこむようにツララはうなずいた。
「この選択に不正解はありません。国のためなどと大それたことは言いません。自分や友のために戦うのか、友を助けるために救護の力を身につけるのか。もっと他に大切な道を見つけるのか。あなたたちの今後の人生が変わる、場合によっては命にかかわる大事な選択です。どうか後悔のないように、じっくり考えて、各々の判断で決めてください」
先生がしめくくり、その日の授業は重苦しい雰囲気で終わった。