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碧い火に、ソウヤに向かって抱きしめるように手を伸ばす。
ヤヨイの悲鳴が聞こえる。
「え、なにが起こっているの」
伸ばした手はソウヤに触れる前に水に包まれた。
驚いて自分の手を見つめると、みるみるうちに体全体が水に覆われる。
「ソウヤの火が」
ユサの声に慌てて、自分の手から視線を外し、ソウヤを見る。
「碧じゃなくなっている」
目の前のソウヤを包んでいた火は碧ではない。深紅のようないつもの赤色になっている。
まさか…
「水龍の加護がシズクにうつったということ?」
ヤヨイの驚いた声が聞こえる。
たしかにそうとしか考えられない。自分をまとう水は自分の意思とは関係なく、やさしく全身を包み込んでいる。
傷口も浄化されていくようだ。
「ソウヤには火龍の加護だけが残っているのか」
ユサが戸惑いを見せる。
ソウヤをまっすぐ見つめる。色は赤になったが、火は変わらずソウヤを包みこんでいる。意識はまだ戻っていないようで、目は開いているが何の反応も示さぬまま、そこに立っている。
泣き笑いの表情になる。
「こうなったら私の勝ちだね。私の実力見せてやるんだから」
龍の加護の力か、傷の痛みはもう感じない。むしろ力があふれてくるようだ。
再び、しっかりと両手をソウヤに向かって伸ばす。
「かましてやれ」
「目を覚ましてあげて」
振り返ると、さっきまで心配そうだったヤヨイとユサが微笑んでいる。
こくりとうなずいて、叫ぶ。
「かえってきて、ソウヤ!」
そして燃え盛る赤い火を消すように、水を放つ。
水が陽の光を浴びて、きらきらと光りながら赤い火を包み込む。
赤い火に水がまとわりつく様子は二匹の龍にも見える。
火が消えていく。
ふっと力が抜け、膝から崩れ落ちた。
慌ててヤヨイが駆け寄ってくる。ソウヤにはユサが駆け寄る。
「よかった」
安心感か疲労感のせいか、薄れゆく意識の中、そっとつぶやいた。




