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冬休み初日。例年は実家に帰る級友たちの後ろ姿を寂しく見送っていた。ひとりで寮に残って、修行をしたり、街に出たり、気を遣ってはやく帰ってきてくれるヤヨイと過ごしたり。
けど今年は違う。ソウヤが一緒に暮らしていたおじいさんに会いにきたのだ。
「これははるばる。かわいい連れさんじゃな」
「はじめまして、ソウヤさんの相棒のシズクです」
出迎えてくれたおじいさんに頭を下げる。
だいぶご高齢だが、眼差しは鋭く、力を宿している。しかし迎えてくれる空気は優しくてあたたかい。
「シズク…その首飾り。ライガとナギサの子どもか!」
カッと目を見開き、おじいさんが私の顔を凝視する。
「はい。そのことでお話しを伺いたく、ソウヤさんについてきました」
「じいさん、7年前の、俺の家族が亡くなった時のことを教えてくれ」
ソウヤが横から言う。
「てっきり結婚の挨拶にでも来たのかと思ったぞ」
おじいさんの言葉に私とソウヤは顔を見合わせ、耳を赤くする。
しかし、おじいさんの顔はからかっているというより悲しそうだ。
その表情を見て、私もソウヤも困惑する。
「こんなことに…いや、話そう。部屋に来い」
おじいさんは何か言いかけたが、決然と顔を上げ、部屋に入っていく。
「まず、ソウヤは相変わらず覚えていないんじゃな。当時のことは」
タツキと名乗ったおじいさんがソウヤの顔を見る。
「あぁ。他国が、こないだ宝国てわかったけど、おれら家族を襲ったことは覚えている。あの辺は家もまばらにあったから、俺たちしかそこにはいなかった」
ソウヤが思い出すように空中を眺める。
「たしかミズキ…妹が攻撃されたんだ。そこからはショックで気を失ったのか、なにも覚えていない。次に目が覚めたのは、このじいさんの家だった」
「そうじゃな。わしも何があったかは知らん。その頃わしは龍導師をまとめる総帥をしておった。じゃからライガとナギサとも付き合いは深かったよ」
私の方を見て、そっと笑う。
「大きくなったな。君が小さい頃、よくあやつらが自慢げに連れてきておったからな」
この国で一番強い龍導師にすでに会っていたとは。小さすぎて覚えていないのが残念だ。
「あの日ライガとナギサが任務から帰ってこなかった。あの二人で太刀打ちできんかった相手となると、相当の手練れじゃ。まず状況を確認するということで、わしが二人が行った場所に向かった」
あの日私はいつも通り学校の寮で過ごしていた。父と母の仕事が忙しかったので初等部から寮生活をしていた。
でも休みのたびに父と母は会いに来てくれたし、お揃いの首飾りがあったから、いつも側にいるような感覚だった。
「そうしたら敵もいないが二人の姿もなかった。そして地面に残っていたのがその首飾りじゃ」
私の首元を指差す。
「だが、もうひとつ近くに残っているものがあった」
タツキが息を吐き出す。
「それがお前じゃ」
ソウヤを真っ直ぐ見つめる。
「ソウヤが、その場に?」
瞬きを繰り返す。そのような話は今まで一度も聞いたことがなかった。両親の死を報告に来た龍導師からもその話を一緒に聞いてくれたカグラ様からも、そしてソウヤからも。
「やっぱりか。そのことを確かめに来た」
ソウヤがタツキを見返す。
「話を聞いていて、骨も残さずとか思い当たる節があったから」
「ソウヤのご家族も…?」
「ああ、なにも残っていない」
ソウヤがつらそうに顔を歪める。
「その通りじゃ。ソウヤの証言でご家族も捜索したが見つからなかった。それでわしはソウヤを保護した」
そういう経緯だったのか。まさかソウヤも父と母と同じ時に家族を亡くしていたとは、悲しい偶然である。
「碧い火を見たという話を聞いたのですが、それについてはご存知ですか?」
「それはどこで」
タツキが驚いたようにこちらを見る。
その様子に戸惑いながら答える。
「ヒバリさんに」
「ヒバリか…わしもその話は聞いた」
「その火について心当たりはありませんか。宝国の武器なのか、龍導なのか」
勢い込んで尋ねる。タツキは苦しげに眉を寄せ
「わしからはなんとも」
「そうですか。また何かわかればぜひ教えてください。よろしくお願いします」
何かわかるかと期待していたので、少し落胆してしまう。
しかしソウヤの家族も同じように亡くなっているならば、敵は同じ可能性が高い。
「これから一緒に手がかりを探さない?」
一人より二人の方が心強い。そう思い、ソウヤを見つめる。
何か考えている様子だったソウヤは一拍置いてから
「そうだな」と答えた。




