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王都の中心にある城の前で、女を引き渡す。事務的なやり取りが済んだあと、龍導師がこちらをじっと見つめる。
「違ったらごめんなさい。もしかしてシズクちゃん?」
「え、そうです」
40歳ぐらいだろうか、しかしピンと伸びた背筋に、力を宿した切れ長の瞳がもっと若く感じさせる彼女に見つめられ戸惑う。
「やっぱり。ライガさんとナギサさんのお子さんでしょ」
「どうして…」
久しぶりに聞いた父と母の名前になんだか泣きそうになる。
「わたし、お二人の後輩だったの。ヒバリって言います。その首飾りに見覚えがあって。お二人が常につけていて、家族でお揃いなんだって話していたから」
私の首元の銀色の首飾りを指さす。
「そうなんです、お知り合いだったんですね」
予想外に父と母を知る人物と出くわし、動揺する。よく考えれば、王族直属の龍導師は基本王都にいて、そこから任務に出ていたのだから知り合いがいてもおかしくない。ましてやヒバリは王族直属の龍導師のみが着ることができる袴を身に着けている。つまり近しい存在だったのだ。
改めて彼女の袴を凝視する。紺色に控えめな美しい銀の刺しゅう。間違いなく、父と母も着ていた袴である。私もいつかと夢見ている。
「それにすっごく綺麗な顔してるなぁと思って。ライガさんとナギサさんにそっくり」
ヒバリが優しく微笑んでくれる。
「あ、ありがとうございます。あの、少しお話を伺ってもいいですか」
思い切って言う。両親と親しかった王族直属の龍導師に会うことなんて、今後そうそうないかもしれない。この機を逃すわけにはいかない。
「もちろん。今日は今のところ暇だしね。お二人の活躍について語ろうか。私もライガさんとナギサさんには憧れていたから、たくさん話は知っているよ」
笑顔で言ってくれたヒバリには申し訳ないが、聞きたいのはその話ではない。いやいつかその話もちゃんと聞きたいけど。
「二人が亡くなった時のことを聞きたいのです」
目を見つめ、しっかりと告げる。ヒバリは小さく息をのむ。
「私も人づてに聞いたから詳しくはないよ。つらい話になるかもしれない。それでもいい?」
ヒバリも真っ直ぐ私の目を見つめ返す。
「はい。それでも聞きたいです」
私を見て、ひとつうなずくとヒバリは言う。
「そうだね、シズクちゃんには知る権利があるだろうから。後ろの少年も一緒に聞くので大丈夫?」
私の後ろに立っていたソウヤをちらりと見る。
「大丈夫です。彼のことは信頼しているので」
迷いなく、うなずく。
「ソウヤもいい?私に付き合わせて」
「構わない。むしろ許されるなら聞いておきたい。聞いた後のお前も心配だし」
最後にそっと付け加えられた言葉に心が緩む。
「いい相棒だね。シズクちゃんに頼ることができる人がいてよかった」
その様子を見たヒバリも優しくつぶやく。
「ありがとうございます。お願いします」
「そうと決まれば場所を移そう。こいつも詰所に渡してこなきゃいけないし」
ヒバリは足元に転がったままの、捕縛対象を抱える。
「ついてきて」
ソウヤと二人で、ヒバリの後ろを歩く。
近付いている、父と母の死に。もう7年も前になってしまうが、一日だって思い出さない日はない。いまだにあの碧い火の夢も見る。必ず手掛かりをつかむのだ。




