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すっかり外は闇に包まれ、人気はなくなった。
路地裏で息を殺して身をひそめている。すると人影が足早に歩いていく。
隣のソウヤを見上げる。
「今の人かな」
「怪しいな。追いかけよう」
二人で先ほどの人影を追う。
「いた。やっぱりあたりだね」
角を曲がり、細い道に入るともうひとり合流し、話をしている。
恐らく、その人物が他国の薬物を売っている人間だろう。薬物の輸入自体は私たちでは取り締まれないので、捕縛対象外である。
「終わったみたいだな」
動き出した二人を見て、私たちも薬物を受け取った方の人物を追いかける。
「動くな」
その人物の行く手にソウヤが炎の壁を出現させる。たしかに龍導を操る速さも上がっているかも、と任務中だが感心してしまう。
負けていられない。
相手に近づいて捕縛しようとする。
すると蔦が伸びてきて、手首に絡まる。
「木属性か」
一緒に戦う仲間ならば相性は最高だが、敵としてはやりづらい相手である。その点火属性のソウヤは有利な相手だ。
瞬時にソウヤが蔦を燃やしてくれる。
「ありがとう」
しかしだからといって、ソウヤに任せっぱなしも悔しい。
少し手荒だが水の球体を相手の顔にぶつける。
「ぐっ…」
敵がうめき声をあげ、顔にかかった水をはらう。そのすきに接近する。
それに気付いた相手が今度は枝を出現させ、槍投げのように投げてくる。
「させるか」
後ろからソウヤが火で燃やす。
最後にもう一度水の球体を相手の顔面に向けて放つ。
「二度はくらうか」この声は女性か。聞こえてきた相手の声に少し驚く。
暗闇の戦い、かつ相手は布で頭部や顔を覆っていたので気がつかなかった。しかし性別がわかったところで、容赦はしない。
同じ技がくると思って身構えている相手は顔の前に手を交差させる。しかし私の放った水球はほわんと領域を広げると、相手の手ごと包み込む。
今度はぶつけるのではなく、包む。以前魚を捕まえたのと同じ方法である。ただ魚はえら呼吸で生きたままとらえることができるが、人間は長時間この状態にすると溺死する。
「つかまえた」
驚いたように首をふり、逃れようとする相手の後ろに回り込み、手を縄で拘束する。
そして水球を消す。
「ぷはっ」
相手は両手を拘束しているので、頭を思いっきり振って水を飛ばす。その際つけていた布が取れ、やはり出てきた顔は女であった。歳の頃は私たちの10上ぐらいか。
鋭い目で睨みつけてくる。
「学生にしてやられるとはね」
すると地面から木が生えてきて、私とソウヤの身体にまとわりつく。
「しまった」
「ふん、私も同じ学校出身よ。龍導師ほどではないけど、これぐらいなら操れるわよ」
油断していた。縄で拘束したので、とらえたつもりだったが、龍導を鍛えたものなら意味がない。
女が私の後ろを見て、ため息をつく。
「まぁあんたには通じないか。相性悪いしね」
こげくさいにおいがして、かすかに首を動かし確認するとソウヤが木を燃やしていた。
「ソウヤ、ありがとう」
近付いてきて、私をとらえている木をとろうとするソウヤに声をかける。
そのすきに女が走り出す。背後ははじめにソウヤが作った火の壁があるので、こちらに突っ込んでくる。狭い路地であり、彼女は手が拘束されたままなので、私に体当たりをくらわせようとする。
足元に水たまりをつくる。それに気を取られた彼女は若干速度を緩めた。
「逃がさないから」
こちらも負けじと体当たりの要領で彼女を捕まえる。先ほどの反省を活かすなら、気絶させなければならない。それかせめて足も拘束して逃げられないようにしなければ。
しかしその必要はなかった。ソウヤが女の後ろに回り込み、首に手刀をくらわす。
「かはっ」
女は気を失い、地面に倒れこんだ。
「お、おみごと。なんか私の出番ないね」
早業に感心する。今日はほとんどソウヤのおかげでうまくいった。女の足首を縄でくくる。
「そのために鍛えたからな」
「え?」
頭の上から降ってきた言葉に顔を上げる。任務の行きのように、実力が上回ったという話かと思ったが、ソウヤの顔は優しかった。まるで私を守るといっているような…その顔を見つめ、ぽーっとしてしまう。
ソウヤが女を担ぎ上げる。
「よし、こいつを王都の龍導師に引き渡すか」
「そうだね。連れていこう」
動揺を隠すように、首を振り、立ち上がった。自意識過剰だ、私も次は活躍できるように鍛えなければ。前を歩き出したソウヤの背を追った。




