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王都の路地裏で取引は行われているという情報をもとに、その近くのごはん屋さんで時間をつぶす。
「人気がない時間にしかやらないよね」
「そうだな、こんなににぎわっていたらできないだろう」
今の時間はごはん屋もお酒を飲んで楽しんでいる客がまだ大勢いる。ゆったりとソウヤと食事をする。
「青い火だぁ?」
突然聞こえてきた言葉に箸を持つ手が止まる。
「そういう話があるんだってよ。なんでも骨すら残さず、すべて消えるとか」
ドクンと心臓がなり、のどがカラカラになる。
「他国の武器ってことか」
後ろの三人組が酒を片手に話している。
「いや、龍導だって話もあるぜ」
箸を落とし、動きが止まった私をソウヤが覗き込む。
「おい、大丈夫か」
しかしその問いかけに答える余裕はなく、席から立ち上がる。
「その話、詳しく教えてください」
「なんだ嬢ちゃん」
急に話しかけてきた私に、三人組はいぶかしげである。
「あおい火について、知っていることを教えていただけませんか」
真剣な様子をみて、ひとりが口を開く。
「俺も詳しい話は知らないぜ。ただ青い火っていうのが存在して、それに触れると骨も残さず、一瞬で燃え消えちまうらしい」
耳鳴りがする。しかしやっと見つけた手掛かりである。この機を逃すわけにはいかない。
「その話はどこで」
震える声で問う。
「噂程度だ。最近の話だとも大昔の話だともいわれている」
もう一人が言葉をつづける。
「だから他国の武器か、龍導か、はたまた謎多きこの国の龍の伝説かわかんねぇんだと」
「昔から龍の加護は人外の力を生むとか言われてるしな」
「他国も俺らじゃ想像もつかないような、危険な武器を持っているらしいし」
「でも青い火はともかく、骨まで消えるなんてあるのかね」
もうひとりが豪快に笑う。
「ある…」
「え?」
小さくつぶやいた私の声が聞き取れず、三人組が聞き返す。
かぶりを振る。
「いえ、ありがとうございました」
お礼を言って、席に戻る。まだ手がかすかにふるえている。
「本当に大丈夫か。顔色も悪いぞ」
私と三人組の会話を見守っていたソウヤが心配そうに言う。
たしかに今の私はそうとう顔色が悪いだろう。
「大丈夫。見つけたの、手掛かりを」
噂だが、やはり存在するのだ。
「なんの」
息を吸う。
「私の両親を殺した、あおい火」
顔を上げ、ソウヤの瞳を見る。そう、こんな感じなのだ。憎らしいほど綺麗な碧。
「見たのか、青い火を」
ソウヤが目を見張る。
「夢でね。なぜかお父さんとお母さんは碧い炎に包まれるの」
「夢…。任務で亡くなったって言ってたよな」
「そう、他国の刺客を倒しにいった。目撃者はいないから正確なことはわからないけど、ほんとに骨も残らず、消えちゃったの。だからどこかで生きてるんじゃないかともおもうこともあるにはあるんだけど」
「骨も残らず…」
何か思うところがあるのかソウヤの顔が険しくなる。
「だけど二人が肌身離さずつけていた、この首飾りだけは残っていたの。二人が任務で向かった場所に」
首元に下がる三本の首飾りを触る。
「そうだったのか。その首飾りは残っていたんだな」
「お父さんたちの同僚の人が言ってたんだけど、これは龍の加護を受けているミカゲ様が作ったものだから大丈夫だったんじゃないかって」
龍の加護というのは、この地の龍が特別に愛したものに、人並み外れた強さと量の力を与えるといわれている。
「前の学校長か」
「そう。同じ王族直属の龍導師としても、お父さんたちすごくかわいがってもらっていたみたいで」
「王族直属!お前のご両親強いんだな」
ソウヤの褒め言葉が素直にうれしい。自慢の両親だった。強くて優しくてあったかい人たちだった。
「夢で見る光景がずっと気になってて。なにか意味があるって。そしたらさっきの話が聞こえてきてびっくりした」
「なるほど」
「やっぱり碧い炎は存在する」
今まで自分の夢だけが頼りという心もとない状態であった。しかし今日、確信が芽生えた。これは大きな収穫である。
ソウヤに話を聞いてもらっていたら、いつの間にか震えは収まっていた。
任務を続けていたら、正体をつかめるかもしれない。
いつか必ず、この手で葬るのだ。だいすきな父と母を奪った、あの碧い炎を。




