8 (ソウヤ)
もうすぐ星夜祭のクライマックスとして花火が上がる。
あいつが手洗い場に行っている間、ぼんやりと空を見ていたら、後ろに人の気配を感じた。
「こないだの任務以来、さらに研鑽しているようですね」
振り返ると学校長のカグラがいた。編入時に挨拶をした以来だ。その後ろには従者のビャクヤもいる。
二人とも神々しい雰囲気があるが、みな祭りに夢中で、暗闇にいる自分たちには誰も注目していない。
「あいつに怪我させたくないから」
頭の中に先程まで隣で笑っていたあいつの顔を思い浮かべ、鍛錬に励む理由を答える。
こないだはたまたま大事には至らずよかったが、もう傷つくようなことにはさせない。
その言葉にカグラは少し目を見開くと、そっと微笑んだ。
「よい関係になっているのですね」
よい関係…そうなのかもしれない。
こんなに真っ直ぐ自分に関わってくる人間があまりいなかったし、相棒として共に過ごしたことで確実にあいつの存在は自分の中で大きくなっている。
この間の任務で、あいつに短刀が振り下ろされるのを見た時、心臓が止まるかと思った。身近な人間が危機に瀕したら当たり前だ。しかし自分でも驚いたのが、こいつを護りたいと強く思ったのだ。
あいつは普段しっかりしていて明るいのに、親を亡くしているせいか時たま遠くをみているような、どこかに行ってしまいそうな目をしている。その様子を見ると、目が離せなくなる。
近しい境遇だから気になるのか、それともあの吸い込まれそうな大きな黒い瞳に見つめられた時から気になっていたのかは自分でもわからない。でも今はとにかくあいつが傷付くところはもう見たくない。
カグラが真剣な目をしてこちらを見つめる。
「龍導に変化はありませんか。何か違和感などは」
まさしく気になっていたことなので驚く。最近鍛えていると違和があるのだ。
「もうひとつ何か湧き上がってくるような…」
うまく言えないが火を出現させようとすると、自分のなかにうねりのようなものを感じる。
カグラは眉を顰める。
「その力はあなたには不要なものです。抑え込んでください、必ず」
「どういう…」
「お待たせ」
意味を確認しようとしたら、あいつが帰ってきた。
俺の後ろにカグラとビャクヤの姿を見つけ、驚く。
「あ、ごめんなさい。お話の途中でしたか」
「いいえ、大丈夫よ。花火楽しんでね」
カグラはにっこり微笑むと、ビャクヤを連れ立って歩きだす。
すれ違いざまビャクヤがささやく。
「君と、君の大切な人を傷つけないために。打ち勝て」
理由はわからなかったが、学校長たちがわざわざ俺の前にあらわれたのには意味がある。
ささやきに小さくうなずいた。
「花火見に行こうか」
あいつがそっと俺の顔を覗き込む。
「ああ」
この時を守れるように強くなろう、そう決意した。




