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任務から一週間。その日が近づいてきて、教室は浮足立っている。
「星夜祭たのしみだね」
隣のヤヨイに話しかける。毎年この学校で、外部から屋台を出店してもらい行われるお祭りである。一年に一度の盛大な祭りなので、みんな楽しみにしている。
「そうね。でも悪いけど今年は二人でまわれない」
「え、なんで」
当然、例年通りヤヨイと回るつもりだったので目を見開く。
するとヤヨイに後ろから抱き付く影があった。
「俺と回るから」
ヤヨイに抱き付いたユサが二カッと笑う。
「えぇ…」
だめとは言えないが、ヤヨイを盗られたようで面白くない。
じと目でユサを見つめると、さらに衝撃発言をされる。
「俺たち付き合い始めたんだ」
「あ、ちょっと、まだ言ってないのに」
ヤヨイがあわてたように言う。
「え?!いつから?」
動揺を隠せず、思わず席から立ち上がる。
「昨日の任務帰り」
ヤヨイとユサは昨日、任務を終えて帰ってきたところだ。
まさかそんなことになっていたとは。
「お、おめでとう」
「ありがとう」
今晩はヤヨイに質問攻めだと決意しながらも、祝福する。実際そう聞いて、最近の二人を思い返すと、付き合うというのは自然の流れに思えた。
しかしそうなると星夜祭は本当に一緒に回れない。三人でもいいかと思っていたが、付き合っているとなると話は別だ。
「あぁ、ひとりで参加かぁ」
それか誰か誘おうか、とつぶやくと
「ソウヤと回ればいいじゃん」
ユサが明るく言う。
「というか今年はみんなだいたい相棒同士で回るんじゃない。実際付き合っている子たちも多いし」
ヤヨイの言う通り、一年近く任務を共にしているので、おのずと仲が深まり、相棒同士で付き合っている子も増えた。
自分の席に座っているソウヤをちらりと見る。付き合うとかはまだ想像ができないが、星夜祭はたしかに一緒に回れたらうれしいかも。
「ソウヤも絶対誰と行くかなんて決めてないし、一緒にまわりなよ」
ユサが元気よく言うと、返事を待たずにソウヤを連れてくる。
なぜ連れてこられたかわからず、不思議そうな顔をしている。しかし私の腕を見つめ、口を開く。
「怪我は大丈夫か」
「あ、もう大丈夫」
制服に隠れて見えないが、もう包帯も取っている。
心配してくれているのだなと、ほんわりとあたたかい気持ちになる。
「ありがとう」
「大丈夫ならいい」
ソウヤはうなずくと、自分の席に戻ろうとする。
「あ、まってまって」
慌てて服の裾をつかむ。
「星夜祭、一緒に回りませんか」
なぜか敬語になってしまった。そして照れくさいやら緊張やらで手に汗がにじむ。任務の時以上に緊張しているかもしれない。
ちらりとソウヤの顔を見ると、ひとつうなずいて
「ああ」
とお得意の二文字返事を返してくれた。
ヤヨイとユサがソウヤの後ろで親指を立てる。
「あ、ありがとう。楽しみにしてる」
「ああ。…俺も」
小さくソウヤが微笑んでくれた。
勢いで誘ったが、誘いに乗ってくれたことに胸が弾んだ。当日学校は休みなので、私服である。任務のお礼でもらったあの碧い着物を着てみようか。
任務以外での二人行動は初めてだ。楽しい一日になりますように。
期待に胸を膨らませた。




