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御者が頭を下げる。
「助けてくれてありがとう」
「いえ、無事でよかった」
本当に間に合ってよかった。短刀が彼に当たっていたらと思うと恐ろしい。
ソウヤは盗賊五人を縄でまとめあげ、狼煙をあげている。火州に配属されている龍導師に盗賊たちを引き渡すために、合図を出しているのだ。
私は気絶している運び屋を荷台にそっと横たえた。御者がそれに付き添う。
後ろに人の気配を感じて振り返ると、作業が終わったらしいソウヤがいた。
「ありがとう、狼煙あげてくれ…」
全部言い終わらないうちに腕を掴まれ、手当をしてくれる。
「あ、ごめん、ありがとう」
利き手を怪我したため、包帯が巻きにくく放置していた。
ソウヤを見ると無言で怒ったような顔をしている。
その割に手当をしてくれる手は優しくて丁寧だ。
これは怒らせたかも…
「不注意で迷惑かけてごめんね」
無言の空気が居た堪れず、もう一度謝る。
「…怒ってるわけじゃない。けど無茶はするな」
ソウヤが例の綺麗な碧い瞳で真っ直ぐこちらを射抜く。
ドキンとかつてないほど心臓が高鳴った。
頬に熱が集まる。
「心配してくれたの…」
顔が赤くなっているとわかっているのに、ソウヤから目が離せなかった。
「当たり前だろ。お前は俺の、相棒なんだから」
最後は照れたようにソウヤが下を向く。
うれしかった。ソウヤが自分を本気で心配してくれたことも、相棒だと口に出してくれたことも。
「ありがとう。次から気をつける」
「あぁ。お前のおかげであの人は助かったけどな」
最後にそう優しく、微笑んでくれた。
こんなに真っ正面からしっかりソウヤの笑みを見たことがあっただろうか。心臓の音がうるさい。ソウヤにも聞こえるのではないだろうか。
誤魔化すために声を出す。
「そういえば、名前初めて呼んでくれたね」
そう言うとソウヤの耳が微かに赤くなる。
「あの時は咄嗟だったから」
じろりとこちらを睨んでくる。
「あ、いや、からかってるとかじゃなくて。うれしい!これからもっと呼んでほしい!」
ソウヤの様子に慌てて言葉を紡ぐ。このままだと二度と呼んでくれなくなりそうだ。
私の勢いにおされたソウヤが視線を逸らす。
「必要があればな」
必要…なかなかない気がするが、大きくうなずいた。




