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もう一人の男はソウヤに任せ、御者を拘束している男に近づく。
すると土の塊が飛んできた。反射でよける。
「土属性か」
どうやら男は土属性のようである。相剋の関係なので相性は良くない。しかしその後の飛んでくる塊が的外れなことを加味すると、龍導は鍛えていないようだ。
水で相手の顔を覆い、窒息させることもできるが加減が難しい。今回は生かしてとらえるのが目的である。ここはやはり水弾が有効だろう。
再び水弾を用意しようとしたら
「お嬢さん、危ない!」
御者が声を上げる。男が短刀を取りだしたのだ。
物理攻撃には弱い。どうしたものか。
「おい、こいつをやるぞ」
男は御者に刃を向けた。
まずい、人質か。両手を上に挙げる。
「お嬢さん、私のことはいいから逃げて」
御者が火を出現させる。火属性のようだが、扱い慣れていないのか勢いが強い。
驚いた男が手を放す。
「てめぇ、なにすんだ」
逆上した男が短刀を振り上げる。
「危ない!」
とっさに体が動く。
御者に体当たりするようにして間に入る。
「シズクっっ!」
それまで聞いたことがない、焦ったような大きな声が聞こえた。
まさかこんな形で名前を呼ばれるとは。それどころではないのに頬が緩む。
「お、お嬢さん、大丈夫かい」
下敷きにしてしまった御者が震えながら問う。
起き上がってこたえようとしたら、後ろで思いっきり人を殴る音が聞こえた。
慌てて振り返ると、短刀を持っていた男をソウヤがのしていた。
「おぉ」
あまりの早業に感心していたら、目つきの鋭いソウヤが近づいてきた。
そして肩をつかまれる。
「怪我は!大丈夫か」
真剣な目で見つめられ、心臓が波打つ。
「だ、大丈夫。二の腕のあたりをかすめただけ」
幸い男の振り上げた短刀はかすっただけで、血がじんわりにじむ程度だ。手当をすれば問題ないだろう。
深い傷ではなかったことに安堵したが、すぐにソウヤはこちらを睨みつけてくる。
「怪我している以上、大丈夫ではないだろう。手当するぞ」
「ご、ごめん。でも先にこの場をなんとかしないと」
かばんから包帯を出そうとしていたソウヤは舌打ちをすると、立ち上がった。




