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雪がちらついている。吐き出す息も白い。教室から寮へと歩く短い道のりであっても寒い。
二人での初任務から半年が経った。その後それなりの数の任務をこなし、ソウヤとは着実に良好な関係を築いている。
しかし
「まだ名前呼ばれたことないんだよね」
「え、出会ってからほぼ一年よ。それなのに一度も?」
隣を歩くヤヨイが驚いてこちらを見る。
「一度も」
断言できる。呼ばれたことはない。
「反対にすごいわね。任務中呼びかける時はどうしてるの?」
「どうしてるだろ、あんま意識したことないけどおい、とかお前とか?」
冷静に考えると半年以上一緒にいるのになかなかひどい。
「そろそろ名前呼んでほしいな」
「シズクがそんなこと言うなんてね」
ヤヨイがにやにやする。
「別に深い意味はないけど…」
少し恥ずかしくなって口ごもる。
そういえば笑顔もあんまり見ていない。だいぶ仲良くなったと思っているが勘違いだろうか。結局前に任務でもらった着物も着るどころか、一緒に休日に出かけたことがない。
なんだか悲しくなってきた。
「ヤヨイとユサは休日も一緒に出掛けてるよね」
羨ましさがにじむ。
「そうね。たまに買い物はね」
「いいなぁ」
思わず言ってしまう。
ふたりははじめから仲良しだったが、最近はますますである。前は犬と飼い主のような雰囲気があったが、二人でいるときの空気が甘いというか。
ヤヨイがとっても女の子な、可愛らしい表情をしていることが増えたと思う。ユサもそんなヤヨイを優しい瞳で見つめていて、なんだか一緒にいると居心地が悪い。邪魔をしている気分になるのである。
「まぁでも最近はソウヤくんもシズクに心を許しているように見えるわよ」
「そうかな、そうだったらうれしいな」
明日からまた任務である。
名前を呼んでもらえるように頑張ろう。そう決意して雪の降る空を見上げた。




