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指輪を受け取り、アスカが涙を流す。
「ありがとう、本当にありがとう」
「いえ、見つかって良かったです」
大切に小指にはめる。
ぴたりとはまったそれは本来あるべきところに収まったと一目瞭然である。
「もう絶対になくさない」
涙を拭うと、にこりと微笑んだ。
「あなたたちにお礼をさせて」
本来任務は学校の授業的役割も果たしているので、金銭は発生しない。
しかし依頼人たちは依頼を達成すると、みな何かしら礼をくれることが多い。
アスカが隣の部屋の扉を開ける。
「わぁ、すごい」
そこには色とりどりの着物が並んでいた。
「私が作ったものなの。この中から好きなものを一着ずつ持っていって」
「え、いいんですか?」
着物は高級である。
「もちろん。この指輪は本当に大切なものだったから。これでも足りないくらいよ」
「ありがとうございます」
戸惑いながらもせっかくの好意なので、着物を見せてもらう。
ソウヤも男性用を見せてもらっている。
「これ…」
色とりどりの着物のなかで、一着が目に飛び込んできた。
「それが気に入った?」
アスカが着物を覗き込む。
その着物は鮮やかな碧で、薄く白の模様が入っている。
「あなたに似合うと思うわ。綺麗な黒髪に黒い瞳、真っ白の肌だもの。碧は映えるわ」
着物を私の体にあててくれる。
「彼の瞳と同じ色ね」
私の後ろにいたソウヤを見て、アスカが言う。
そうなのだ。それで気になって目が離せなかった。
「これにする?」
意味深に微笑まれる。
この着物がたしかに一番気に入ったが、あからさまにソウヤの瞳の色というのはなんだか照れ臭い。
実際アスカもなにか勘違いしている気がする。
そう思うと頬がだんだんほてってきた。
「いや、気に入りましたけど…」
これにすると断言しづらく口ごもる。
「どう思う?いいわよね、この着物」
アスカがソウヤに問いかける。ソウヤと目があい、ますます赤くなる。
恋人でもない人間が自分の瞳の色の着物を選ぶのは変じゃないだろうか、気持ち悪くないだろうか。
「あの、やっぱりほかの、」
「似合うと思います」
驚いてソウヤを見つめる。
ソウヤは少し困ったようにも見えるし、照れているようにも見える顔でこちらを見ていた。
似合うと、ソウヤからそういった褒め言葉が出るとは。
予想だにしなかった言葉に口がぽかりと開く。
心臓が激しく音を立てている。ソウヤを見つめることができず、下を向く。
「ふふ。これにする?」
アスカに再度問われ、今度は
「こ、これがいいです」
と言葉を絞り出した。




