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捕まえた少年はおじいさんと向かい合っている。
私たちはおじいさんの後ろの方に座った。
憔悴しているので逃げるとは思えないが、一応出口は塞いでいる。
「名前はなんと言うんじゃ」
おじいさんは優しく問うた。
完全に私たちに怯え、縮こまっていた少年は意外な優しい質問に顔を上げた。
「ヨウ」
小さな声で返答する。
「そうか、いい名前じゃな。ヨウはなぜ野菜を取ったんじゃ」
また優しい声である。
するとヨウの瞳から、また涙が出てくる。
「ごはんがなくて…」
「そうじゃったのか。ご両親は」
おじいさんがそっとヨウの頭をなでる。
「流行り病で二人とも死んじゃって。俺どうしたら…」
嗚咽が漏れる。
「そうか。辛かったの」
「ごめんなさい!お腹減っちゃって、だめだって分かってたけど」
しゃくりあげながらヨウが一生懸命謝る。
言われてみれば、ヨウはかなり痩せ細っている。
「もう少し優しくしてあげればよかったわね」
「そうだね」
ヤヨイの言葉に同意する。
容赦なく捕らえたのが申し訳ない。
任務なので逃すわけにはもちろんいかないし、おじいさんのためにも再犯は防ぐべきだが、他にやりようはあったかもしれない。
「よし。うちで働くか。ちょうど人手が欲しかったしの」
おじいさんがヨウの顔を覗き込む。
涙でぐしゃぐしゃだったヨウが驚いた表情になる。
「い、いいの」
恐る恐るおじいさんに聞く。
「あぁ。ここに住んで仕事を手伝ってくれたら助かる」
「ありがとう」
再びヨウが泣き出す。
「よしよし。まずはごはんを食べるか」
おじいさんがごはんを作りに台所に向かうので、私とヤヨイも手伝いに行く。
ユサとソウヤはヨウを慰めに近づいている。
「ありがとうございます」
「なんのお礼じゃ」
突然礼を言った私を不思議そうにおじいさんが見つめる。
「彼を拾ってくださって」
「なぜお前さんが礼を言うんじゃ」
やはりおじいさんは不思議そうである。
「親が二人ともいないのは本当にさみしいし、ひとりはつらいから」
「そうじゃな。わしもひとりで寂しかったし、人手も増えてむしろ助かるわい」
私の顔を見つめて何か感じたのか、おじいさんはそっと頭をなでてくれる。
人に頭を撫でてもらったのはいつぶりだろうか。
優しい温もりに少し涙腺が緩む。
慌てて涙がこぼれ落ちる前に言葉を紡ぐ。
「私が言うのもおかしな話ですが、彼をよろしくお願いします」
「ああ、任せなさい。こちらこそありがとうな。ヨウを捕まえてくれて」
おじいさんの微笑みにつられて私も微笑む。
ヨウとおじいさんのこれからの生活が幸せでありますように、と願った。




