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準備といっても、ソウヤは事前にすることがない。
どうしようか、手伝ってもらおうか、しかし水たまりを作る作業に手伝いはいらない。
休憩して夜に備えてもらうか、と勝手に頭でぐるぐる考えていたら
「ソウヤこっち来て」
とユサが引き連れていく。
その姿に安堵しつつも、話しかけるタイミングを逃したことに短く息をつく。
「先越されたわね」
私の様子を観察していたヤヨイにくすっと笑われる。
「どう話しかけようか、なんて恋する乙女みたいよ」
「なっ、だって難しいじゃん。初対面の仲良くなり方とか忘れたし、ぜんぜん喋らない相手だし」
ヤヨイの恋という単語に少し顔を赤らめてしまう自分が憎い。
ちがう。言い訳とかではなく、ほんとに難しいのである。
初等部からほぼ同じメンバーの学校で、久しぶりに人との関係が初めましてからのスタートなのだ。
正直初対面からの仲良くなり方など忘れた。
しかも相手は全く会話する気がなさそうだし。
「冗談よ。たしかになかなか大変よね。無視はされないけど、心の扉閉ざしてる雰囲気あるものね」
先が思いやられるわ、とヤヨイが首を振る。
そもそも、なんで、
「こっちばっかり気を遣わなきゃいけないのよ」
徐々にむかむかしてきた。
同じ年で、これから任務を一緒にする相棒なのだ。
なぜこちらばっかり会話しようとやきもきせねばならないのか。
向こうも歩み寄る努力はするべきではないのか。
もちろん会話したくないとか向こうにも都合があるかもしれないが、これから3年間任務する上で、最低限の会話は必要だろう。
「やってやるんだから」
鼻息荒く、決意する私を見て
「あら。シズクのスイッチが入ったわね。楽しみだわ」
とヤヨイが面白そうに微笑んだ。




