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半日かかる道中だったので、ヤヨイとユサとはそれなりに会話したが、なぜかソウヤとはほぼできていない。
口数が少ないというか、無愛想すぎないかと少し気にかかる。
声をかけても短い返答でコミュニケーションが取れないのだ。
自己紹介も曖昧なまま出立したのもよくなかったか、と後悔する。
「ここが依頼主の家ね」
ぼんやり考えていたらヤヨイが到着を告げた。
「ごめんください」
顔を覗かせ声をかける。
「おお、来てくれたか」
おじいさんが奥から現れる。
「こんにちは。このたびご依頼いただきました龍華学校のものです。よろしくお願いします」
私が頭を下げると、続けて3人も頭を下げる。
「あぁ、よろしくね。こっちに座ってくれ」
おじいさんがにっこり笑い、部屋に案内してくれる。
「おひとりで住んでらっしゃるんですか」
家はほかに人の気配がしない。
「あぁ。昨年女房に先立たれな。子供もおらんし、畑もひとりでしておる」
「それは大変ですね」
家の向かいに畑があったが、かなり大きい。あの畑をひとりで世話してるとなると重労働である。
「まぁな」
おじいさんは少し寂しそうに呟く。
「今回畑が荒らされていたということですか」
「荒らされるというよりは作物が取られてな」
「ひどい」
「ただそれの犯人がわからんのじゃ。夜中のことでな。今のところ5回ぐらい取られている。一回でとられる量は多くないのだが」
丹精込めて育てたものが奪われているのだ。量の問題ではない。
「動物か人間かも不明ということですか」
ヤヨイが尋ねる。
「そうじゃ。けどあまり吟味して取っている感じではないし、少なくとも人間の大人ではないと思う」
「なるほど。畑を見せていただいてよいですか」
「もちろんじゃ。ついてきてくれ」
そう言って立ち上がったおじいさんが少しふらつく。
咄嗟に全員が手を伸ばそうとするが、だれよりはやく支えたものがいた。
「おお、すまんな」
ソウヤである。
「いや。気をつけて」
今日聞いたなかで一番優しい声で、ながい言葉のような気がする。
なんとなく冷たいやつかと思い始めていたので、意外な心持ちで眺める。
すると見過ぎたのか、罰が悪そうに目を逸らされる。
「ソウヤ、この学校に来る前5年くらいおじいさんと住んでたから」
視線に気づいたユサが言う。
「そうなんだ」
お年寄りに対して慣れた動きだったので納得する。
畑に行こうと部屋を出るおじいさんとその後ろを支えるように出るソウヤの後ろ姿を見つめる。
「あいつ無愛想に見えるかもしれないけど、優しいんだよ」
ユサがニカッと笑う。
「そうかもね」
行きの道中では無愛想に思えていたが、優しさを垣間見ることができて、仲良くなれそうな気がした。




