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「優秀な私たちに編入生をフォローさせようってことか、何か問題があるのを押し付けたのかどっちかしらね」
ヤヨイは肩をすくめる。
「深い意味はないかもしれないけどね」
「そうかしら。私たちに編入生をあててくるのは意味がある気がする。しかも相剋なのに」
「それはそうだね」
編入生に相剋の相棒をつけるのはなぜなのか。本来ならやりやすいように相生の生徒と組ませるのが順当である。
「まぁなにはともあれ、シズクは気になる彼とこれで否が応でも関わることになるわね」
「あの瞳は気になっちゃうよ」
「一時のシズクみたいな瞳だもんね」
そうなのだ。瞳の色がどこかで見たような気がして気になるのもあるが。昔の私に似ているのだ。だから彼が強烈に気になる。始めて会ったにもかかわらず、あの瞳が他人には思えない。
「せっかく相棒になったし、仲良くなる努力はするよ」
「そうね」
「俺も俺も」
突然入ってきた声に驚いて振り返る。
そこにはヤヨイの相棒になった彼がいた。
「えっと、ユサくんだったよね」
「呼び捨てでいいよ!」
戸惑いながら聞くと、二カッと効果音がつきそうな笑顔で言われてうなずく。
「ちょうどよかった。私が相棒になったヤヨイ。よろしくね」
「よろしくー!すげぇうれしいよ、こんなかわいい子となれて」
またもや二カッとした笑顔で笑う。
ヤヨイはというとストレートな褒め言葉に耳が赤くなっている。
可愛いのだが、同級生の男子は家柄、成績、スタイルを含めヤヨイのことを高嶺の花扱いしている節がある。
ここまでフレンドリーかつ真っ直ぐに褒めてくる男子がなかなかいなかったのだ。
そのため意外と褒められることになれていない。
これはいい相棒になりそうだ。
二人の様子を見てそっと微笑む。
「シズクちゃんだっけ?ソウヤのことよろしくね」
優しい、見守るような瞳でユサが言う。
「え?あ、もちろん」
なぜユサが頼んでくるのだろうか。
「あなたたち前から知り合いなの?」
ヤヨイが不思議そうに聞く。
「うん。いわゆる幼馴染ってやつ。ちっさい頃からずっと一緒でさ。この学校もソウヤが入るってなったから、親に無理言ってついてきた」
「ずいぶんべったりなのね」
「あいつ見てないと心配なんだ。壊れちまいそうで」
すっと目を細め、寂しげにユサが言う。
「どういう意味?」
ヤヨイが聞こうとしたら
「なーんて。俺があいつのことが大好きなだけ」
二カッとユサはもう一度笑うと、じゃあよろしくねと去っていく。
「訳ありってことね」
ヤヨイが軽くため息をつく。ユサは明るく誤魔化していたが、両方真実なのだろう。
「まぁ納得だね。なにか失くしてしまった瞳してるもんね…」
あの綺麗な碧い瞳は周りを見ているようで見ていない。どこか遠くをみているような、そんな寂しそうな瞳だった。
「そうね、だから気になるのよね。シズクは」
こくりと素直にうなずく。
彼がなにを失ってきたのかはわからない。
これから先知ることはないかもしれない。
少なくとも彼の方が話すまで、こちらからずかずかと聞く気はない。
それでもかまわない。私なりに相棒として仲良くなるだけである。




