Ep.3 ポンコツ
───部活が終了する時間になる。
「す、す、すみませんでしたー!」
僕は、部員と顧問全員の前で土下座をする。
「ま、まぁまぁ。紅葉君は頑張ってるんだし。しょ、しょうがないよ」
作り笑いで、僕を励ましてくれるのは紡先輩だった。彼女、中々に優しい。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!せんせーもお酒呑んでも怒られてないれすしー」
もうデロンデロンだ。体の半分は酒でできているのではないかと思う酩酊先生も僕を励ましてくれる。
───何があって、僕は謝罪をする必要があったのか。
端的にまとめるとするのならば、僕はボランティアに向いていなさ過ぎた。
漫画で見るようなドジっ子キャラだとか、おっちょこちょいキャラ並みに仕事でミスを犯すのだ。
例えば、掃除の行き届いてない教室の掃除をする時は、バケツを倒し。
体育倉庫の備品───バスケットボールを数える時は、バスケットボールの入っている籠ごと倒し。
───他に、色々ミスを犯した。
自分でもビックリだった。ここまでポンコツだとは思っていなかった。
「ぼ、僕はボランティアに向いてない...と、思います...」
「大丈夫だよ!紅葉君はワタシの旦那さんなんだから、ワタシの隣にいればいいの!」
「そ、それはボランティアじゃないんじゃないかな...」
彼岸花小町の言葉に、紡先輩が小さなツッコミを入れる。
「ボランティアに向き不向きなどない!誰かを助けたいと思う心があれば、それはボランティアだ!だから、大丈夫!明日こそはミスを減らすように心がければいい!」
蜜柑先輩が、そうまとめ上げてくれる。僕の同輩や先輩・ついでに顧問は、皆優しかった。
「明日だ、明日も頑張ろう!」
「───はい!」
僕は、明日も頑張ろうと思った。
───次の日。
「今日も今日とてすみませんでしたー!」
まぁ、何があったかは先述のとおりだ。ちなみに、ミスは昨日より悪化している。
「は...はは...大丈夫。大丈夫だよ」
今日、一番大きな損害は校長室にあった壺を割ったことだろう。
校長先生は「別に、高価な壺でもないし大丈夫だよ。それより、怪我はない?先生は、そっちのほうが心配だよ」と優しい言葉をかけてくれた。涙が出た。
もう、バーコード校長とか呼びません。赤メガネ校長とか呼びません。
「今日もミスをしてしまったか...だが、ミスは成功への一歩だ!大丈夫だ!明日頑張ろう!」
「はい」
───次の日。
昨日、一昨日と同じく皆の前で土下座。
───次の日。
昨日、一昨日、一昨々日と同じく皆の前で(ry
───次の日。
昨日、一昨日、一昨々日(ry
───次の日。
昨日(ry
───次の日。
「あの...蜜柑先輩...今日は何をすれば...」
「そうだな、今日は...」
蜜柑先輩は、少し考えてこう述べる。
「今日は、部室で待機していてくれ、仕事は私と紡でなんとかしておく」
「───」
蜜柑先輩は、静かにそう述べた。そこに、同情の余地などはなく、ただ冷酷にそう述べた。
「ぼ、僕は...」
「いいか?部室で待機していてくれ。何があってもだ」
「───わかりました」
「それとだ。酩酊先生に頼まれていた、今度の定例会議の資料を置いておく。盗まれたりなんかしたら、いけないからな。任せたぞ」
「紅葉君、行ってくるねー。泣かなくていいからねー」
「留守番くらい、しっかりしてくれよ?」
紡先輩と蜜柑先輩はそう言い残すと、部室を出てどこかに行ってしまった。
───どうやら、僕はもう愛想を尽かされてしまったらしい。
───否。もう愛想を尽かされたのではない。やっと愛想を尽かされたのだ。
あそこまでミスをしたのにも関わらず、よく辛抱強く5日間も信じぬいてくれた。励ましてくれた。
なのに、どうして僕が被害者面しているんだ。僕は、加害者だというのに。
信じてくれた皆を、裏切った最低な野郎だと言うのに。
「紅葉君...そんなに、自分を卑下しないでよ...」
そう言って、隣で励ましてくれるのは同輩である彼岸花小町であった。彼女は、緑の長い髪を揺らしながら、僕に話しかけてくれる。
彼女のテンションも、出会ったときよりもかなり低くなっていた。彼女は、僕に惚れていたようだが流石に幻滅していたのだろう。何せ、これほどまでにポンコツなのだ。無理もない。
部室には、今2人きりだ。酩酊先生は、どこかに行っている。部室に顔を覗かせる時の方が少ないかったからこれが普通だ。もっとも、この部活に入るのは今日で6日目。まだ、一週間も経っていないのだが。
「───」
「ん、どうしたの?」
彼岸花小町が、神妙な顔をして僕の方を見る。
「───いや、何でもない。ちょっとワタシ、トイレに行ってくるね」
「あ、あぁ。うん、わかった」
そう言うと、彼岸花小町も部室を出て行ってしまう。きっと、僕と同じ部屋に入るのが気まずかったのだろう。
ファーストインプレッションでは、アレだけ抱きついていたのに、ミスばかりの僕を知って失望したのだろう。まぁ、しょうがない。
「はぁ...」
僕は、部室で小さなため息をつく。いや、ため息をつきたいのは僕ではなく先輩方だろう。
「───僕は、どうしたらいいんだろう」
この部活を、やめたほうが皆の為になるのではないか。そう思っていた。
***
クラブ棟を歩くのは、数人の竹刀───否、木刀を持った剣道着を着た男達。
この男達を、我々は一度見たことがある。そう、惚字紅葉にカツアゲしていた剣道部の1年生達だ。
その1年の先頭に立つは、一際体の大きな男であった。
彼は───彼こそが、剣道部の総大将でもある人物───龍井剣道であった。
───彼らの前に、ボランティア部に所属する一人の緑髪の少女が現れた。
「おぉ、嬢ちゃんもボランティア部じゃねぇか。今から、そっちの部室で暴れさせて貰おうと思っていたんだが」
「へぇ...そうですか?理由は?」
「理由?そんなの、オタクの文旦坂蜜柑に、俺の可愛い可愛い後輩がボコボコにされたと聞いてなぁ?」
「───そうですか。生憎、部室には今、ワタシの夫である紅葉君しかいなくて...」
「龍井の兄貴!俺達がボコられた要因は、その紅葉って野郎にあります!」
「あぁ?なら、ソイツをボコすしかねぇよなぁ?」
「───そうですか...ワタシの旦那に暴力を振るうというのなら、ワタシを倒してからにしてください」
「お前なんか一発だぜ?」
そう言うと、龍井剣道は木刀を構える。緑髪の少女───彼岸花小町は、戦闘態勢を取る。
「来いよ、メスガキ」
「では、お言葉通り」
直後、龍井剣道の視界から───否、剣道少年全員の視界から、彼岸花小町の姿が消える。
「なっ...」
次に、剣道少年達全員の視界に彼岸花小町の姿が現れたのは、龍井剣道の背中に、おんぶをするかのように小町が乗っている時であった。
「───ッ!」
「まぁ、痛い目見たくなければ、ここで引き返すことをオススメするよ。ま、ワタシは戦わないけどねー。バーイバーイ!」
そう言うと、彼岸花小町は、目で追えないほどのスピードで何処かに行ってしまった。