Ep.2 センパイ
───翌日。
「へぇへぇ...そうなのそうなのぉ...」
「ちょ、先生。本当に大丈夫なんですか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。だってあたしはだいてんしなのらからー」
平仮名で読みにくい。
───と、僕は放課後のボランティア部の部室で一人、ボランティア部の顧問である先生の介護をしていた。
勘違いしないでほしいが、蜜柑先輩とも彼岸花小町とも、別人だ。
まぁ、先生って断言しているし別人なのは当然だろう。
僕が介護している先生は、つい先程言った通りボランティア部の顧問である小暮酩酊であった。酩酊先生は、名前の通り現在酩酊している。いや、その上の泥酔の方が正しい表現なのかもしれない。
千鳥足どころか、歩くことすらままならない。本人は大丈夫だと言っているが、ダメそうだ。
「あたしはきょーしなんだからぁ...いくらお酒を呑んでもだいじょーぶ」
「教師なら生徒の前でお酒を呑んんじゃ駄目でしょう!」
顧問が酒乱で、蜜柑先輩は大変だな───などと、小並感の否めない感想を思う。
あ、蜜柑先輩の「みかん」と小並感の「みかん」をかけた駄洒落ではない。断じて違う。
そして、酩酊先生の呑む「酒」と、駄洒落の「酒」をかけた言葉遊びでもない。断じて違う。
「私の心配をしてくれて嬉しいが、私は───否、私の仲間は顧問一人に困るほどヤワじゃない!」
そう言って、ボランティア部の部室に入ってくるのは蜜柑先輩と、見知らぬ2人であった。
片方は、髪が緑色の美女───って、あれ。この美女どこから見たことが……
「えぇぇ?今、ワタシのこと美女って思った?ねぇ、思ったでしょ!ワタシのことを美女だって!」
そう言って、僕に抱きついてくる緑髪の彼岸花小町。
昨日までは、黒髪だったはずなのに。
「あ、昨日までは黒髪だったはずなのに...って思ったような顔をしてる!どうしてか、教えて欲しい?」
「あぁ...うん」
僕は少し迷った末に、聞くことを選択した。
「えっとねー、最初は緑髪はキレイだし目立っちゃうし、引かれないようにするために黒髪ウィッグを被ってたんだけどぉ、無事にお嫁さんになれたことだしもう隠す必要はないかなーって!」
「いや、お嫁さんにした覚えはない!」
「じゃあ、緑髪がキレイで目立つのは認めるの?」
「また嵌められた!」
でも、キレイなのは認めよう。
「───それで、蜜柑先輩。残りの一人とこの顧問は一体...」
もう一人、蜜柑先輩の後ろで決めポーズを取っている人物と、部室の机の上に酒瓶を持ちながら突っ伏している顧問を交互に指差す。
「私の後ろにいるのは、私と同じく3年でボランティア部の───まぁ、紅葉、お前の先輩に当たる人物だ!尊敬しなくていい!」
「えぇ?!どうして!」
「そして、そこにいるのがいていないもの───『酒呑童子』こと小暮酩酊!29歳だ!」
「三十路って言うなー!」
僕のツッコミを無視した、蜜柑先輩の説明が終わる。最後に、酩酊先生がツッコんでいたが、誰もそんなことは言っていない。
「ま、まぁ一先ず酩酊先生のことはわかります。同じ部屋で、介護せざるを得なかったので」
「要介護5の小暮酩酊をよく介護できたな。将来は、介護の資格を取ったらどうだ?」
「ボ、ボランティア部の活動の一環でそう言われるのは嬉しいですけど、顧問の世話で言われるとは思っても見なかった!」
───で、顧問のことはそろそろ終わりにしよう。
問題は、蜜柑先輩に「尊敬しなくていい」とも言われた蜜柑先輩の後ろでまだ、決めポーズを取っている先輩だった。
ここからでは、蜜柑先輩の影で顔が見えない。
「後ろにいるせんぱーい...顔を見せてもらえると...」
「先輩?!?!?!?!」
ヌッと、僕の顔の近くまで寄ってきたのは、銀髪美女。
「ねぇねぇ、今ボクのこと先輩って呼んだ?ねぇねぇねぇ!」
これまた、ウザい。
「ちょっとー!紡はワタシの夫に近付かないでー!鼻息荒くてキモいー!」
「うぐぁぁ!後輩にキモいって...キモいって...」
そう言って、僕から離れると紡先輩は泣き始めた。感情の忙しない人だ。
「ちょ、え、あ、先輩。泣かないで...」
「先輩?!?!?!?!」
再度、僕に近付く銀髪美女───紡。
「此奴の名は、武石紡。私と同じ3年だが...見ての通りとても残念だ。部内のあだ名はダメ石」
「可哀想だ!」
最早、いじめに近いだろう。
「後輩には、誰一人として先輩と呼ばれていない!舐められている!」
「可哀想過ぎる!」
僕はこの先輩に優しくしてやろう───そう思った。
「ボランティア部、今学校にいるのはこれで全員だ!」
「え、全員って、彼岸花小町に、蜜柑先輩に、紡先輩の3人?!」
「まぁ、そうなるな。弁当の隅にある漬物程度に小暮酩酊がいる。まぁ、呑んだくれだがこの部活が存続しているのは彼女のおかげだ。それと、2年生にも数人いるが...合宿で今はいないから、帰ってきたら挨拶してもらいたい」
「わ、わかりました...」
どうやら、僕が入るのは確定事項のようであった。
「───それで、今日は小町と紅葉の2人で早速ボランティア部の活動をするんだったな。2人にピッタリの活動内容をピックアップしてきたから。頑張ってくれ」
そう言うと、僕は蜜柑先輩からA4の紙を貰う。そこには、「職員室の窓拭き」や「体育倉庫の備品の確認」など、色々な仕事内容が書いてあった。
「ボランティア部って、ボランティアと言うよりなんでも屋ですよね...」
「まあ、そうだな。生徒会以上のなんでも屋だな」
蜜柑先輩はそう告げた。でも、学校に役立てるならそれでもいいかなーとは思った。
「それじゃ、ボランティアの仕事をがんばろー!」
酩酊先生が、今か今かと待ち望んでいた締めの台詞を言う。いや、締めではなく今から始まるのだが。