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3.結果オーライ、ってことにしましょう!

今日はミネルヴァが私の屋敷に来る日。到着するのはもうすぐのはずだった。


ちょっと急がないと。


「・・・あっ・・・はうっ・・・きもちっ・・・あ、だ、だめ・・・サーシャぁ・・・」


今日もマーカス様は恍惚とした表情でお気に入りのマッサージを楽しんでいた。


「すこしテンポを上げていきますね、マーカス様。」


「あっあっ・・・きもちいいの、とまらな・・・ふあっ・・・んっ・・・も、もうむりっ・・・はあんっ・・・」


必死で枕に抱きつくマーカス様のおねむの時間が近づいてきているのを私は察した。


「マーカス様、このままお休みになられますか?」


「・・・ぁ・・・はぅ・・・」


ぼんやりと目の焦点のあっていないマーカス様のすべすべの背中にシーツをかけると、私は呼び鈴を鳴らして、そのまま来客用の寝室を後にした。私専属のメイドが廊下で待っていた。


「ナディア、ミネルヴァはもうついたかしら。」


「馬車はつきましたが、アルバートが引き止めております。それよりもアレクサンドラ様、その、マーカス様をお相手した直後でお疲れではありませんか?」


ナディアはマッサージに体力が要ると勘違いしているみたいだった。確かにそれなりに肉体労働だけど。


「大丈夫よ。ミネルヴァは飽きっぽいから、早く客間に通してあげて。」


「・・・かしこまりました。」


少し薄着だった私は自分の部屋に戻って、ボレロを羽織ると髪を直してもらった。お化粧は崩れていないみたい。


客間にいくと、髪色と同じオレンジ色のドレスを着たミネルヴァが、私に抱きついてきた。


「やっほー!サーシャちゃん元気?ひさしぶりー!」


「え、ええ、おかげさまで元気よ?」


ミネルヴァみたいなパーソナルスペース皆無なタイプの令嬢は貴族に珍しいから、私もすこしびっくりした。


ゲームの登場人物だからミネルヴァのことは知っているけど、学校ではそんなに話す機会はなかった気がする。教室を出てどこかにいこうとすると大体マーカス様が現れるし。


「それでっ、話したい用事ってなんなのー!?」


「あ、ええっとね、ちょっと事情があって、ミネルヴァの婚約者のサイラス様に相談したいことがあるの。」


そう、騎士団長の息子と私は全く接点がないから、あえて婚約者から接近をはかる計画。


「ミニ−って呼んでって言ってるじゃん!でも、サイラスがアドバイスできそうなことってなんかあるのー?山登りとか?」


ミニーって、たしかに『ミネルヴァ』より性格にあっている気もするけど、たまに話す仲だとちょっとハードル高いかも。『言ってるじゃん』て言われても初対面で挨拶したときに言われただけだったけど。


「じゃあ、ミニー、マーカス様のトレーニングについてなのだけど、サイラス様と違ってなかなか立派な体にならないから、なにかやり方が間違っているのかと思って、本人に直接聞いてみようと思ったの。」


実際には多分前世から筋肉マニアの私のほうが科学的な知識があるし、マーカス様の筋肉にはもう見切りをつけているけど、話のネタとして役に立ってもらおうと思う。


鍛錬中を取材と称してお邪魔して、今まで遠目でしか見れなかったあの神々しい筋肉を、私の・・・


「サーシャちゃん、マーカス様があんなゴツゴツした体になったら悲しくない?」


コテンと首をかしげるミネルヴァ。



私の時代が来た!



「私はね、男性らしい、ぎっしりした重厚な体が魅力的だと思うの!サイラス様は理想の体付きをしているの、私にとって!ところでミニー、私がサイラス様にトレーニング法を習ったりすると、なんだか変な噂が立つかもしれないけど、そういうの気にする?」


「うーん、あたしは別にそういうの気にしないし、サイラスがもっと女の子と話して気の利いたことでも言えるようになればいいなって思ってるけどー、マーカス様が許さないでしょ?」


よし、これはふたりともゲーム通りの関係性とみた。大丈夫そうね。



ゲームだと、ちょっと物悲しそうに退場するアレクサンドラと違って、ミネルヴァは「おめでとー!おしあわせにね−!」とかいってサバサバと退場する。騎士団長の息子とは幼馴染でも恋愛的な執念は薄かったみたいで、むしろ約束にこだわってうじうじする息子のほうがゲームの障害になった。それもサイラス・ルートに人気がなかった原因だと思うけど・・・


私は手応えとか気にしなかったけどね!筋肉は正義。


「マーカス様は過保護だけど、頼めば大人しくなってくれるから大丈夫。マーカス様のための相談だもの。それはそうと、サイラス様とはお家同士が決めたご婚約なのよね?」


頼めば、というか、正確にはマッサージしてあげれば、だけど。


「あっ、そーねー、まあ、サイラスの馬があたしの額を蹴っちゃってから、責任取るって本人は言ってたんだけどさ、サイラスのパパが『うちの息子ではもったいない』っていってしばらく自由にさせてくれてたの。でもマーカス様のママがあたしとサイラスはお似合いだって言ったらしくて、流れで決まった感じ。」


マーカス様のお母様が関係していたのは初耳でびっくりしたけど、それ以上にゲームにない情報に私は顔をひきつらせた。


「えっ、ちょっと待って、額を蹴った?」


「あー、うん、もうだいたいわかんないんだけどねー。馬のせいなのにサイラスはすごい気にしちゃってさ。」


ミネルヴァがさっと切りそろえた前髪を書き上げると、髪の生え際の近くにうっすらと筋みたいなのが見えた。なんだか魔法使いの稲妻の印を思い出したけど。



しっかりしてよゲーム!!そんな重要な情報を隠していたなんて!



「そうだったの、ごめんなさい・・・つらいお話よね。」


「うんうん、全然!あたしは別に気にしてないし、両親も、『馬のおかげでなんとか嫁入り先が決まった!』って喜んでたし。」


ミネルヴァはにこやかだけれど、噂が先立つ貴族の社交界で、『顔に傷がある』と言われると婚約相手として避けられがち。ミネルヴァみたいにすっかり目立たなくなっていても、なんだかんだ難癖をつける人がいるのよね。


ミネルヴァは美人で性格もいいけど、主人公をいじめる貴族社会はきっとミネルヴァにもあっていなくて、たぶん姑に気に入られないタイプだし、うーん・・・



私が筋肉目的で騎士団長の息子に近づいたら、ミネルヴァの未来はどうなるの? 



ミネルヴァが特にサイラスを好きじゃないのを知っていたからさっきまで気にしなかった心配が、急に私にふりかかってきた。


サイラス・ルートのミネルヴァは主人公とサイラスを祝福していたけど、新しい相手を見つけたり幸せになる描写はなかったのよね・・・


「サーシャちゃん、ほんと気にしないでってば!ほら元気だして!」


ミネルヴァは私の沈黙を傷を見たショックだと思ったみたいで、明るそうに話しかけてくれたけど、私は気落ちしていた。


「ごめんなさいミニー、やっぱり、サイラス様のことは」



「サーシャ、ダメっ!サイラスと会っちゃダメっ!」



突然客間に乱入してきたのは、裸の上半身に薄い白いガウンだけ羽織ったマーカス様だった。なんだか寝乱れてはだけたような感じに見える。


「マーカス様、そんな格好でどうされたのですか?」


走ってきたのか頬を赤くして少し息を切らしているマーカス様は、乙女も恥じらう色っぽさがあった。なんでか目がうるうるしていて、なんだか子犬みたいな感じがする。


「サーシャがミネルヴァ嬢と会うって聞いたから、サイラスが付いてこないか心配して・・・」


「ご覧のようにミネルヴァ一人ですから、安心しておやすみになってください。お客様がびっくりして・・・えっ、ミニー大丈夫!?」


振り返るとミネルヴァは呆然として固まっていて、鼻血が少し出ていた。慌てた私は、いくつか持っているハンカチのうちの実用的なやつを引っ張り出して、ミネルヴァの鼻を押さえた。


「マーカス様、レディの前ですので、お引き取りください。ミニー、しっかりして!あっ、アルバートは外にいるかしら、マーカス様をご案内して!」


「あ、ごめんね。ミネルヴァ嬢、失礼をお詫びします。サーシャ、また、その、ベッドでね。」


なんだか恥ずかしそうなマーカス様が顔を赤くしながら部屋を出ていった。


「へぷっ・・・」


ミネルヴァがなんだか不自然な音を出して背もたれに倒れかかったので、私は慌てて鈴を鳴らしてメイドを呼んだ。


「ナディア、ナディア!ちょっと助けて!」


ナディアがメイド数人を引き連れて部屋にやってきた。


「ミニー、気をしっかり!」


ミネルヴァもやっぱり貴族令嬢だから、裸の男性とか見たことないのかもしれない。いきなりマーカス様を見たらびっくりしちゃうよね。


ミネルヴァの性格と、惜しげもなく筋肉を晒す騎士団長の息子のことがあったから、てっきり平気かと思っちゃった。


「マーカスがごめんね。後でちゃんと言って聞かせるからね。」


「・・・て、てん・・・」


目の焦点が定まらないミネルヴァが、なにか言いたそうにしていた。


「そんなダイイングメッセージみたいなのやめてよミニー!落ち着いてから話してくれればいいから!」


「・・・て・・・てんし・・・いた・・・・」


てんし・・・


天使?


「そうね、マーカス様なんか羽衣みたいなガウン羽織ってたし、あざといくらいに天使っぽかったね!」


思い出すと笑っちゃうくらい天使だった。


「てんし・・・いきてて・・・よかった・・・」


うん?


「どういうこと?天使が生きてるって?」


「ちがうの・・・あたし、いきてて、よかった・・・」


鼻血に気を取られて表情を見ていなかったけど、ミネルヴァは嬉し泣きしそうになっていた。



私の時代が来た!パート2!



「ナディア、鼻血が止まったら席を外して、私達二人だけにして。あと絶対マーカス様を部屋に近づけないで。」


「かしこまりました。」


ミネルヴァは落ち着かなかったせいか止血に時間がかかったけど、無事かわいいオレンジのドレスを汚さずに鼻血はおさまった。


人払いをすると、私はまだぼおっとしているミネルヴァの隣に移動して、小声でささやいた。


「ミニー、ミニーは天使みたいな男の子が好き?」


「・・・しゅき・・・・」


よし!


「ミニーは、天使に触れてみたい?」


「え、サーシャちゃん、マーカス様はサーシャちゃんの・・・」


さすがに我に返ったみたいでぽかんとするミネルヴァだけど、もうひと押しね。


「二人だけの秘密だけど、マーカス様との婚約は家同士の約束で、二人の間に愛はないの。ミニーとサイラス様のものと同じよ。私は立派な体の人が好き。ミニーは天使が好き。二人の婚約者は家族が決めただけ。私のいいたいこと、分かるかしら?」


話が進むにつれて顔がだんだん真っ赤になったきたミネルヴァ。期待が隠せなくなっているのが私にもわかった。


「でも、サーシャちゃんに夢中なマーカス様があたしに、なんて・・・」


「大丈夫、マーカス様は敏感肌で、マッサージということをしてあげると、すぐ気持ちよくなっちゃう人なの。今度マッサージを教えてあげるから、それをしてあげれば、ミニーにも懐いてくれるよ?」


マーカス様はマッサージ初体験のあと態度がガラッと変わったから、ミニーも上手にできればたぶん問題ないはず。


「あ、あたしにもできるの?」


「ちゃんと教えるから、気合があれば大丈夫!ミニーは天使が気持ちよくなっているところを見たい?」


「み、見たいっ」


「天使の顔を真赤にしてみたい?」


「みたい!」


「天使に『お願い、もっとして』っておねだりさせたい?」


「さ、させた・・・ひぷっ・・・」


ミネルヴァの鼻血が再発した。


「あっ、鼻血が・・・ナディア!・・・人払いしてたからいないんだったわね・・・」




その後私が一人でミネルヴァの止血をするのは大変だった。興奮しちゃったミネルヴァはそのまま帰っちゃったけど、悪くないスタートだったと思う。



私はサイラス攻略にかけてはプロだし、ミネルヴァの協力ももらえるし、マーカス様はマッサージでどうにかなる。


主人公が一番人気のないサイラスを狙ってくる可能性は低いと思うし、ゲームのマーカス狙いだったら原作と違いすぎるマーカスにたぶん惹かれない。だからたぶん邪魔者はいないはず。


ミネルヴァはやんちゃだけど名門貴族の出身だし、マーカス様のご両親はいい人だから令嬢らしくないトレーニングしている私にも優しい。話を聞いた限りだとミネルヴァとサイラスのご両親も婚約破棄になっても新しい相手がいるならあんまり気にしない感じがある。


そういうわけで今日からスタート!



婚約者交換大作戦!


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