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1.失敗は成功のもと、たぶん!


私は現実を受け入れたくなかった。



「・・・ぁ・・・んぁっ・・・サーシャっ!・・・あっ・・・」


横たわってうわずった声を上げているのは私の婚約者で、宰相ラフバラ伯爵の長男、マーカス様。さすが乙女ゲームの攻略キャラクターだけあってこの国有数の美男子。


なんだけど・・・


「・・・ふくっ・・・き、きもちいいよっ・・・サーシャ・・・」


私をとろけたように見つめるグリーンの目はやさしい宝石みたいで、柳のように揺れるライトブラウンの髪と赤く染まった頬のスッキリしたラインは、見た人が思わず赤くなること間違いなしだった。ゲームではメガネを掛けていたから印象が違うかも。


そうなんだけど・・・


「マーカス様、今朝の鍛錬はされたのですか?」


「・・・うんっ・・・サーシャの言う通りにっ・・・んっ・・・鶏の胸肉と、卵も食べて・・・あっ、そこ・・・ごめん、もっとして・・・」


気持ちよさそうに目をつぶるマーカス様には、神話からでてきた天使のような神々しさがあった。



でもね、せっかく神話から出てくるんだったら、私には天使じゃなくて神が良かったの。



そう、私の前に広がる半裸の上半身は、中性的な美しさはあるけど、お世辞にもイイ体とは言えなかった。あと私よりも肌がすべすべなのも許せない。



「んあっ、あっ、・・・あいしてるっ、サーシャっ!!」


私は思わず力を入れてしまって、マーカス様がびくんと体を震わせた。


「すみません、マーカス様、びっくりしましたよね。いつもみたいにゆっくり終わらせますね。」


「・・・あっ・・・きにしないで・・・ふあっ・・・しあわ、せ・・・」


すごく気持ちよさそうなマーカス様がゆっくり目を閉じたのを確認すると、私は事務的に片付けを始めて、マーカス様のメイドを呼ぶ鈴を鳴らす。




こうして私は今日も、婚約者の運動後のマッサージを終えて、絶望した。



・・・



「じいや、もう駄目だわ・・・3年間の間、マーカス様には筋トレメニューをこなして高タンパクな食事をとっていただいているけど、乙女みたいに細い体のままなの・・・」


「サーシャお嬢様、どうか希望をなくさないでください。筋肉は男性が成長期を終えてからも望みがありますから。」


家に帰った私をなだめる役はだいたい執事のアルバート。もともと騎士だったらしくて、もう50近いと思うけど立派な肩幅を維持してる。


「もう終わりなの!3年間よ!3年間で結果が出なかったのに、もう改善する見込みがないわ!!」


「お嬢様、男の価値は筋肉では測れませんから。」


「私にとってはそうなの!!」


アルバートを押しのけるついでにちょっとだけ腹筋にふれると、私は部屋のベッドに倒れこんで、今までの努力を振り返った。



そう、私にとっては筋肉がすべてだった・・・



・・・・・・・



私の名前はアレクサンドラ。ゲームだとマーカスに愛されてないと気づいて涙ながらに身を引く『儚い系の美少女』だったけど、記憶が戻ってから食事と運動に気をつかっていたらお母様ゆずりのグラマーな体になって、ちょっと色素の薄い顔とミスマッチがあるかもしれない。


前世の私は男性の筋肉に夢中で、高校時代はラグビー部のマネージャー、大学時代はアメフト部のマネージャー。柔道整復師の資格もとって、大手ジムに就職した。トレーナーじゃなくて広報だったけど。


だんだん前世の詳細が思い出せなくなってきたけど、必死で覚えたマッサージを駆使して筋肉を堪能した人生だったと思う。最後の記憶は花火大会で将棋倒しにあったことだったけど、立派な筋肉に圧迫されたのは覚えているから、そういう最期だったらむしろ私らしいかなって思っちゃう。



乙女ゲームへの転生に気づいたのは13歳。私の婚約者がお気に入りの騎士団長の息子じゃなくて、一番線の細い宰相の息子だったことに気づいて3日間寝込んだ。


ゲームで一番人気がなかった騎士団長の息子を忠実に推し続けていたのに、なんでなの神様!?



お父様に圧力をかけて騎士団長の息子と婚約をしようとしたけど、なんだかうまくいかなかったみたいで破断になって、その後も騎士団長の家とはあんまり接点がないまま、気がついたらマーカス様と婚約になってた。


今思うとマーカス様以外の誰かしらと婚約しておけばよかったけど、ゲームだとマッチョなキャラクターは騎士団長の息子だけだったし、まだ10歳くらいの他の少年を見て将来の筋肉を予想するのはプロの私でも難しい。



私は戦略を変えた。題して『鳴かぬなら鳴かせてみよう時鳥』作戦。



そう、騎士団長の息子みたいになるのは遺伝的に難しいかもしれないけど、ゲームではインテリ系で運動しないマーカス様に筋トレをしてもらえれば、そこそこの筋肉を達成できるかも!と思った。


最初は運動を嫌がって本ばかり読もうとするマーカス様をどうやってやる気にさせるかが問題だったけど、あるとき本気のマッサージをしてあげたら手のひらを返したように懐いてくれて、それ以来マーカス様は忠実に私のメニューをこなしてくれている。もちろんご褒美のマッサージは忘れていないけど。



でも、結果がでなかった。



ゲームの強制力かなとも思ったけど、そんなに本を読まなかったからかマーカス様はゲームと違ってメガネをかけていないし、性格もキザなインテリというよりは素直で子供っぽい感じ。婚約者に無関心なはずだったのに、私が護衛騎士の腹筋を触ろうとしたのを目撃して全員女性に入れ替えるくらいおせっかい。


それなのに筋肉量だけはゲームと変わらないなんて・・・



なんでなの神様!!



いつもみたいに心のなかで神様に文句を言うと、私は起き上がってティーテーブルの便箋をとった。


手紙を書く。宛名はミネルヴァ・コートールド。


そう、騎士団長の息子の婚約者。プランAが失敗したんだから、プランBを始めるのよ。


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