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九話 泉の儀式

 

 ラウラが落ち着きを取り戻したとほぼ同時に一行は目的地に到着した。


「ここが精霊の泉か。でも精霊の気配は感じないな」

「そうみたいね。でも泉からはわずかに魔力を感じるわ」


 3人は周囲を警戒する。


「ラウラ!」

「分かってる」


 魔物の接近に気づいたラウラは、グレンとスタロに身体能力強化(ブーストアップ)をかける。自らが大量の魔力を持つラウラは、平凡な魔導士とは異なり杖などを所持しておらず、指先から魔法を放ってグレン3号の中に引っ込んだ。


 スタロはラウラの魔法を受け、初めての感覚に戸惑いながらも興奮を覚えた。


「な、なんかすごいっス」

「ああ、ラウラの魔法は一級品だからな。それじゃ任せたぞ」


 グレンがスタロから離れると同時に泉に四本足の魔物がやってきた。


「ちょ、ちょっと待って欲しいっス。まだ心の準備が……」

「魔物は待ってくれないわよ。ほらっ、しっかりしなさい」


 グレンの見立てでは、ラウラの魔法を受けたスタロは魔物よりもやや勝っていた。だが実際にはスタロはやられっぱなしでいいとこ無しだった。


 ラウラが小まめに回復魔法をかける。ラウラは回復魔法を得意としていなかったが、それでもアレクサンドの魔導士と比べることもできないほどの威力を持っていた。そのためスタロに大きな傷はなかったが状況は変わらなかった。


 しびれを切らしたグレンが声を張り上げてアドバイスした。


「スタロ!! 自分にできることをやるんだ!!」

「自分にできること……?」


 考え込むスタロに魔物の攻撃は迫っていた。


「できること……っ!? それは逃げる事っス!!」


 スタロは逃げた。何度も何度も魔物の攻撃から逃げ続けた。


「あれでいいの?」

「まあ、見てろって」


 逃げ続ける事でスタロは魔物との距離感を掴んでいき、次第に余裕をもって避けれるようになってきた。


「そろそろだな」


 グレンの予想通り、スタロは避け際に一撃を加えるようになっていった。短刀から繰り出される攻撃は大きなダメージを与えることはなかったが徐々に魔物を弱らせていった。


「これでトドメっス」


 最後の一撃を加えると魔物の胴が割れて倒れていった。スタロはグレン達に振り向くと両手を上げて喜んだ。


「グレンさーん、ラウラさーん。おいらやったっス」


 その背後で魔物が立ち上がろうとしていた。だがスタロは気づいていない。グレンは一瞬で距離を詰めると魔物を一閃する。その斬撃と同時にラウラの魔法が直撃すると魔物は崩れ落ちていった。


「詰めが甘いわね」

「だがそれまでは良かったぞ」


 スタロは照れ笑いしながら頭を掻いた。


「それじゃあ報告に戻るか」

「その前に泉を調べて見るわね」


 グレンはそういえばそうだったなと思い出してラウラを待った。


「どうだった」


 ラウラは首を横に振るだけだった。


 3人が戻ると村中から感謝を受けた。歓声が鳴りやまぬ中、村長が代表して彼らを迎えた。


「ありがとうございます。これで彼らも儀式を行えます」


 村長が手招きすると人垣から正装した3組の男女が現れた。


「皆さん、ありがとうございます。僕らもようやく結婚できます」


 彼らは村を出発する時に応援してくれた若者たちであった。泉で行われる儀式とは結婚式のことであり、古くから行われていた伝統は若い世代にも大事にされていた。


「だから彼らの応援はあんなに熱が入っていたのか」

「ええ、本当にありがとうございました。そうだ、一緒に参列しませんか?」


 村長は最大限の感謝を伝えるために結婚式に誘った。それに答えたのは無表情で黙ったままのラウラだった。


「……私達は先を急ぐ身ですので遠慮します。彼らには結婚おめでとうと伝えてください」


 村長の耳にはしっかりと舌打ちが聞こえていたが敢えて聞き流した。グレンは報酬を受け取ると不機嫌なラウラを連れてすぐに去っていった。

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