八話 精霊の魔力
グレンたちはペルミ村に到着すると村長宅の庭に案内された。グレン3号に搭乗しているラウラが村長宅に入れないからだ。ラウラ曰く、これから戦いになるのだから余計な魔力を使いたくないとのことだ。
「精霊の泉に魔物が居座ってましてな。退治してもらいたいのです」
村長の話は概ねスタロの言う通りだった。
「そこでは大事な儀式をしなくてはなりませんので是非ともお受けして頂きたいのです」
ラウラは話を続けようとする村長を遮って条件を突きつけた。
「ギルドの依頼はキャンセルしてその分を上乗せしなさい。それなら受けるわ」
「それはもちろんでございます」
村長はラウラの言葉に素直に従った。どうせ報酬は同じなのだから渋る必要などない。
村長宅を離れて精霊の泉に向かおうとすると、周囲で見守っていた若者たちが集まってきた。
「皆さん、頑張って下さい!!」
「早く退治してくださいねー」
「ご武運を」
まるで魔王討伐直前のように声援を送られてグレンとラウラは懐かしくなり、スタロはむず痒くなった。
「おいら、こんなに期待してもらったの初めてっス」
「ああ、彼らのためにも頑張らないとな」
グレンは今回の戦いでもスタロを鍛える予定だった。一行は目的地に向かって歩みを進めた。
「精霊の泉って言うんスから精霊が一杯いるんスかね?」
「どうかしらね、精霊も随分といなくなったみたいだし……」
「そういえばラウラさんは精霊魔法は使わないんスか?」
グレンは余計な事を聞くんじゃないとばかりに肘でスタロをつついた。
「はぁ? あんな奴らの力を借りるわけないじゃない」
ラウラは強い口調で言いきった。精霊魔法とは精霊の魔力を借りて使う魔法のことで、自らが膨大な魔力を持つラウラには必要ない。だがここまで嫌がるのには理由があった。
「あんた、精霊ってどんな感じか知ってる?」
「よく分からないっスけど、ふわふわしてる感じっス」
「まあ普通の人間はそうよね。でも私には、はっきりと見えるのよ。彼らは赤ちゃんのようにかわいい顔をしているの」
「それじゃあ、なんで苛ついてるんスか?」
「彼らが人間に魔力を貸すときにどんな風にしていると思う? 絞り出すようにして魔力を貸すのよ」
「有りがたい話じゃないスか」
ラウラは爪を齧りながら話し続ける。
「その時の顔を私は見たのよ!! そして気づいたの。あの顔は……トイレで踏ん張って出そうとしてる時の顔だって。つまり精霊の魔力っていうのは精霊の〇んこのことなのよ!!」
スタロはその事実よりも、むしろラウラの表情に恐怖を感じていた。
「ああ、おぞましい。精霊の〇んこを使って魔法を使うなんて……」
ラウラのこの考え方こそが聖女ソフィアとの溝を深めていた原因だった。ソフィアは精霊王に認められた存在であり、数多の精霊の力を借りて力を発揮してきた。ラウラの視点ではソフィアが魔法を使うたびに〇んこがまき散らされ、それを吸収してたのがソフィアなのだ。また勇者アレクの持つ勇者の剣も精霊王の魔力が込められたものであった。
「でも赤ちゃんの〇んこなんて誰でも触ったことあるんじゃないスか? おいらも弟たちのオシメを替えたことがあるっスよ」
この発言が失敗だったことにスタロはすぐに気づいたが取り返しがつかなかった。ラウラは手で顔を覆って涙声になった。
「っ!? そうやってずっと独り身だった私をいじめるのね。ひどいわスタロ」
困ったスタロは救いを求めるようにグレンを見た。だが更年期を遥かに超えても不安定なラウラを慰める術などグレンは持っていなかった。




