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七話 旅の目的

 

 グレン達は青空の下で会話を交わしていた。


「それでグレンはこの後どうするつもりなの?」


 魔力が回復して若い姿を取り戻したラウラはどうしても気になっていた。


「今は冒険者として稼ぎながら世界中を回ろうと思ってる。こいつの修行もあるしな」


 ラウラは恐る恐る提案した。


「そ、それなら私もついて行こうかしら。その方がグレンも嬉しいでしょ?」

「ああ、それなら助かるが……」


 グレンはスタロをちらりと見るが表情に変化はない。一方ラウラはスタロを無視して話を進めた。


「実はね、私にも手伝ってほしいことがあるのよ」


 そういって事情を話し始めた。その事情はできたてほやほやだった。


 現在、世界中に魔力泉と呼ばれる場所が各地に点在していた。自然に蒸発して消えることもあるが、強力な魔力を帯びた水を飲むと魔物が強化されてしまう可能性があったのだ。


 だがラウラの真の目的は別にあった。魔力泉の中には特殊な効果を持つ泉があり、若返りの泉と呼ばれる泉を探していたが、時が経ち長期間の旅ができなくなってしまった。だがグレンの封印が解かれた今、早急に泉を探す必要が出てきたのだ。


「これはグレンにも必要だと思うの。グレンの体は昔のままだけど、あれから100年間経ったことに変わりはないわ。いつ体がおかしくなっても不思議じゃないのよ……」


 ラウラはそれらしいことを並べてグレンを説得しようとしたが、その必要もない程グレンはあっさりと了承した。スタロは疲れてぼんやりしていたが、思ったことを素直に口に出した。


「やっぱり若い姿の方がいいんスか?」


 今でもラウラは十分に動けているし、自分よりもはるかに強いと感じていたからである。彼に女心など分かるはずもなかった。ラウラは呆れながら答えた。


「そりゃそうよ、いつまでも若くいたいもの。見た目が若くなれば心も若くいられるわ。心が若ければ見た目も……なんて言う人もいるけど、私に言わせれば逆ね」


「へ~そうなんスか。そういえばなんでラウラさんはそんなに元気なんスか?普通はもっとよぼよぼになっててもおかしくないっスよね?」


 それはグレンも気になっていたことだった。ラウラはポツポツと語り始めた。


「私は昔から魔力泉を探していたのよ。グレンの呪いを解くカギがないかってね。ある時、特別な感じのする泉を見つけたの。私は自分の体を使って実験したわ。その結果、泉の謎がわかったの」


 グレンとスタロは息を呑んで話に聞き入る。


「その泉は千年鳥と呼ばれる長寿の種族がよく浸かりに来る泉で、その影響かは分からないけど体が健康になる効果があったのよ。おかげであれから四十肩やぎっくり腰にもならないし、風邪も引いたことないわ」


「健康なのはいいけど、お婆ちゃんになってもずっと健康で長生きして過ごすのかなって。だから泉を探したり、魔法を研究していたりしたのよ」


「へ~、そうなんスか。あっ、そういえば……」


 こんな時のスタロは結構役に立つ。短い間でグレンはそう感じていた。


「ここからちょっと行ったところにある……確かペルミ村からギルドに討伐要請がきてたはずっス。精霊の泉って所に居ついた魔物の討伐要請っス。貧乏な村なんで報酬が少なくてずっと前から放置されてたっス」


「よし、それじゃあペルミ村に行くか。こま――」

「困っている人がいたら助けないと……でしょ。変わってないわね」


 ラウラはグレンが記憶のままでいてくれることが嬉しくなって微笑んだ。グレンは先回りされたことに苦笑いして仕切り直した。


「それじゃあ出発しよう」




 それからしばらくの間、グレンとスタロはラウラの準備を待っていた。


「ラウラさん、遅いっスね」

「まあ、レディーは準備に時間がかかるのさ」

「レディーっていうよりバ――」


「そこ!! 聞こえてるわよ」


 ラウラの声が聞こえる方を向くと、グレンの1.5倍ほどの背丈の巨大な鎧がカシャン、カシャンと音を立てながら近づいてきた。


「な、なんスか、これ」

「これは魔道装甲兵か?」

「その通りよ!」


 頭部甲冑を外して中からラウラがひょっこりと現れて胸を張った。魔道装甲兵とは100年前の戦争時に魔導士たちが操った鎧である。中には誰も入っておらず、近接戦闘が苦手だった魔導士が身を守るために使用していたものだった。


「改造魔道装甲兵ロボタ、改めグレン3号よ」


 グレン3号は通常よりもはるかに巨大なサイズで、腹部がふっくらとして広いスペースがあった。ラウラはそこにゆったりと座りながらを操っていた。だがラウラは近接戦闘を苦手としておらず、グレン3号を操っているのは戦闘の為ではなかった。


 年老いた自分の姿をグレンに見せたくなかったからである。一瞬のときめき(インスタントラブ)は消耗が激しいので一日中使うのは難しい。だがグレン3号の腹部は巨大なマジックポットになっており、魔法をこめる事が出来た。


 こめる魔法は当然一瞬のときめき(インスタントラブ)である。そのためラウラは中に入っている間は魔力を消耗せずに若い姿のままでいられるのだ。


「さあ! 出発するわよ。付いてきなさい!」


 そうして3人は新たなパーティーとなった。意気揚々と進む彼らであったが、怪しげなグレン3号を見た衛兵に何度も説明するはめになるのであった。

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