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三話 戦士6人のパーティー

 

 グレン達はアレクサンドの北門を抜けると目的地であるグローアントの巣がある森まで歩き始めた。経験豊富なグレンが先頭に、最後尾にクダツ、その間に10代の若者たち。それは全てクダツの指示通りの隊列だ。


 グローアントは5級冒険者の討伐目標であるが、アレクサンドまでの距離が近い事もあって早急に対処する必要があり2級冒険者のクダツが受注した。討伐自体はクダツ一人でも可能であったが、それならばいっそのことランクアップクエストに認定してしまおうと考えたのだ。ギルドに加入したばかりのグレンがクエストを受ける事ができたのは幸運である。


「おっさん、ちょっと話そうぜ」


 シミズは隊列を崩してグレンに近寄ってきた。グレンは仕方のない奴だと思いながらも、それに付き合うことにした。周囲の警戒は自分がすれば問題ないし、彼らのことを知るのも必要だと感じたからだ。少年達はそれぞれ初対面で別々の街からアレクサンドに行き、グレン同様にクエストを受けることになったという。


 彼らの名前はシミズ、ドットス、ロアン、そして紅一点のフローネ。彼ら4人には共通点があった。グレイク流と呼ばれる闘気によって身体を強化する体術を会得していたのだ。その流派は街ごとに道場があり対抗意識を強くもっている。そのせいで4人は互いを警戒していたことを話を聞いたグレンは理解した。


 グレンはそれを悪い事とは思っていない。対抗意識によって彼らは飛躍的に成長するかもしれないと感じていたからだ。


「だが状況によっては協力しなければならない時がくるぞ?」


 諭すように告げたが自分の力に自信を持っているためシミズからは生返事が返ってくるだけだった。恐らく他の3人も同じように思っているだろう。魔物の強さは分からないがチームワークのなさが致命傷にならないだろうかと感じていた。不安要素はもう一つあった。


「それにしても6人全員が戦士とは、随分と偏ったパーティーだな」


 グレンの認識ではパーティーには攻撃役と回復役の魔導士が欠かせなかった。だがシミズの認識は異なっていた。


「あんな腰抜けの連中がいたって役に立たねえだろ。何言ってんだ、おっさん」


 魔導士や僧侶――回復魔法が得意な魔導士――は現在でも確かに存在している。だが100年前とは有り様が変わっていた。もちろん理由があるが、それには魔法について知らなければならない。


 人類が魔法を使う方法は二通りある。一つ目は世界中に存在する精霊たちから魔力を借りる方法。二つ目は魔王を代表する魔族のように、自分自身の体から発生する魔力を使う方法である。多くの魔導士は精霊から魔力を借りて使用しており、かつての仲間であった大魔導士ラウラのように魔力を持っている人間はわずかであった。


 勇者アレク一行が魔王を倒して以降、精霊は少なくなってしまい魔導士たちは冒険に耐えうるだけの魔法を行使することができず、結界で守られた街に引きこもるようになったのだ。契約した精霊からわずかな魔力を借りて、魔法を保存できるマジックポットにこめることが彼らの仕事となっていた。


 その上、彼らは魔法教会を設立して独占することで利益をあげており、魔法は低級冒険者に手が届くような代物ではなくなってしまい、彼らは効果の薄い薬草を使用していた。そのため冒険者たちからは金の亡者と思われて嫌われているのだ。


「おっさんって意外にも金持ちだったんだな」


 シミズはグレンのベルトについているマジックポットを指さした。一つだけでも高価な物なのに三つも装備しているのだからそう思われるのは当然である。しかもその中味がソフィアとラウラの魔法が入っていると彼が知ったら卒倒ものだろう。


「これは随分昔に仲間に譲ってもらったもので――」


 グレンは言い終える前に背中に背負っていた大剣に手をかけて構えた。シミズたちもそれを見て一瞬遅れて構える。一行が歩みを止めると静寂が訪れ、それを破るように足音が近づいてきた。人間の腰ほどの高さのあるグローアントの群れは背の高い草に隠れるようにして距離を詰めると飛びかかってきた。


 グレンはそれを待ってましたといわんばかりにニヤリと笑うと大剣を片手で持ち、いとも簡単に振るってグローアントを(ほふ)っていく。時折迫られても拳で迎え撃つ。グレンはその屈強な体格で勇者パーティーの前衛で戦ってきた男である。その前ではグローアントなど敵ではなかった。余裕ができたグレンは戦いながらも自信満々だった若者たちに目を向けた。


「こいつら……思ってたよりずっと強いじゃねーか」


 グレンの見立て通り、4人はそれぞれが単独で戦いながらもグローアントを倒していく。ドットスは巨体から生まれるパワーで、シミズ、ロアン、フローネはスピードで翻弄して数を減らしていた。クダツに至っては戦闘に参加せずに背の高い木の枝から全体を見渡している。試験官として観察するだけでなく、いざという時のために駆けつけやすくするためである。


 しかし、その必要もない程に順調に討伐していくとやがてグローアントの巣にたどり着いた。地中に掘られた巣からグローアントが飛び出して襲い掛かってくる。先程の戦闘で自信を持った一行はまたもや単独で戦い始めた。だが今回は様相が異なっていた。


 他の個体よりも一回りも大きな個体と小さな個体が混じっていたのだ。大きな個体はグレンとドットスを除いて一撃で倒すことはできず、小さな個体は通常種よりも素早い動きで牽制しながら彼らを取り囲んでいった。


「くっ、囲まれたか……」


 フローネがそう口走ったのと同時に悲鳴が聞こえてきた。ロアンが腕に重傷を負ってしまったのだ。クダツがすかさず駆け寄る。同年代のロアンがやられ、他の三人にも緊張が走って動きが鈍くなった。次の瞬間、気を取られていたフローネに大量のグローアントが襲い掛かってきた。


「きゃぁぁ!!」


 グレンは悲鳴の聞こえた方へ素早く移動するとフローネに襲い掛かる寸前のグローアントを薙ぎ、座り込んでおびえた表情のフローネを見下ろした。


「ったく、世話がやけるぜ」


 グレンはフローネに聞こえるようにわざと大きな声で言った。恐怖で動けなくなるなら、自分に怒りの矛先を向けて動ける様にすればいい。グレンの思惑通りフローネは立ちあがって再び剣を構えた。


「私はっ……まだ戦えるっ!」


 その言葉に満足してグレンは大声を張り上げた。


「シミズ! お前はドットスに付いて早い奴を仕留めろ。ドットスはでかい奴を倒せ! クダツさんはロアンを頼む」


 そして再びフローネに向き直る。


「でかい奴は俺がやる。早い奴は任せたぜ」


 グレンは返事を待たずに再び剣をふるう。フローネもグレンに負けまいと必死についていった。




 戦いはグレンたちの勝利で終わった。積み上げられたグローアントの死骸を見ながらクダツはねぎらいの言葉をかけた。


「情報よりもかなり数が多かったがなんとかなったな。いや、さすが俺が見込んだ冒険者たちだ」


 その言い草に若者たちは恨みがましい視線を送る。彼らも自分のランクよりも難しいクエストであることは理解していたが、事前の情報と違いすぎて死にそうになったのだからそれも仕方がない。クダツは居心地が悪くなって一番の功労者の方へ逃げて行った。だがグレンは近づいてくるクダツを気にする余裕はなかった。


「大地が震えている……」


 グレンが感じたわずかな揺れは次第に皆にも分かるほどに大きくなっていく。大地がひび割れると巨大なグローアントが現れた。


「こいつは……キングだ」


 魔物の中には特殊変異した個体が極小確率で生まれることがある。その個体は他とは比べられないほどの力を持ちキング種と呼ばれていた。クダツはキング種を見たことはなかったが直感で理解した。自分はこいつには勝てない、と。


 グローアント・キングはクダツの想像した通り、いやそれ以上の破壊力を持った魔物だった。歩くだけで地面が沈み、頭を軽く振っただけで触角にふれた木々が倒れていく。


「お前ら!! 撤退するぞ。こいつはやばすぎる」


 クダツは即座に撤退を選択した。勝てないならば情報を持ち帰って対策を立てなければならない。一行は疲れた体に鞭打って駆け出した。ただ一人グレンを除いて……


「おい、何やってる。撤退だ!!」

「ああ、分かってる。だが殿(しんがり)が必要だろう?」


 そう言いつつも逃げるつもりは一切なかった。こいつはここで倒す。そう決めたグレンはベルトについたマジックポットを開放した。


身体能力強化(ブーストアップ)

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