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二十六話 揺れる世界

 

 フェスティバル2日目・朝、世界に衝撃が走った。






『トップアイドル、黒髪しばり隊のリーダー・マユラがセレスティア侯爵と雲隠れ』




 グレンは朝から忙しく動いていた。もちろんマユラの失踪に関する号外を受けての対応である。人気投票で1位になった黒髪しばり隊が新劇場でのオープニングライブを担うことに決定していたが、現状で開催できるかどうかは不透明だった。


 マユラが不動のセンターであったこともそうだが、今回の件でただでさえ関係の良くないセレスティアとクロカミ共和国に、民間レベルでも亀裂が入ってしまった。グレンは情報を知ってすぐにアイドル達を劇場内に避難させて門を固く閉じているが、外からは怒号が飛んできていた。セレスティア許すまじ。クロカミ共和国の男性の間にその考えが浸透していくのはあっという間だった。


「この度は本当に、本当に申し訳ありませんでした」


 プロデューサーであるクロノが何度も頭を下げた。だが下げた所で解決するものではない。運営委員会は必死に解決策を模索した。そんな彼らの元にラウラが飛び込んできた。だがラウラの報告は状況をさらに悪化させるものでしかなかった。


「グレン、大変よ! スタロが(さら)われたわ!」


 あいつはどこのお姫様だ! グレンはそう言いたいのを我慢してラウラの話に耳を傾けた。


「あいつがなかなか起こしに来ないから寝坊したのよ。それで文句を言ってやろうとしたら部屋から消えてて、これが残っていたの」


 ラウラが差し出したカードにはグレン宛てのメッセージが書かれていた。


「返してほしければフェスティバルを中止せよ……か。それで犯人は分かってるのか?」


「ええ、昨日かけた追跡魔法がまだ残っているわ。南西の方角に移動してる……犯人はおそらくクロカミ共和国の奴らね」


「なんだって!」


 ラウラは説明に驚いたのはクロノである。


「となると、強硬派が動いたのでしょう……、もしかしたらマユラの件も絡んでいるかもしれません」


 スタロの誘拐は戦争強硬派によるものだった。だがマユラは玉の輿に乗っただけなので関係ない。とはいえ、2つの事件が同時に起こってしまった事は最悪の展開であった。


「奴らの狙いがフェスティバルの中止ならば屈してはならない。ですが今の状況では……」


 今にもファンたちの暴動が起きそうな状態では開催も危ぶまれるのだ。


「スタロを助けに行くとしても、急がないと魔法の効果が切れてしまうわよ」


 グレンは考え込んだ。自分にできることはなんだろうか。スタロの師匠として、そして1人のアイドルファンとして答えを出した。


「俺はスタロを助けに行きたい、弟子として、仲間として大切なんだ。……だがフェスティバルも必ず成功させる。国際情勢が悪くなればアイドル達も活躍できなくなってしまう。戦争なんて起こさせるわけにはいかない!」


「でもどうやって?」


「ラウラは今すぐ馬車の用意をしてくれ。馬に身体能力強化(ブーストアップ)をかければ追いつけるはずだ」


 ラウラは頷いて劇場を出ていく。


「クロノさんにも付いてきてもらいたい。クロカミ共和国に入るのに時間をかけるわけにはいかないんだ」


「ええ、分かりました。私としても強硬派を押さえなければなりません。しばり隊はマネージャーに任せても大丈夫でしょう。ですが、今の状況でフェスティバルを開催できるかは……」


「それについては考えがあります」


 グレンの案を聞いてクロノは表情を一変させた。


「!! これならいけるかもしれません。ただ観客に対して、どう伝えたらいいのか……」


「確かに我々運営側の話は聞いてもらえるかどうか……」


「でしたらその役目、私たちにお任せください」


 いつのまにかグレンの前にはアイドルたちが集まって来ていた。しばり隊やエレノア、ミィナだけでなく他のアイドル達も勢ぞろいで、彼女らも自分たちに何かできることはないか考えていたのだ。フェスティバルを成功させるために、そして平和な世界のためにアイドルたちが国を越えて手を取り合う。それはグレンが理想としていた世界だった。


「よしっ!! 皆の力を合わせてフェスティバルを……いや、世界を救おう。えい、えい」


「「「 おー!! 」」」

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