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二十四話 フェスティバル開幕

 

 劇場建設予定地では急ピッチで資材が運び込まれていた。劇場のこけら落としの時期が大幅に早まった為である。本来であれば街――グレンランド――の中心に劇場を建設し、その周りを囲むように商業区画、住宅区画の建設を終えてからライブ初日を迎える予定であった。


 だがクロカミ共和国のクロノたち穏健派から、戦争を企む強硬派の動きが活発になった報告を受けて予定を早めることになった。国民レベルでの交流を深めて戦争反対の世論を造りだすことが狙いである。そのおかげもあって劇場はほぼ完成し、現在は簡易な宿泊施設が大量に建設中である。それから20日あまり、遂にその日がやってきた。





「皆さん! お待たせしました。大陸初のアイドルフェスティバル……開幕です!!」


 グレンの開幕宣言を受けて群衆たちの歓声が鳴り響く。大陸中から集まった人々が各々応援するアイドルを今か今かと待ちわびていた。そんな中、アイドルたちは人波をかき分けながら劇場周辺の小ステージへと向かっていった。グレンが雇った冒険者たちが彼女らを守ってはいるものの、群衆たちの圧力で冒険者たちはてんやわんやだった。


 グレンの考えたアイドルフェスティバルは各地のアイドルたちから予想以上の反響があった。そのため予選という形を設けて2日間に拡大して行うことになった。初日に劇場周辺でのイベントスペースを利用して各アイドル達が自由にパフォーマンスを行う。そして2日目の入場券を持つ観客の投票によって新劇場の初ライブの権利が与えられるのだ。入場券は各国に公平に割り当てられている。


 挨拶を終えたグレンは劇場の最上部でラウラと共に様子を(うかが)っていた。


「ったく、スタロはどこで油を売ってるんだか」


グレンはスタロに連絡役を頼んでいた。だが当のスタロはアイドルに夢中で報告そっちのけであった。


「後で追跡魔法でもかけておこうかしら……。そんなことより、ここからが優勝候補たちの登場よ」


 グレンとラウラは運営側の人間であるので投票権はないが、アイドルたちには興味津々である。


「あの小娘がセレスティアの歌姫ね」


 長い髪をなびかせながら入場して来たのはエレノアである。5年以上セレスティアの音楽界をリードしてきた彼女の神々しさに観客たちは酔いしれ、その美しさに思わず目を奪われる男性が続出した。


「グレンはああいうの好きでしょ?」

「ああ、気の強そうな感じがラウラと似ているしな」


 肯定したグレンに驚きつつもラウラは照れながら言った。


「そ、そうね。でも私はあんなに厚化粧ではないわ」


 確かに化粧品は使用していないが、魔法(けしょう)の濃さならラウラも負けてない。


「次はミィナね」

「ああ、彼女もよくここまで来たな」


 グレンは路地裏でライブをしていたミィナを思い出し感慨に(ふけ)っていた。思えばグレンがアイドルに(はま)ったのもミィナが原因だった。


「アレクディアでの人気は大したものだけど、やっぱり魔族ってのがネックね」

「そうだな。だが一部の紳士たちに熱狂的なファンがいるらしい。合法だからな」


 魔族と人間の友好を願うミィナにとっては絶好の機会となる。そんな彼女の後方からひと際大きい歓声があがった。


「さあ、本命の登場よ」

「黒髪しばり隊か……結成されてから日が浅いが、各地のイベントに出向いて場数を踏んできただけあって落ち着きがある。特にリーダーのマユラがファンの心を掴んでいるらしい。楽しみだな」


 彼女たちはクロノが結成したグループアイドルである。地元のクロカミ共和国だけでなくアレクディア、セレスティアでもライブを行い、知名度では参加アイドルの中で最大であった。だが歓声に手を振って応えているものの、その(じつ)緊張で手が汗で(にじ)んでいた。彼女たちにしてもこれほどの大観衆は初めてだったのだ。


「まさかこれほど集まっているとは……」

「私、きちんと笑えているのかしら」


 フローネとレズリーが沈み込む中、マユラが励ましの声をかけた。


「大丈夫、大丈夫。絶対私達ならやれるよ。ファンの皆のことはイモだと思えばいいんだよ」


 マユラは貧しい農村の生まれであった。毎日イモを食べて暮らしたあの頃に戻りたくない、絶対に成り上がって見せる。彼女は強い決意を持って臨んでいた。

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