十六話 ある少女の物語
魔物の討伐要請がない日が続き、グレンが次のライブに向けて練習をしているとスタロが飛び込んできた。
「たっ、大変っス!!」
「おう、どうした?」
「ラウラさんは何処っスか?」
「ラウラなら今、日光浴だが……」
数十分後3人は居間に集まり、スタロの報告を聞くことになった。
「おいら、大変な情報を手にいれてしまったっス……」
「もったいぶらないでさっさと話しなさい」
「とある本を解読したら……若返りの泉について書かれていたっス」
スタロは興奮しながら語りだした。
「ある島に少女がいたっス。少女は家族と一緒に楽しく暮らしていたけど、外の世界を見たくなって一角獣に乗って島を飛び出したっス。少女は外の暮らしを満喫していたけど島が恋しくなって戻ろうとしたっス。でも一角獣は乗せてくれなくて、少女は外の世界で暮らして行く事を決心した話っス」
「…………」
ラウラは目を瞑りながら腕を組んで話を聞いていた。
「それで泉の話はどうなったんだ?」
「ちょっと待ってグレン。どこかで聞いた事がある……。なんで忘れていたのかしら……」
それはラウラが幼い頃の記憶であった。忘れていても仕方がない。ラウラはぽつりぽつり語り始めた。
「ある島に少女がいたっス……いたのね。少女は偶然島に流れ着いた青年を介抱すると2人は一角獣に乗って青年の故郷に向かったの。一角獣は男もいけるのね。少女は一角獣が見つからないように森に封印して青年と二人で幸せに暮らしていたの。その時に少女は女になったと思うわ」
そこの見解は必要ない。グレンは表情を変えずに先を促した。
「でも仲の良い2人に嫉妬した魔女が青年をお爺さんに変えてしまった……。少女は深く悲しんだけど、故郷に若返りの泉があると思い出したの。だけど一角獣は少女を乗せなかった。でも少女はそれに負けずに立ち直ったのよ……」
「それでどうなったんスか?」
「結局少女は青年をキッパリ諦めて、すぐに別のお金持ちと結婚して幸せに暮らしたわ」
話を聞いたグレンは首をひねった。
「同じ話……か?」
「ええ、そうよ。この本見覚えがあるの」
ラウラはスタロが持つ本を取り上げるとグレンに見せつけた。
「これは……幼児用の本じゃねーか!」
この本は解読する必要なんてないだろう。
「そうよ、でもねグレン。幼児用の物語というのは得てして真実をぼかして伝えているものなの。それとここを見て……」
作者欄を指さした。
「この本の作者のババスキデスは神話研究の第一人者よ」
「……なるほど、そういうことか」
さすがラウラ、長生きしているだけはある。グレンはそう言いたげだ。
「ババスキデスは秘密組織 [幼児を見守り隊] の隊長をしていて奥さんと毎日のように夫婦喧嘩をしてたわ。でも奥さんは奥さんで夫に隠れて若い男と浮気してたのよ。有識者の間では夫婦喧嘩は奥さんのカムフラージュだったというのが通説ね」
「そ、そうか」
「話が逸れたわね。ともあれババスキデスの物語なら信憑性があるわ。一角獣は何千年も生きる神獣よ。封印された森を探して島まで乗せてもらいましょう」
グレンとラウラは立ち上がった。
「ちょーーーーーーと待って欲しいっス」
「どうした、スタロ?」
「その……ラウラさんは一角獣に乗れないと思うっス……」
うつむき加減でそう言った。
「ふふふ、何言ってるのよスタロ。私には一瞬のときめきがあるのよ? 今より少しだけ若返ればアレも復活するってもんよ。」
「そ、そうっスか……」
それから数日の間、3人は図書館で伝承を研究したり歴史研究家を尋ねたり井戸端会議に花を咲かせながら情報収集した。
その結果、探していた森はアレクサンドからわずか15分ほどの距離だと判明した。3人は旅の支度を整えて森に向かった。
「盲点だったな。まさかこんなに近いとは」
「ええ、そうね。……ここに強力な結界がある。人除けと……他の魔法もかけてあるわ」
「いけるか?」
「私を誰だと思ってるの?」
ラウラが結界を解くと周りの景色が一変した。森は草原になり池や沼地も現れた。
「すごいっス! 急に動物も出てきたっス。あっ! あっちを見るっス。あの立派な角は!」
スタロは駆けていく。だがそれは2人が期待していたものではなかった。
「……サイだな」
「……サイね」
「飛べると思うか?」
「……サイが飛ぶわけないじゃない」
落ち込む2人とは反対にスタロはサイと戯れていた。スタロは笑いながらサイに吹き飛ばされた。
「アイツすげえな……」
不時着して2人の前に立ち上がり腕を前に突き出した。
「こんなん付いていたっス」
それはサイに付けられたネームプレートだった。名前はマーガレット。
「裏にも書いてる? 読みにくいわね。え~とバ、バ、ス、キ、デス」
「アイツが飼い主!? ただのペット自慢の話じゃねーか!」




