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試験


 クラッドイールムに帰り、エルレルさんの部下になって数日。

 グリムファーロンでの傷も癒えて本格的に復帰するという段階になって、俺を取り巻く環境は以前とは大きく違っていた。


「見ろよ、あいつだぜ。グリムファーロンの英雄」

「一人で魔物の大群を全滅させたってマジか?」

「流石に誇張してるだろ、流石に」

「いやでもあいつ、あの伝説の音騎士らしいぜ」

「騎士って言うよりサムライっぽいけどな、実際」


 本部を歩くだけでざわざわと会話が起こり、注目を集めてしまう。

 その中には敵意の眼差しを向けてくる輩もいた。

 以前にいたアーデンの部下たちを筆頭に、顔も知らないような連中が何人か。

 復帰初日から敵を作ってしまったようで、先が思いやられた。


「人気者だな、シオン」

「お陰様で」


 騎士団本部の一角にある、エルレル上級騎士専用室にて。


「随分とおしゃべりが多いようで」

「まぁ、そう言ってやるな。あの戦場を見たあとでは誰かに言いふらしたくもなるさ。そして聞けば確かめたくなる。実際、私も何度かそれとなく聞かれたよ」

「なんて答えたんです」

「いずれわかると言っておいた。期待しているぞ、シオン」

「ははー、精進します」


 掛けられた期待は大きい。

 それに潰されないように努力しないと。

 ようやく帰ってこられたんだ、また田舎町に移動になるのは御免だ。


「おっと、来たな。入れ」


 扉がノックされ、がちゃりと開く。


「失礼しまーす。お、そこの人が例の音騎士ですか?」

「英雄なんて呼ばれてるんだから、もっと筋骨隆々な奴かと思ってたぜ」


 入って来たのは二人組。。

 白くて長い髪を一つに結わえた銀色の瞳の女性と、金髪の短い髪に青い瞳をした男性。どちらも同年代ほどで身に纏う戦闘服は騎士団の所属を示していた。


「女のほうがイリーナ・ナナリータ、男のほうがフォン・ザッカーだ。二人とも優秀な騎士で、今日から組んでもらう」

「どもー、よろしくー」

「よろしく頼むぜ」


 ナナリータの口調は砕けていて、ザッカーの口調には勢いがある。


「あぁ、よろしく二人とも」


 差し出された手を順次握り、握手を交わす。


「そして早速だが初任務だ。このあとに始まる入団試験の警備をしてもらう」

「入団試験って」

「あぁ、ユキも参加している。無事に合格すれば四人目のメンバーだ。気になるだろうから手配しておいた。私に感謝しておけ」

「ありがとうございます」


 クラッドイールムに来て、ユキは騎士団に入ることを決意していた。

 そのほうが俺と長く一緒にいられるから、という理由らしい。

 数多の魔法を使いこなす魔女なら、入団試験も楽勝だろう。

 そう思いはすれど、やはり心配なことには変わりない。

 初任務がこれでよかった。エルレルさんの粋な計らいに感謝だな。


「話は以上だ。詳しいことは試験担当から聞くように」

「はい」


 三人揃って部屋を後にし、試験担当官の元へと向かう。


「ねぇねぇ、あれってマジなの? 魔物の大群を一人で全滅させたって」

「あぁ、マジだ」

「うっそー、ホントに? 誇張とかじゃなく?」

「じゃなきゃ辺境に飛ばされた俺がここにいる説明が付かないだろ?」

「たしかに。うわ、じゃあマジなんだ。すっげー」


 ナナリータの口調は時折少年のようになるようだった。


「なら、伝説の音騎士ってのも本当なのか?」

「そっちはどうか正直わからない。でも、そうかもとは思い始めてる」

「へぇ、自覚とか芽生えてくるもんなんだな」

「まぁな」


 それから質問したりされたりをしつつ試験担当官のもとに付く。


「すでに受験者たちを乗せた魔導車は出発した。我々もすぐに向かうぞ」

「はい」


 俺たちのほかにも数名の団体が魔導車に乗り込み出発した。

 本部を出るとグリムファーロンとは違った街並みが窓の外に映る。

 整備された道路には魔導車が走り、幾つものビルが建ち並ぶ。

 のどかな街並みとはとても言えない発展した景色を改めて眺めると、グリムファーロンがすこし懐かしく思えた。

 まぁ、戻りたいとは思わないけれど。

 試験会場まで向かう道すがら初任務の詳細を耳にしつつ、クラッドイールムをぐるりと囲む背の高い防壁を越える。

 そうすればすぐに目的地へとたどり着けた。

 数多の魔物が住処とする天然の森林。

 それを利用した試験会場は、俺が受験した時とまったく様子が変わっていなかった。


「うわー、懐かしー。受験して以来だよ、ここ来たの。あたし」

「大体そうだろ。この森に用なんかねーんだし」

「そうだけどさー、懐かしいじゃん」

「まぁ、そうだな」

「ユキは……」


 神妙な面持ちの受験生の中に視線を彷徨わせ、ふと目と目が合う。

 その相手は言うまでもなくユキだった。

 ユキは一瞬驚いた風な顔をして、そのあと嬉しそうに微笑む。

 俺はそれに軽く手を振ると、ユキは人混みに隠されてしまった。


「シオーン、持ち場につけってー」

「あぁ、今行く」


 振り返ってナナリータたちの元に戻った。

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