他愛のない話・缶の中身はなんじゃろな
「おはざーす」
「お、飯島じゃん。早いね」
俺が部室に入ると、そこには友人の田淵がいた。ホームルームの終了と同時に最速で部室に向かってきたというのに、まさか先客がいるとは。
俺は長机にスクールバッグを置き、田淵の正面に座る。
「今日はいいもん持って来たんだ。ほら」
そういって田淵が取り出したのは350mlの小さい缶飲料だった。何故か側面に黒い紙が貼ってあり、何の飲み物かはわからない。
「何それ?」
「缶の中身当てゲーム。これがなんだか当てられたら俺が、当てられなかったら飯島が飲む。そういうルールだ。さぁ、なんだと思う?」
「別にやらない」
俺はスマホをいじりながらそっけなく返す。
「そういうなって。あ、そういえば忘れてた」
そういって田淵は黒い缶をシャカシャカ振り始め、十秒ほど振ったところでドン、と勢いよく机に置いた。衝撃に長机が軋む。
「……何してんの?」
「今のがヒントだ。解答権は三回。商品名じゃなくて飲み物の種類でもいいぜ。さあ!」
仕方ない、絡まれ続けるのもうざいしほどほどに相手をしてやるか。
「缶を振ったってことは、炭酸系か?」
「いーや、どうかな?」
にやにや笑う田淵。楽しそうで何より。
「ゼリードリンクも自販機にあったな。振らなきゃ飲めないはずだから、それがヒントか?」
「そう思わせる罠かもしれんぜ?」
「コーヒーじゃないな。缶がもっと細長かった気がする。お茶って可能性は……あるな。お前のことだし」
「ふふっ」
これ以上は考えても仕方ないな。適当に答えるとしよう。
「じゃあ、コーラ」
「残念!コーラじゃない!」
「ソーダ」
「ソーダ、でもないっ!」
「ファ〇タ」
「違う、不正解!ってことで、ほら、飲め!」
田淵が缶を押し付ける。俺は仕方なくプルタブを開けた。……爆発はしない。炭酸じゃないな。
俺は慎重に口を付けたが、すぐにそれが杞憂であるとわかった。
「なんだ、ただのお茶じゃん」
「候補には上がってたんだが、惜しかったな」
「あれのどこがヒントだったんだよ」
「お茶って振ってから飲まないと成分が沈殿したままになるんだよ。知らなかったのか?」
確かに、ヒントとしては間違っていない。だが、
「いやわかってたよ、お茶だろうって」
「嘘つくなよ~。どうせ炭酸だろって思ってたくせに~」
「お前が自分で振った炭酸飲むリスク背負うわけねーだろ。お茶だったら別に飲んでいいしな」
「……相変わらずつまんねーヤツだな!」
……相変わらず賑やかな奴だ。
学生の頃はよく、友人たちとくだらない話に花を咲かせていました。当時は何とも思っていなかったけれど、時が経ち、今ではいい思い出になっていたりします。
このまるで中身のない千字を通して、少しでも皆様の過去を懐かしむきっかけになれたのなら、私も嬉しいです。